きらきら、パチン



目が合ったのにびっくりして思わずどストレートな言い回しに!これはあんまりすぎる。


黒尾が、驚いたように目をぱちぱちしてるけど、でもあとには引けない。
ドキドキ。
冷静を装ってるけど、道端ですごい会話してる!
これで別れるって言われたらしぬ。しんどい無理。
とか。私、ほんとに黒尾のこと好きなんだなと知る。
今更すぎる。
自分で思ってる以上に重い女かもしんない。

「は?」

黒尾が、信じられないって目で見てきた。

「え?ちょっと待って。そういう感じ?え?」
「…」
「なんか昨日から話がこう…錯綜してるとは思ってたけど…別れるってなに?」
「別れたいんじゃないの?」
「誰が?」
「黒尾が」
「俺が?お前と?はぁ!?ふざけんな!」
「…」
「あ、いまのふざけんなってのはお前に言ってる訳じゃなく…」
「うん」

なんか、虚空に向かって言ってるなとは思った。

「え?てかなんで俺に判断委ねてんの?」
「ええ?そこから?」
「昨日の話的にどう考えてもお前が俺を振る流れだっただろ!」
「え?そうなの?私が黒尾を振るの?」
「いや、それは死んでもごめんだが!」
「……」

ちょっと黒尾どうしちゃったの。
見たことないテンパりように動揺する。

「お前俺の事大っ嫌いって言ったよな?」
「え?あ、…うん。そういえば」
「は?もしかして今忘れてた?」

え?マジで?一晩中気にしてた俺って…
黒尾が、小さい声でそう言って、分かりやすくドヨンとした。

「…一応気にしてたんだ…」
「一応とか、そんなレベルじゃねえよ…」

はあー、と大きなため息を吐いて、よし、と言われる。
なに?

「サボるぞ」
「え?ええ?」
「悪ぃけどいま木兎にすげぇイラついてるから代返とか頼む気にもなれねぇんだけどいい?」
「どうせ木兎じゃ…すぐバレるよ」
「それもそうか」

黒尾が「じゃあ、ハイ」と手を差し出してくる。

この手を、握ってもいいのだろうか。
一度芽生えた不信感は簡単には消えない。
握るべきなのかどうなのか迷っていると、耐えかねたらしい黒尾は強引に私の手を攫った。

思わず黒尾の顔を見ると、いつもの、どこか読めないような表情はなく、代わりに余裕のなさそうな表情があった。

連れて行かれた先は黒尾の住むアパート。
何度も来たことがあるはずなのに、怖くて行きたくないと思う。
だって、今まで私が気づかなかっただけで、例えば大して気に留めてなくて見たことがなかった靴箱に知らない女のサンダルがあったんじゃないか。とか。
洗面所の棚の奥の奥にはわたし以外の子の化粧水があったんじゃないか。とか。
前までなら私がいる前で堂々と女の子と仲良くしすぎてて逆に何にもないでしょとか余裕しゃくしゃくとしてたけど、今のこの疑心暗鬼の状態だったら他の女の痕跡、ひとつやふたつ探しだせちゃうかも…

すっかり怖気づいているわたしに絶対気が付いているのに、黒尾は自分の部屋にズンズンと進んでいく。
こわい。
嫌だ。

私の気持ちなんてお構いなしに着いてしまった黒尾の部屋。
ガチャリと鍵を刺して、先に入る黒尾。
後ろから玄関をおそるおそる覗く。
大丈夫。
女の靴はない。
深呼吸をして、足を踏み入れた。


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