夜鳴くじゅうたん



それから、私のことを「どうしよう。可愛くてしにそう」とか頭のおかしいことを言い始めた黒尾をちゃんと説明してよ、とジト目で睨んだ。
途端にキリッとしだす。
ほんとに黒尾?この人。

「名前も知ってると思うけど、事の発端は昨日の赤葦からの電話」

ソファに2人で座り直して、話を聞く。

「うん。木兎が暴れてたんでしょ?なんでか知らないけど」
「溺愛してる彼女に嫌われたって大騒ぎだったんだよ。まさか俺も次の日に同じ目にあうとは思わなかったけど…」
「…ごめんって」
「好きって言って欲しい」
「好きだよ?黒尾」
「安心した。話を続けようぜ」

性格面倒くさくなったなこの人。

「泥酔して手ぇ付けられなくなって、もうこれ当事者同士じゃなきゃ無理じゃね?という結論に至った赤葦と俺」
「月島くんは?」
「明日一限だからとか言い訳して帰りやがった」
「懸命な判断」
「で、木兎のスマホから勝手に彼女に連絡して来てもらったってわけ。そこで終わればよかったんだけど木兎が1人じゃ動けなくてな〜あの巨大な男を小柄なあの子に任せんのはさすがに可哀想だから彼女の家に入れるまでは手伝うことになった。赤葦は逆方向なのでと言って帰った」
「…」

木兎を殴りたい気分になってきた。

「なんとかベッドまで運んで帰ろうとしたら木兎が元気になってきちまって駄々こねんだよ。黒尾帰んな!って…ふざけんなよ」

憎々しげに語る黒尾。
さぞかし悲惨な目にあったのだろう。

「木兎の家ならまだしも彼女の家だし帰るつったんだけど…お察しの通りアイツにそんな理由は通用するわけもなく」
「泊まったのね…」
「彼女、すげえいい子で…明日同じ服着ることになっちゃうから洗濯してすぐ乾燥機に入れますよとか言ってくれて」
「だからあの柔軟剤の匂い…」
「素直に事情話して木兎の彼女の家に木兎と泊まったって言えば良かったな。曖昧な伝え方したからこうなった」
「いや、私もその場で詳しく聞けばよかった」

つまり、もうここに来てからは分かってたことだけど黒尾はずっと悪くなかったのだ。

「木兎の彼女って、ボブで、タレ目で、ちっちゃい感じの可愛い子でしょ?」
「そう。なんで知ってんの?」
「黒尾になんか渡してるの見たの。それで女のとこ泊まったんだと確信した」
「あー、充電器忘れて届けてもらったんだよな。あれも悪かった」
「あとカフェで挙動不審なのも私的には良くなかったよ…」
「あれな…」

あのとき真剣に会話してくれないんだなと絶望したんだよな。
とか、もう昔の話みたい。
今が確実に愛されてる自信があるから。

「あれ、お前気付いてなかっただろうけど、後ろに赤葦いたんだよ」
「えっ!?」
「しかもあのカフェ、月島とその彼女のバイト先」
「ひえ」

知り合いだらけじゃん。

「月島とその彼女はいなかったけど、赤葦が近くにいてビビったわ。しかも名前はなんかヤバい話してるし…気まず過ぎだろ」
「さっき赤葦くんが言おうとしたことってこれか」
「名前に大嫌いと言われて赤葦に同情される俺」
「現場ガッツリおさえられてんじゃん」
「アイツのことだから言いふらしたりはしないだろうけど、人生経験のひとつにされそうでなんかヤダ…」
「うわあ」
「ああいう態度とったら大嫌いと言われる。なるほどとか絶対今後参考にするでしょ」
「…赤葦くんは、そんなことしないと信じたい…」
「アイツああ見えて変わってるからな」

ふたりして、げんなり。
顔を見合わせて、笑う。
なにしてるんだろう。
すれ違いすぎ。

「赤葦のことなんてどうでもいいよ。それよりせっかく名前と仲直りできたんだからイチャつきたい」

黒尾が、ニヤリと笑いながら服に手を差し込まれる。

「誤解解けたからって手が早い」
「名前はそんな俺が好きなんだもんね」
「しかも自信満々」
「え?なに?そうじゃないの?」

黒尾の目が、ゆらりと揺れる。
ああ、黒尾も私と一緒で、本当は不安なんだ。
これからは、たくさん伝えていこう。

「くろお」
「ん?なに?」
「好きだよ」
「俺も」

ベッドに行くのを惜しむほど性急にキスをする。

きっと今日から私達は、面倒くさくて前よりもっと甘い。



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