はじまりの冒険


 風を感じた。
 くらくらする頭を働かせて重たいまぶたを開けば、雲一つない青空が視界に映る。
 少年期に経験した登山で見た空より美しい蒼穹そうきゅうは、意識を失う少し前に見た空と同じくらい綺麗。

「ぅっ……ここ、は……?」

 ぽっかりと空いた天井から見える風景を眺めていると、酷い倦怠感けんたいかんに顔を歪める。
 意識がはっきりと覚醒して、ゆっくりと体を起こす。
 白い石造りの壁に、床には魔法陣。この魔法陣の上に眠っていたようだ。
 床に刻まれた魔法陣は二重の円を描き、隙間に複雑な文字、中心に七芒星が彫り込まれている。

 七芒星ヘプタグラムには、完了と調和の意味がある。『七』は古代から祝福・勝利、堅固さ、神秘、知識、学問、研究、分析、瞑想めいそうを暗示させる。星占いでは土星・天王星と結びつきのある数字。また、人間の頭部にある穴も、虹の色も七つ。効果は宇宙の最高の力、魔除けの護符ごふ、男女の調和。そして七芒星の辺が持つ意味は、自由、よろこび、知恵、愛、顕現けんげん、平和、合一ごういつ。無限の可能性を秘める意味がたくさん詰まっている。

 どうしてこんな見覚えのない所にいるのか不思議になって首を傾げる。


 ――刹那、脳裏で意識を失う前の映像が浮かんだ。


「――あ。そうだ」

 ここで思い出す。私がここにいる理由を。
 私は突然死したのか、この世界――エルピスカイノスの創造の原因……根源に漂っていた。
 虚無の海の中にいた私は、そこで哲学的な思考をしたからか称号を得て、異世界の神ディオン様と女神エリーゼ様によって、神界から人界に送られた。
 新しい肉体と祝福と加護を与えられて。

「えーっと……〈ステータス〉?」

 確かそれで自分の情報が判るって言われたはず。
 呟いた途端、頭の中にゲーム画面のようなものが浮かんで、目で見たいと反射的に思えば目の前に透明のスクリーンが現れた。



名前:シーナ
年齢:15
種族:古代族
職種:□□□
属性:【火】【水】【風】【地】【光】【闇】
体力:B
魔力:EX
攻撃:A
防御:C
幸運:EX
状態:□□□
罪科:□□□
恩恵:【創造神の祝福】【女神の祝福】【根源の祝福】
称号:【異世界の転生者】【世界に祝福される者】【神々の愛娘まなむすめ】【根源の観測者】【隠匿いんとくの人種】
ギフト:《言語理解・会話》《総合限界突破》《知識獲得リーディング》《精霊眼せいれいがん》《強運》《魔力高速充填じゅうてん》《宝物庫ほうもつこ
スキル:□□□
ユニークスキル:《時の奏者》《万能戦闘ばんのうせんとう》《神隠れ》




 この世界のステータスは数値化されないようだ。数値化された方が何かと便利で助かるのに。
 ていうか魔力と運、すごくない? EXって、確か最高ランクだったと思う。ギフトにある《強運》のおかげかもしれない。《宝物庫》は……アイテムストレージで有名なアイテムボックスのことかな?


ギフト:宝物庫
詳細:妖精族や古代族のみが有する能力。空間内の時間は止まっており、付属ふぞくしているインベントリに分けられる。生きているものは入れられない。


 なるほど。念じれば詳細を確認できるのか。

「古代族って何だろう?」

 知らない種族に小首を傾げて念じる。すると、簡単に情報が浮かんだ。
 なになに、と興味津々に読んでいく内に……引きった。


種族:古代族
詳細:世界を混乱におとしいれようとする魔王をつために、神によって創られた種族。姿形は人族と変わらないが、体の一部に神と同じ若しくは似ているものを持つ。膨大な魔力を持ち、古代語による古代魔法が得意で、神力を有する。他種族と違い、一定まで成長すると魔力の影響で老化現象が止まる。各地に存在した痕跡である遺跡が発見されているが、滅亡したと言われている。天命てんめいを全うすると『楽園』に行き、後悔を持って死ぬと転生すると伝承にある。寿命は千代〜二千代。


 その、あまりと言えばあまりのことに衝撃を受け、思わずってしまった。

 魔王を討つ種族? 私に魔王退治をしろと? 面倒な種族に転生したなんて……憂鬱すぎる。ていうか寿命、長いな。精神的に無理だわ、これ。老化現象が止まるのは女性として嬉しいことだけど、他人に知られないために隠れないといけないのか。だから【隠匿の人種】って称号があるのか。凄く納得。
 あ、そういえば私の瞳、右眼がディオン様で、左眼がエリーゼ様の色だ。髪は黒だけど、瞳だけでも二人の色が宿っている。だから古代族……ばれないかな? なんか不安。

