家のベッドに寝っ転がっていたら、突然ボフン!という音とともに真っ白な煙に包まれてる感覚を味わう。

えっなに!?
ヴィラン!?

もくもくと白い煙が視界を遮ってて何が起きてるのか分からない状態。
急な出来事に寝転がった体制のまま固まる。
あんぐり。

やっと煙が晴れてきたと思ったら、目の前に誰かがいる気配があって目を見開く。
この部屋には私一人だったはずなのに。

誰!
えっ馬乗りされてる!?

顔の両隣に手をつかれて、太ももの間にも片足がねじ込まれている感覚を覚える。
これではまるで襲われているみたいじゃないか!

しかし馬乗りしてきているというのに一切攻撃されない…というか向こうも微動だにしないことからとりあえずヴィランではなさそう。と混乱する頭でなんとか判断する。

ということは発目明ちゃんがまた何か試作品を試したのだろうか。
彼女のトラブルメーカー具合は凄まじく、雄英の中でも新しい発明品を押し付けられる頻度が何故か高い1年A組はよくへんてこな事象に巻き込まれる。

…でも、人の部屋に侵入するような発明ってさすがによろしくないのでは…

勝手に結論づけていると煙がほとんど消えていることに気づく。
煙がなくなって、目の前にいた謎の人物と目が合った。
瞬間、両手を顔の横につかれて、身動きは元から取れなかったけれど、それとは別の意味でぴしりと固まってしまった。

目の前にいたのは、私が最も恐れている人物。
同じクラスの爆豪勝己くんだったのだ。








爆豪くんといえば、私はよく彼に睨まれている。

A組の中でもヘボヘボな個性である私は運良く入試を突破してヒーロー科に入学することが出来た。

前線に出て戦うような個性と言うよりは攻撃のサポートをする方が向いているから、それに努めようと努力はしているけれど、なかなか上手くいかない毎日。

爆豪くんとも何度かペアになったことがあるけれど、全然役に立てなくて、挙句の果てには敵チームの攻撃から助けてもらう始末。
本当に申し訳がない。

そんな微塵もヒーローに向いていない私に爆豪くんはイラついているようで、よくギロりと睨まれるのだ。

きっと私が存在してるだけでも嫌なんだろうな。
ヘマしてない日でさえ視線を感じるし、お茶子ちゃんやデクくんと話しをしたりするともう私は焼け焦げてしまうのではないか、と思うレベルでギラギラした目を向けられるのだ。

きっといつか私のこと狩るかどこかに埋めるかしようとしているに違いない。

爆豪くんと出久くんは幼なじみのはずだけれど、どうやら爆豪くんはデクくんのことを良く思っていないみたい。更にイラつき要因である私が一緒につるんでいることで怒りが倍増しているようだ。

でも、デクくんはとても話しやすいし、何より私の個性の使い方にアドバイスをくれるから自然とよく一緒にいるのだ。
とても強力な個性を持っているのに謙虚だし、私のヘボヘボな個性のことも「素晴らしい個性だよ!」と褒めてくれる。
デクくんといると居心地が良くて、ついつい甘えてしまう。









私を見下ろして、ポカンとしている爆豪くん。
爆豪くんて、こんな顔するんだ…
てそうじゃなくて。
ええっと。ええっと。
何が起きたの。
どうしてここに爆豪くんが。

思考停止している私に馬乗り状態の爆豪くんは、ハッとして口を開く。

「なんだ今の煙…」
「…」
「ん?おめぇなんか幼くなってねぇか?」

…んんん?なんか、話し方が…優しい?

マジマジと、見られる。

自慢じゃないけど私は爆豪くんとは業務連絡くらいでしか喋ったことがないし、なんならいつもなにかする度睨まれている。
けど、今回はそれとは全く違う視線で戸惑う。

ていうか私が目の前にいることになんで疑問を持たないの爆豪くん。

手を伸ばされて、反射的にギュッと目を瞑る。
あの手から、とんでもない爆発が生み出されていることは充分すぎるくらい知っているのだ。

しかし、目をいくら瞑っていても、ダメージはこなかった。

かわりに二の腕を触られたり、頬をぺたぺたされたり。
されるがまま。
えっなんでこんなに当然のように触ってるの。

挙句の果てには、胸まで揉まれた。

ひっ!

「や、やああああ!」
「うわっ何すんだてめぇ!」

む、むむむむむねを!揉まれた!
胸を揉まれた!

「なっなにするの爆豪くん!」
「ハ?」

わああ!
ハ?だって!
こわい!
ただでさえ怖いのに、上から見下ろされて、恐怖倍増。
怯える。
でも。さすがにこれは。

「さすがにこれはセクハラだよ!」
「セクハラも何もそれ以上のこともヤってんじゃねーか」
「それ以上のこと!?!??」

それ以上のこととは!?
なんだかよくわからないことを言っている爆豪くんに混乱。

爆豪くんと何故か普通に話してるのもよく分からないし、距離感が近いのが気になる。
なんでまだ馬乗りされたままなんだろう。
今にも首でも絞められそうな体制にドキドキが止まらない。
爆豪くんの機嫌を損ねたら終わるんじゃないか?私の人生。

当の爆豪くんは、私の困惑ぶりを見てさすがに変に思ったのか顎に手を当てて何やら考え始めた様子。
シーンとしてる。
デクくんだったら、ここでブツブツ言ってるだろうな。

