純国産の愛ですから



狭い部屋の真ん中でスペースを占領している二人掛けのソファーに黒尾が座る。
私が立っている正面の位置を空けて。

隣に座りたくなくて、私は床にぺたんと座った。
そんな私を見た黒尾は少し傷ついた顔をして、問いかける。

「…よくわかんないけどさ、誤解なんだって…たぶん。名前の知りたいことは何でも話すからさ、隣に来てくんない?」
「嫌だ」


ため息をつく黒尾。

「なんで…」
「黒尾、絶対別れるって言うじゃん…」
「言うわけねーだろ!さっきも言ったけどなんで俺がお前を振らなきゃなんねーの!」

そうは言われても、やっぱり不安なものは不安なのだ。
いつになくネガティブ思考で面倒くさい私。

「黒尾、女の家に泊まりに行ったもん」
「いや、だからそれは女だけど別にそういうんじゃねーっていうか」

黒尾が「あぁ、もう!なんでこうなった!」と叫び出した。
ビックリ!なに!急に!

「木兎!アイツが酔っ払ったのが全ての根源だ!アイツ!マジで許さねえ!!」
「く、黒尾…?」
「いや、人のせいにすんのは悪ぃけど!確かに俺ももっとちゃんと断ればよかった!俺の甘えが招いた結果だ!」
「…」
「しかし赤葦も赤葦だ!なんってタイミングの悪いところに居合わせやがったんだ!思えばアイツがあそこにいなければここまで拗れずに済んだかもしれねえ!偶然とはいえ空気を読んだツッキーを見習って欲しいもんだね!」
「声大きすぎ…近所迷惑じゃない…?」
「それもそうだな。うん。一旦冷静になろうか」

グビーっと冷蔵庫の2リットルのペットボトルを一気飲み。
半分くら減ったところでフゥ、と息を吐いた。

明らかに飲みすぎ。
大丈夫なの?
黒尾がおかしいよ。
こんな、振り切ってるとこなんて見たことがない。

「はあ。ちょっとは落ち着いた」
「それは良かった」
「名前と別れるかもと思ったら興奮が収まんなくてつい」
「なんでわたしが振るみたいなことになってるの?」
「それはこっちのセリフだわ」

ええと。
どういうこと?

「昨日の流れだとどう考えても振られるのは俺だろ!」
「…わたしが黒尾を、振るわけない…」
「そうだよ。振るわけないと思ってたんだよ。名前が俺のことすごい好きなの分かってたし、だからなんかそれに胡座をかいていた自分がいた…俺のバカ…」
「過去形?」
「お前俺の事大嫌いって言ったじゃん…」
「だからそれは、勢いで」
「勢い!!」

黒尾がカッと目を見開いた。

「そう!お前はそうやって翻弄しただろ!マジでショックだったからなあれ!」
「ごめん…」
「二度と言うなよあんなこと」
「約束する」
「よし」

黒尾が腕を組んで頷いた。
なんか可愛い。

てちょっと待って。

「なんか、別れない方向になってる…?」
「え、ここまで来てまだ別れようとしてんのお前!」
「いやそうじゃなくて、なんかさっきから、黒尾…私の事すき、みたいな感じじゃん…」
「は?当たり前だろ」

当然、みたいな顔で言われて呆然とする。

「ちょっとは好いてくれてるのかなとは思ってたけど他の子と仲良くしてるからそんなに好きじゃないのかと…」
「お前そんな風に思ってたの!?!?」

黒尾がすごい勢いでソファから降りてきた。

「まあ、うん…」
「え…俺、そんなに冷たかった…?」

よほどショックを受けてたのか急に声が小さくなった。
振り幅が激しい。

「大切にしてくれてるとは思ってたよ」
「じゃあなんで」
「黒尾って倫理的なところはちゃんとしてるからそうなのかなと…」
「なんだそれ!」

つまり、彼女という存在である以上大切にしなければという義務感と、ほかの女とも遊びたい年頃であるという解釈をしていたと告げると黒尾は眉間を抑えた。

「なんだそのブレッブレの男…」
「…」
「女子と絡むと名前が露骨にヤキモチ焼いてんのが可愛くて好きでもない女子と名前の前でだけちょっと仲良くしてたら思いの外傷つけてたとか何それ」
「…」
「うわあ、もしかしなくとも、今回のことってそれも関わってたりするよな…ああ、だから浮気…俺、最悪じゃん…」
「えっと…」

ガックリ項垂れてる。
なんと声をかければいいのかわからなくて、言葉につまる。
黒尾だけが悪いわけじゃない。
黒尾の優しいところや意外と誠実なところを知っているというのに少しでもそういう思考に至ってしまった私だって最悪なのだ。
こんな黒尾を見るまで、疑ってしまっていた。
黒尾は、嘘をついてない。

「なんとなく把握したわ…全部一応繋がった」
「…私の誤解ってことで、いいんだよね?」
「うん…ほんとごめん」
「いいよ。説明してくれる?」
「もちろん」

「でもその前にひとついい?」
黒尾が言った。

「なに?」
「俺、名前のこと本当に好きだから。そこだけは今すぐハッキリさせときたい」
「…うん。ありがとう」

嬉しくて、泣くのを堪えながら精一杯笑うと黒尾がぎゅうう、と苦しいくらい抱きしめてきた。






BACK
TOP