 じゃあ、続いてギフトの確認。《精霊眼》は精霊を視る眼、《強運》はそのままだから、それ以外を表示。


ギフト:言語理解・会話
詳細:ありとあらゆる言葉も文字も理解し、会話や読み書きができる。


ギフト:総合限界突破
詳細:理解する度に、あらゆる部門を習得する。際限さいげんがないため、能力値が急成長する。


ギフト:知識獲得リーディング
詳細:アカシックレコードから様々な情報を得られる。意識が世界の記録層に入るため、検索中は無防備になる。


ギフト:魔力高速充填
詳細:世界中の魔素マナと自然界の気を驚異的な速度で吸収するため、一秒間に多くの体力と魔力が回復する。魔力欠乏症けつぼうしょうになっても一時間足らずで全快する。


 滅茶苦茶めちゃくちゃ便利でありがたいものだった。エリーゼ様いわく、称号によってギフトを取得できるって言っていたっけ。二人の神様と根源の祝福のおかげで、こんなにも貰えるのか。
 しかも《知識獲得》は世界の全ての記憶――アカシックレコードと意識を繋げることができる。
 ちなみにアカシックレコードは、元始からの全ての事象・想念・感情が記録されているという、宇宙誕生以来の全ての存在について、あらゆる情報が蓄えられている世界記憶の概念だ。

 この世界にも概念がいねんの専門用語があるなんて驚きだけど、地球と変わらないものがあることに安心感を覚えた。
 得した気分を味わいながら、続いてユニークスキルを確認する。


ユニークスキル:時の奏者
詳細:世界の時間を止めることも巻き戻すこともできるが、未来へ進む場合は未知数の分岐点の中からランダムに選ばれる。応用で特定の時間を操れる。


ユニークスキル:万能戦闘
詳細:知名度は低いが高度な特殊能力の技術の部類に入り、様々な戦い方に通じることができる。特に何に通じているというのではなく、どんな武器、素手でも一流以上の使い手であることを表す。また、初めて触る武器であっても大抵の使い方が解り、扱うことができる。流派がなく、混ぜこぜになった戦い方を行う場合もあるため、生かすも殺すも使い手の実力に関わる。


ユニークスキル:神隠れ
詳細:別の情報欄を作成し、個人情報の隠蔽いんぺい偽装ぎそう、他人からの鑑定かんていや魔眼による影響を受けず、アビリティーやスキルを守ることができる。


「うっわぁー、チート……」

 チート大歓迎だけどね? これはやりすぎだよ。まぁ、《万能戦闘》は前世でも知っている特殊技能だし、《神隠れ》があればチートな情報を隠せる。《時の奏者》は壊れた物を元に戻すこともできそうだし……うん、ありがたく受け入れよう。
 その時、ピン!という音のようなものが頭の中に響いた。


 ――スキル《予測》を習得しました――


 どうやらスキルを手に入れたようだ。こんな簡単でいいの?
 色々と疑問が浮かんだけど、今は状況把握が優先しないと。

「まずは……《知識獲得》」

 早速だけど、《体力・魔力の高速充填》で気になる単語を見つけた。
 それは「マナ」。地球にも超自然的な力の観念として専門用語にはあったけど、この世界では一体どんな意味があるのか。
 瞼を閉じて意識を沈めると、根源の中にいる時と同じ虚無感を体感した。その中でマナの情報を検索すると、マナではなく魔素の知識が頭の中に流れ込んできた。


用語:魔素マナ
詳細:自然や空間に偏在へんざいする超自然的な力。魔素は単に一つの力、存在であるのみならず、一つの作用、資質および状態である。換言かんげんすれば、この語は名詞であると同時に形容詞、動詞でもあり、言葉で持って示している雑多ざったな観念を包摂ほうせつしている。つまり魔素は資質であり、実態であり、力である。動植物に宿る魔素はカリスマ的魅力の一部である魔力。魔力を持つ者は、自然界の魔力である魔素を自動的に吸収して体内で自身の魔力に還元かんげんして回復する。


 どうやらこの世界での「マナ」は「魔素」として扱われているけど、地球での「マナ」の概念と混ざっているようだった。
 アカシックレコードから意識を切り離して、意識を現実に戻した。

「次は、《宝物庫》」

 何でもいい。何かが入っていると助かる。
 ステータスの画面を消して念じると、《宝物庫》のリストのスクリーンが目の前に現れた。
 中に入っているものは、一ヶ月分の食料である木の実、薬、素材、武器、装備。
 食料があるなら、当分は餓死がししないでいられそうだ。木の実は林檎りんごと……?


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