いくじなしマスカレード

失恋した。

同じクラスで、放課後はボーダーで行き先も一緒で。
前まではすごくそれが嬉しかったのに、今となっては最悪だ。
なんでこんなに顔を合わせる機会があるんだろう。
辛い。

というか、辻くんだって昨日の今日でわたしなんかと会うのは嫌に決まってる。
ただでさえ嫌いな相手なのに。


だから、辻くんの視界になるべく入らないように過ごすことにした。
クラスが同じとはいえ、喋ることはほとんどなかったわけだし。
というか、そういえばわたしたちが会話をするのって犬飼先輩がきっっかけになることが多かったような。

……犬飼先輩のばか。
辻くんとわたしがギクシャクしてるのを見るのがそんなに楽しかったのか。
なんかムカついてきた。

ぷんぷん怒りながら廊下を歩いていると、辻くんが目の前にいてびっくりする。

「え」
「…みょうじさん、今時間ある?話したいことが」
「ごめん!」
「みょうじさん!まって!」

なんで話しかけてくるの?
昨日のこと、なんんだか辻くんが悪いみたいな空気になってたから謝りたいと思った?

辻くんと話すことなんて何もない。
悪いのは辻くんに嫌われてるわたしで、辻くんは今まで通り生活してればいいのに。

なのに、行く先々に辻くんがいる。

「みょうじさん」

「みょうじさん、話を」

「昨日のことなんだけど」

何が起きてるの?
辻くんが自分から女の子に話しかけるなんて珍しすぎて周りの人も「何事?」て目で見てる。

その度逃げ回ってたら、すぐお昼休みになった。

……疲れた。

お弁当を持ってはやくどこか辻くんのいないところへいこうと教室を出ようとしたら席を立って明らかにこっちに来ようとしてる辻くんと目があった。

やばい。
冷や汗。
まるで戦闘中のような辻くんの真剣な目に貫かれて動けなくなる。

これで辻くんの話を聞いてしまったら、真正面から「みょうじさんのことが嫌いなんだ」とか言われるかもしれない。
そんなの耐えられるわけがない。
絶対逃げなきゃ。

「あ、おい、辻。ちょっといいか?」

まだ教室に残っていた先生が辻くんに話しかける。
今だ!

話しかけられて辻くんの目が一瞬そちらに向いた隙をついてダッシュ!
もうなんか誰も来ないでしょう、というような校舎の影にストンと座る。

「なまえちゃん、こんなジメジメしたところでご飯食べてんの?」

人の気配がして、どきりとしたのもつかの間。
犬飼先輩でホッとする。

「……犬飼先輩」
「朝から鬼ごっこお疲れ様〜」
「見てたなら助けてよ」
「無理無理。あんなに走り回る元気ないもん」
「好きであんなことになってるわけじゃないよ!」

本当にひどいな犬飼先輩。
わたしたちの必死の攻防をまたエンターテイメントとして消費している。

「…ていうか、こんなことになったのは犬飼先輩のせいでもあるんだから」
「え、人のせいにするの?」
「犬飼先輩が!辻くんにわたしを使ってちょっかいかけてより辻くんに嫌われたの!」
「それ誤解なんだけどな〜〜」
「…そりゃ、確かに元から嫌われてたみたいだけど」
「いや、そうじゃなくて」
「じゃあどういうことなのよ」
「う〜〜ん。これおれから言っちゃっていいの?」

犬飼先輩がちょっと困ったみたいに笑う。

「…もうやだ。しんどい。つらい。ボーダーやめようかな…」
「そんな大げさな」
「泣きそう」
「泣けば?慰めてあげないけど」
「ひどい」

ぼたぼた涙が落ちてくる。
辻くんのこと、好きだったなあ。
なんでこんなことになっちゃったんだろう。

ダンゴムシみたいに丸まってしゃがんで泣いてたら、犬飼先輩が頭撫でてきた。

「よしよし、かわいそうに」
「また子ども扱いする……」
「おれの方が年上じゃん」
「1個しか変わらないくせに…」






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