柳生くんの白く骨ばった指先が私の喉を撫でる。喉仏から鎖骨にかけてのラインを確かめるように、ゆっくりと手を降下させていく。眼鏡の奥の彼の目はいつもと同じ色であるが、時々違う目をしていることに私は気づいている。
柳生くんは私を殺したがっているのだ。


生徒の声も先生の目も存在しない汚いこの静かな空間は、私たちが落ち合うのにはぴったりな場所だった。至極なれた手つきで服を脱ぐ柳生くんのこの姿は、きっと学校の人たちには信じられない光景だろう、と思う。ネクタイがするりと柳生くんの首もとから解けていき、普段見ることのできない部分が微かにあらわになる。


「こっちにきて、柳生くん」


私はその姿に理性というものを忘れ、自ら彼をシーツの上へと誘い込んだ。罠を張るかのようにスカートをあられもなく捲し上げ、白いままの太股を曝す。柳生くんは顔色一つ変えずに私の上に覆い被さってきて、首元にキスを落とし、からかうように耳元で小さく嘲笑した。


「はしたないですね」
「うん」


柳生くんの手が、私の首にかけられる。動脈を触っているのが分かった。さながら生死確認をしているかのような落ち着いた柳生くんの手つきに、首元への執着がおおいにみてとれる。いたずらに顎を上げて喉を付きだしてみると、首に添えられた彼の手に一瞬力が込められて、反射的に体が強ばってしまう。


彼は噂通り品行方正で礼儀正しく、みんなから一目置かれている優等生で、誰にでも平等な優しい人だった。まさに絵にかいたようなお手本で、彼を疑わしく思う人なんてひとりもいない。いつも皺のない制服を身にまとい、髪を露とも乱さずに、正しいことだけを口にする。当然私もそう思っていたし、そんな柳生くんに好意を寄せていたのも事実だ。


柳生くんの綺麗な手が私の首をじわじわと絞めていく。一気に力をいれてとどめを刺すことが目的ではないようで、嬲っていくのが好みらしい。気道を圧迫するのではなく、喉全体を絞めていく。これによって意識を落とすことが少なくなり、息の続かない苦しさのみを与えることができるのだ。少しでも少ない酸素を確保しようと私は短い呼吸で必死に喉を震わせる。心臓の鼓動が早くなり、内側から生を急き立てていく。私を上から見下ろす柳生くんの目は、笑っていた。


人間の本質は皮膚の下に生きている、というのが彼の持論だった。皮膚を剥いでしまえばそこにあるのは自らの欲のみであり、生き物は皮ひとつでつぎはぎ誤魔化していると。私は柳生くんの本質を見たくて仕方なかった。普段見せている姿とはまた別の彼に心惹かれていた。


絶頂と息苦しさは似ているといつも思う。彼の手の下で痙攣し、私の性は満たされる。そして柳生くんは、また私を仕留め損ねたと冷えた目で私を見つめる。

柳生くんは私を殺したがっているのだ。

殺意


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