はいダウト



黒尾のせいで一睡もできなかったよ!!!
黒尾が女の家に泊まったことは十中八九合ってる。はずなのに誤魔化してくるとは何事か。
私に不満があるのか。出来心でヤっちまったのか。
はたまた私と別れる前に別の女をキープしておく気なのか。

兎にも角にも真実を明らかにせねば…
寝不足で回らない頭を回転させながらキャンパスに足を踏み入れると元凶の背中が少し先に!

「木兎!」
「おー、名字おは、うわーーーっ!」

胸ぐらをつかんでTシャツを引き寄せる。
クンクン。いや、この匂いじゃないな…

「木兎…」
「えっえっなに!?」

いきなり匂いを嗅いだりしたので若干おびえる木兎。
キョロキョロ周りを見て挙動不審。

「一昨日、木兎の家に黒尾が泊まらなかった?」
「一昨日…?俺んちには来てねーけど」
「やっぱりそうか!!!」

ほれみろ嘘じゃん!
となるとあれは誰の匂いだ…?

重要なことなのでもう一回かがせてもらおうと木兎に近づこうとすると後ろから腕をつかまれて引っ張られた。

「コラコラ名前さん?なにやってんの」
「うわ!黒尾!」

本人が来ちゃったよ!

「露骨に嫌な顔すんな」
「えー?いや〜ははは」
「なに?俺に隠れて木兎と浮気?」

黒尾が半笑いで私を見下ろす。
木兎が大声で「俺と名字―?ナイナイ!」と笑い飛ばした。

「黒尾焼きもちやいてんのかー?」
「いや、あんな至近距離でくっ付いてたら誰でもビビるでしょ…」
「え?そんな近かった?」

夢中で匂いかいでたからわかんなかった。
黒尾がクルリとこっちを向いて、かがんだ。

「うん。こんくらい」

いや、近っ!近すぎ!
黒尾の顔が目の前に。鼻と鼻がくっつきそうなくらい。
ていうか私、木兎の服の匂いかいでただけなんだけど…

「ちかい!離れて!」
「…ん?なんか、お前…」
離れようと胸板をグッと押し返そうとしたら、右手で腕をつかまれて、左の親指で目の下を撫でられた。
黒尾の後ろで木兎がキャー!とか言ってるのが見える。恥ずかしい。

「クマすげえな。寝不足?」
「アンタのせいなんだけど」
「俺のせい?」

黒尾が眉間にしわを寄せたのを見て、ハッとする。
ヤバ。つい言っちゃったよ。寝不足のせいで頭回ってない。

「おい、いまのどういう…」


黒尾が言い切る前に、はしる。
あれ。なんで私が逃げなきゃいけないんだろ。悪いのは浮気した黒尾なのに。
幸い今日の講義は黒尾と被ってないから、顔見ないで済む。

でもさっきの黒尾、普通に優しかったな。もし別れようとしてるならあんなにやさしくすることもないし木兎と私が絡んでてもほっとけば良くない…?んんん?よくわかんなくなってきたぞ。

一限目が終わって、別の講義室に移動する。
何個か講義室を通り過ぎたら、中に黒尾の姿が見えて、思わず足を止めた。
隣に木兎が座ってて、携帯ゲームしてるみたい。

女の子と一緒じゃないことにホッとして、私も講義室に行かなきゃ、と足を進めようとしたとき、後ろから「黒尾くん!」て声が聞こえた。ドクン、と心臓が跳ねる。
ショートボブで毛先がくるんと内巻きになってる。たれ目で、唇がちっちゃい女の子。
小走りで黒尾の所に行って「これ、この間うちに忘れていったよね」と笑いかけた。

頭が真っ白になる。
この場にいちゃいけないってことだけ判断して、走る。

フローラルの香りがした。


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