「オイ」
「はいっ」
声が裏返った。

「今は何年の何月何日だ」
「え…?」
「さっさと答えやがれ」
「は、はい…」

意図のわからない質問におそるおそる答える。
そしたら爆豪くんが「そういうことか」と言った。独り言。

「てめぇ、タイムスリップしてきやがったな」
「ええ!?」

目眩が、した。







爆豪くんの話では、私は6年後にタイムスリップしてしまったらしい。
しかも、6年後の私と入れ替わっている。
つまり、6年後の私は今頃自分の家のベッドの上にいるということだ。

「なんで…」
「1時間前に未来のオメーが時間操作系の個性とかいう子どもにぶつかったんだよ。まさか時差で発動するとは思わなかったがな」
「爆豪くんがタイムスリップしたわけではないの…?」
「んなわけねーだろ。ここは俺の部屋だぞ」

言われて、見渡してみると、確かに私の部屋じゃない。

6年後ということは雄英を卒業しているということだ。
私はどうなっているか分からないけれど、爆豪くんは実力が桁違いなので間違いなくプロヒーローになっている事だろう。さっきは余裕がなくて気付かなかったけれど、よく見たら普段の爆豪くんよりも顔が大人びているし腕の筋肉もたくましい。

しかし、何故卒業しているというのに爆豪くんのお家に私がいたのか。
爆豪くんとはただのクラスメイトであり、お友達でもなんでもないのだ。
数年後でもきっとそれは変わらないはずだ。
何故ならわたしは爆豪くんに嫌われているから。

訳がわからない。
しかも馬乗りされていたという。
どういう状況。

もしや、私は雄英在学中に何か爆豪くんにしでかして舎弟とかになったんじゃなかろうか。
きっとそうに違いない。

一生舎弟になります、とか言ったのかもしれない。
でも取り返しのつかないミスをしてこれからころされるところだったんじゃ!
絶対そうだ!馬乗りされて、これから爆豪くんに爆破される寸前だったんだ!

「うう…デクくん…たすけてぇ…」

シクシク泣きだしたら、爆豪くんが、「アァ!?」てすごく大きい声を出した。
思わずビクゥ!となる。

「デクデク言ってんじゃねー!」
「ヒッご、ごめ」

ひ、ひえええ!
なんでそんなに怒るの!
未来の爆豪くんはデクくんの名前を呼んだだけでこの有様なの!?
二人の仲がより一層険悪に!
一体何が!


「なんっでおめェはいつもデクなんだよ!」
「ででででくくんは…良い人だから…」
「俺は良い人じゃねーってか!?」
「えっいや、それは」

爆豪くんが良い人!?
私をいま絶賛壁ドンならぬベッドドンして恐怖のどん底に突き落としている人が!?

ああ、でも。
爆豪くんがパートナーになるときは、いつも私にも攻撃の機会がきて、それでミスしてた。
みんなは、私がサポートに回るからって私が攻撃する暇を与えなくて、それが、いちばん良いって思ってたけど。
爆豪くんは、私にも前に出ろって言ってるように見えた。
実際、そうじゃなきゃ、プロヒーローになったら困る。
周りに頼ってばかりじゃいられない。
相澤先生にも、そんなようなことを、示唆されて、それで落ち込んでたけど、何とかしなきゃって前向きになったのは、爆豪くんがパートナーの演習のときからだったかも。

それに。
目立たない個性のせいで、なんであいつがヒーロー科に入れたんだ?とかコネなんじゃないの?とか食堂や廊下で言われることがあって。
お茶子ちゃんやデクくんや飯田くんがそんなことないって慰めてくれたけど、惨めで。情けなくて。
俯いてたら、急にそんな声が止んで、見たら悪口言ってた人たちが爆豪くんに怯えたような感じになってた。
あれって。
もしかして。

「爆豪くんは…いい人だった…?」
「疑問形にしてんじゃねー」
「ぶっ」

両頬を片手で掴まれて、タコさんの口にされた。

ポカーンとしてたら、フッて笑われた。
なにこれ。

「てめぇは俺のもんなんだから過去に戻ってもデクなんかと喋んじゃねーぞ」
「ええ!?む、むりだよ」
「無理じゃねー!もし喋ったらぶっ飛ばす」
「ひ、ひええ」

未来の私は爆豪くんのものになっているから過去の私もひっくるめて俺の言うことをきけと、つまりそういうことですね!
やっぱり舎弟になってたんだ!私!

ぶ、ぶっ飛ばされるのは困る。
でもデクくんと喋れないのはもっと困る。
デクくんは私の心の拠り所なのだ。

しかし目の前の爆豪くんを見ていると本当に過去までぶっ飛ばしにきそうなのでまもらなければならない。


「いいか。わかったな」
「で、できる限り…できる限りでガンバリマス」
「よし」

私がそういうと、爆豪くんは満足そうに笑った。
あ、可愛い。



ボフン!!!

「えっ」

大きな音がしたかと思ったら、煙が出て、爆豪くんが見えなくなる。
もくもくもく。

気が付いたら、自宅のベッドの上に一人でいた。

「ゆ、夢…?」

スマホを見ると、きちんと自分のいた時代の年数の日付が表されてる。


次の日、学校へ行くと、爆豪くんはいつも通りで、特に私に話しかけてくる様子もない。

「名字さん、おはよう!」
「あ、おはよう!デクく…」

ハッ!
極力話さないようにしなきゃいけないんだった!
あっでも、挨拶くらいなら大丈夫だよね…?

「ひっ!」

一応、爆豪くんの方をちらり見ると、バッチリと目が合ってしまった。
に、睨まれてる!

ぶっ飛ばしにくる爆豪くんのことばかり気にしていたけれど、この時代の爆豪くんも怖くて、私の頭はいつの間にか爆豪くんに支配されることになった。














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