序章




 とある世界の星に、広大な大陸があった。
 いびつな円形は、どことなく菱形ひしがたに見えなくない。

 不思議な形をしたこの大陸には、偉大な竜が住んでいる。
 天地開闢かいびゃくの原初から存在する、唯一神の使いである竜神。
 全てを知り、全ての竜のとなり、全てをべる存在。
 万物のおさである彼を祖に持つ竜は温厚で思慮深く、世界の全てを見守ってきた。


 星が構築され、竜神という存在から竜が生まれて幾星霜いくせいそう
『人間』という種族が誕生した。
 時代によって知能を得た人間は小国を作り、その縄張なわばりを守りつつ広げていった。


 そこまではいい。問題はその先にあった。


 知能が発達した人間は、いつしかより豊かな縄張りをねらい、争いを繰り返した。
 差別的な地位ができ、多くの命が失われ、人々は苦しんだ。

 大陸に血が流れ、大地がすり減る。
 世界が混沌におちいりそうになり、ただ世のいとなみを見守る存在であった竜が動いた。

 竜神は唯一神の命により、竜によって大陸を治めるよう告げたのだ。

 おろかな人間の王達は罰を下された。
 唯一神は、竜神から直接誕生した竜を竜王と定め、五つの大国を作り上げた。


 東に火竜が統治する、火の国。

 南に水竜が統治する、水の国。

 北に風竜が統治する、風の国。

 西に地竜が統治する、地の国。

 そして、竜神と同等の力を持つ混沌の竜は、大陸の中心に国を作った。


 混沌の竜を竜帝と定め、竜王は竜帝にしたがい、大陸全土を統べる。

 やがて戦乱の世は収まり、約百年の間に大陸は再びうるおいを取り戻した。
 それにより竜帝の直轄の小国のそれぞれに人間の王を立て、発展をうながした。
 以来、人々は竜をあがたてまつるようになった。


 建国から八百余年。
 竜の庇護ひごの下、人類は繁栄し、ゆたかな暮らしを送っていた。




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