「え、なにそのキーホルダー。アニメのヤツ?ウケる」
一度も話したことがなかった同じクラスの男の子に、そう揶揄われた中学一年生。
好きなものを否定されるってこんなにショックなことなんだと知る。
好きなものをそんな風に言われて、すごく悲しくて、アニメやゲームを好きなことを隠すようになった。
高校に入って、今度は絶対に失敗しないぞと意気込んで。
清子先輩という美人に誘われて断りきれなかったわたしはバレー部のマネージャーになった。
「ナニ日向、こんなことも分からないなんて馬鹿なの?小学生からやり直せば?」
ひ、ひえええ!
こ、この感じは。
上から見下す視線に、半笑いで、ちょっと馬鹿にしたようなこの言い回しは!
中学のとき馬鹿にしてきたあの男の子を彷彿とさせるような月島蛍くんという人に入部早々ビビり倒す。
ああ、ダメだ。
日向くんも影山くんも山口くんも仁花ちゃんもみんなすごくいい人なのにこの人だけはどうしても怖い。
「あ、あの、月島くん、これ、タオル…」
「ん」
びくぅ!
すごい高いところから見下ろされて、威圧感。
なんにも言ってこないけど、日向くんや影山くんにはあれだけ毒舌だし、きっと内心「なにこの挙動不審女。はやくどっか行ってよね」とか思ってるかもしれない。
「はぁ」
「名前ちゃん、どうしたの?月島くんと何かあった?」
体育館の外に出て、思わずため息。
同じくマネージャーになった仁花ちゃんが気にかけてくれた。
「何かあったわけじゃないんだけど…」
「うん」
「わたしが、一方的に苦手で…なんか怖くて…」
「そうなの!?良かったら、次から私が月島くんにドリンクとか持って行こうか?人には得意不得意があるもんね!」
仁花ちゃんは本当に優しい。
その優しさに甘えさせてもらって、わたしは日向くんたちのところへ行くようになった。
日向くんはすごくフレンドリーだから、わたしみたいな暗い人間にもたくさん喋りかけてくれる。
「名字さんは好きなもんとかあんのー?」
「えっと、わたしはね」
「うんうん!」
「映画見たり…するのが、好き…」
「へー!オシャレ!」
「なにその安易な感想」
本当はアニメが大好きで、好きなアニメの劇場版は10回くらい見に行くなんて言えない。
絶対言えない。
そんなことを思っていると、月島くんが会話に入ってきた。
なんだとー!とか日向くんが言い返したりしているのをわたしは固まりながら眺める。
さっきまで、遠くの方に一人でいたはずでは…?
そしたら月島くんが不意にこっちを向くので思わず───────
「ひえ」
「え、なにその反応」
「ワハハ!月島、名字さんに嫌われてやんの!」
「きっ嫌いでは…」
「でもなんか距離あるよな2人」
嫌いでは、ない。
たぶん。
中学のときいじめてきたひとは月島くんじゃないし、あくまで似てるってだけで。
だからちょっと苦手で。
影山くんまで距離あるとか言ってきて、そんなに露骨に避けていたかなと反省する。
申し訳なくて、チラリと月島くんを見ると、目が合った。
「…僕だけ避けられてるの、ムカつく」
ああ、終わった。
▽
ムカつかれてしまった。
当たり前だ。
鈍感と言われている影山くんにすらバレるくらい避けてしまっていたのだから。
もうこうなったら不快にさせてしまった腹いせに何をされてもおかしくない。
今までは悪口を言われたりしなかったけれど、今日からは罵声を浴びせられたりするに違いない。
今日の部活行きたくない…
現実逃避。
HRが早く終わって少し時間があったので部室棟の近くでTwitterを開く。
えっ新キャラの声優さん発表された!?!?!?
公式アカウントのホームに飛ぼうとアイコンをタップしたところで後ろから気配を感じた。
やばい。
アプリを閉じようとしたところで、時すでに遅し。
声をかけられる。
「なにそれ?好きなの?」
ああ、部室棟の近くでTwitterなんて見るべきじゃなかったんだ。
こんな事態になることなんて、予想くらいできたはずなのに。
衝撃のあまり動けなくなっているわたしをよそに、月島くんはマジマジと画面を眺める。
「イケメンアイドル胸きゅん育成ゲーム…ふーん」
「ちっ違うの!これは、友達のRTでたまたま」
「へえ、がっつりフォローしてるみたいだけど?」
ホーム画面に飛んだところを見られたのが運の尽き。
画面には、フォロー中の文字が示されていた。
ううう。
「なんで隠すの?別にいいじゃん」
「だ、だって、月島くん、バカにするかもと思って」
「ハァ?」
月島くんが呆れたような顔をした。
「どうして僕がそんなことしなきゃなんないの?」
「つ、月島くん…よく日向くんのこと揶揄ってるから…」
「いじっていいのと駄目なのくらい区別付けてるつもりなんだけど?」
ど正論をぶつけられてしゅるしゅると小さくなってしまう。
そうだ。
月島くんはあの人とは別人で、日向くんや影山くんにはあんな感じだけれど、実際のところわたしや仁花ちゃんのような打たれ弱いような人間には同じような絡み方は決してしてこない。
「それは、名字さんの大切なやつなんでしよ?」
月島くんの声が、いつもより優しい気がした。
「……うん」
月島くん、揶揄ってこないんだ。そうなんだ。
完全に誤解してた。
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「ごめんね…わたし、中学の頃男の子に趣味を馬鹿にされたことがあって、月島くんはその人とは全然違うのに見た目とかちょっと似てて、勝手に怖いと思ってて」
「通りで…よりにもよって僕だけ好感度底辺だったわけだ」
月島くんがハ、と自虐するように笑う。
「ていうか、名字さんがそういうの好きなの、普通に知ってたし」
「え!」
なんで知ってるの!
驚きのあまり言葉が出ないまま月島くんを見る。
「名字さんていつも日向とかに好きなものなに?とか聞かれても無難なのしか答えない癖に、明らかにタイプが違う友達とクラスで仲良く楽しそうにしてるから絶対共通の特殊な趣味でもあるんだろうなと思ってた」
「ぐぬ…」
「会話には全然出してこないけど、すっごいニコニコして嬉しそうな日結構あるでしょ。部活中時間も気にしてるから部活終わりでも間に合う時間の趣味。名字さんて親に大事にされてる感じだから多分夜遅くに外出はしない。家の中でも支障ないやつ。そしたらすごい限られてくる」
「えっと…」
「なんか歌口ずさんでるときあるよね。全く有名じゃないやつ」
「う、うそ…」
「無意識だった?そうだと思ってたけど。それが余計カワ………なんでもない」
「カワ…?」
今もしかしてカワイイと言われそうになった…?
口が滑ったとでも言いたげに月島くんは口元を隠してそっぽを向いている。
あの、なんていうか、その。
「月島くん、わたしのこと結構見ててくれたの?」
「うん、まあそうだね」
「えっと、ありがとう」
「うん……」
理由がよく分からない。なんでわたし?
「なんでなの?」
「わからない?」
わからないというより、信じられないという気持ちで。
さすがに、そこまで鈍感じゃないけどほんとなんで?
謎すぎる。
沈黙していたら月島くんくんが言う。
「胸きゅんゲームのやり込み、足りないんじゃないの?」と。
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