昔から片付けが苦手だ。

出したものを元の位置に戻すのってなんでこんなに労力がいるんだろう。
出すときは簡単なのに。

そもそも物は出しっぱなしにしてた方が必要なときすぐに手が届いて便利!
だからあんまり片付けはやらなくていいような気がする。

つまるところ、わたしはかなりの出不精で。
できるだけ動きたくないし面倒臭がりだし、そんなにお家がキレイじゃなくても生きていける人間なわけで。

だから、おうちの下駄箱横に、出し忘れてしまったまま放置されてるゴミ袋があってもまぁ次のとき出せばいいやと楽観的になってただけで───────

「相変わらず片付いてないなあ〜どうしてそんなに面倒臭がりなんだ?」

わなわな震えているわたしを他所に、たむろくんは当たり前のようにゴミ袋を突き破ってリビングへ一直線。そして一人用のソファにちょこんと座った。

「腹減った。なんか作ってくれよ名前」
「その前になにか言うことあるでしょ!」

ドン!とテーブルをゲンコツで叩く。
思った以上に勢いがついてしまって「いてて」となってしまったわたしの手をたむろくんは両手で包み込んだ。

「大丈夫か?」
「いたい…」
「力任せにやるから」
「誰のせいよ」

キ!と睨むけれど、たむろくんはよしよし、とわたしの手を労わっていて全然きいてない。

「誰のせいなの?」

否、きいてたみたいだけれど、自覚が全くないらしい。

「分かっててきいてるでしょ」
「だって名前、そうやって怒るけど全然おれが来ても嫌そうにしてないだろ」
「別にたむろくんが来ること自体は嫌じゃないよ!」
「だよな。おれが来ると嬉しそうに飯作るもん」

ニコニコして「今日の飯は何かな〜!」とか言われる。
ぐううう。
可愛…じゃない!
負けちゃだめよ!わたし!

「玄!関!から!入ってきてって!言ってるの!」
「え〜〜〜?」

たむろくんが首を傾げる。

「ゴミポートの方が楽だからいやだ」
「やだじゃない!だめなの!」

ゴミからゴミへとテレポートするという超能力の持ち主であるたむろくん。

その能力はお仕事で役立てているらしく、使う頻度がすごく高いとのことで。
だから、こう、ゴミがプライバシーであるという認識が極端に薄いんだ。
ゴミにまみれることに慣れすぎて。

今日はゴミ袋だったけれど、ゴミ箱にテレポートされたこともあった。
あれにはブラジャーの値札とか入ってたからすごく焦った!
あと内緒で書いてる日記帳。恥ずかしくなって破いて捨てたはずのページでたむろくんが鼻をかんだときは失神するかと思った。
「え、名前ダイエットしてるのか?痩せる必要ないだろ」てダイエット食のパッケージを摘んで登場されたこともあった。

ふつうにデリカシーがないよ!たむろくん!

「ゴミポートと玄関から入るので何が違うっていうのさ。どっちにしろ家に上がるのにかわりないんだからなんでもいいだろ」
「やだ!わたしはたむろくんに見られたくないものだってあるの!いきなり現られても困る!」
「そんなものあるのか!?おれと名前の仲なのに!?」
「わたしとたむろくんの関係ってなに…」

恋人でも友達でもない。
ある日突然テレポートしてやってきたたむろくん。
そういえばあの日って、なぜかたむろくんは傷だらけだったっけ。
仕事帰りとか言ってたけど、スタントマンかなにかなのかな?

「…たむろくんってなんの仕事してるの?」
「スパイ」
「……」
「なんだよその目!ほんとうだよ!」
「もういい!またそうやってからかって!」
「ほんとうなんだって!」

ふざけてばっかり。
超能力使える時点でふざけた存在なんだけれど。

「嘘つく人はゴミポート禁止!」
「あ!ずるいぞ!」
「たむろくんが悪いんじゃん!」
「おれは嘘ついてない!」
「なんでそんなにゴミポートしたいの?あ!気軽に来れるご飯屋さんだとでも思ってるんでしょ!」
「はあ〜〜〜!?名前に会いたいから来てるに決まってんだろ!?」

たむろくんが、なんでわかんないの?っていうような口調で言った。
え?
たむろくん。
会いたいからってなに?

しーん。
沈黙。

たむろくんが不思議そうにわたしを見てる。

「急に黙ってどうしたんだよ。気絶でもしたのか?」
「……逆になんでそんな平然としてるの?」
「なんかおれいまおかしいこと言った?」
「……おかしいことっていうか…」

あれ、これってわたしのほうが変なのかな?
たむろくんが堂々としすぎて動揺してるこっちがおかしいみたい。

「…たむろくん、わたしに会いたくてここに来てたの?」
「じゃなきゃ来ないぞこんなゴミ屋敷」
「そんなに汚くない!」

思わず反論。

「汚いだろ!なんで床に未開封のポテチが落ちてるのさ!」
「あれは…すぐに食べられるように…」
「コップ多すぎる!一人暮らしでおれしか人入れないくせにこんなにあったって意味ないだろが!」
「洗うのが面倒くさくて」
「沢山あるから洗わなくなるんだろ!」
「………」

おっしゃる通りすぎて何も言えず。

「あのなあ、おれだって別に好きでゴミまみれになってるわけじゃないんだからな。寝るならキレイなベッドがいいし、毎日掃除機をかけた部屋で生活がしたい」
「そう」
「なのにわざわざこんな汚いとこにしょっちゅうテレポートしてるんだぞ?名前に会いたい以外の何があるって言うんだよ」
「ええ…?」

たむろくんが、真剣な顔で怒ってくる。
えっと。
なんというか、とりあえず。

「……今度から、お部屋、キレイにしとくね」
「だめだ!ゴミポートできなくなるだろ!」
「え!」
「ここまで歩いてくるの面倒くさい!汚いのはいやだけど名前ん家はそのままでいい!」
「ゴミ箱くらいは置くよ!」
「出てくるとき狭いじゃないか!」
「知らないよ!」

つまるところ、わたしは面倒臭がりで、たむろくんも面倒臭がりなのだ。
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