大切な誕生日


 10月14日。綱吉の誕生日だ。
 けど、綱吉は前日の家庭教師の誕生会で全身骨折した。
 原因は、右腕を自称する忠犬君の無茶な手品のせい。種も仕掛けもない手品って手品じゃないんだけど!

 突っ込みどころ満載な誕生会のせいで、綱吉は現在入院中。仕方ないので、プレゼントを持って病院に行くことになった。


 並盛中央病院に到着したのは3時半。
 遠隔透視クレヤボヤンスで綱吉の病室を確認すると、綱吉以外誰もいなかった。
 ほっとしたけど、途中で綱吉の友達が通り過ぎた。

 あ、危なかった……!
 まだ関わりたくなかったから、心臓が嫌な音を立てるほどびっくりした。
 急いで病室に行って、扉をノックして――。



 昨日、リボーンの誕生日だった。
 ボンゴリアン・バースデーパーティーっていうヘンテコなものに付き合わされたせいで、病院で誕生日を迎える羽目になった。

 毎年誕生日になると、六華の家で祝ってくれることになっていたのに……。
 六華はたぶん、オレが入院していることを知らない。
 六華抜きの誕生日は寂しくて、物足りなく感じる。

 せっかく獄寺君や山本、ハル達が祝ってくれたのにな……。
 まあ、ランボがケーキを踏んづけたせいでケーキ抜きになったけど。

 重々しい溜息をついた時、病室の扉をノックする音が聞こえた。
 誰だろう、と思うと……。

「綱吉、大丈夫?」
「六華!?」

 なんと、六華が来てくれた。
 病室に入った六華は眼鏡を外して、ベッドの横にあるパイプ椅子に座った。

「元気そうでよかったけど……どうして入院?」
「えっ、えっと……ちょっと複雑骨折して……」

 どうやったら複雑骨折になるんだ。それを説明できないのが歯痒はがゆい。
 六華は眉を下げて、オレの頭をそっと撫でた。
 瞬間、体中が温かくなって、全身の痛みが少しずつ引いて行くのを感じた。

 まさか、ヒーリング?

 六華は超能力を持っている。その中の一つのヒーリングで、幼い頃から助けられた。
 この温かな心地はいつも好きで、ほっと安心する。

「……はい。あと三日で完治するようにしたから。いきなり全快だとおかしがられるし」
「あ……ありがとう」

 嬉しくてはにかめば、六華は安心して笑顔になる。やっぱり六華の笑顔は癒されるな。

「これ、プレゼント」

 そう言って持って来た箱から小さめのホールケーキを出した。
 六華特製のフルーツケーキは、上にイチゴ、中に桃やみかん、パイナップルがあるから好きなんだ。

「わ、うまそー」
「それと、これ」

 鞄からラッピングした小さな袋を出した。
 六華が開けて見せてくれると、それは綺麗なストラップ。オレンジと水色、透明のビーズでできたストラップ。その先端に王冠クラウンのシルバーアクセサリーがついていた。

 まさか……これって……。

「手作り?」
「うん。ストーンビーズで作ったの」

 六華は毎年手作りの何かをプレゼントする。中でもストーンビーズは一番お金をかけている。
 前回はブレスレットだったけど、ただ繋いで輪を作った感じだった。

 こんなカッコイイものをプレゼントしてくれるなんて……。

「すっげー嬉しい。ありがと、六華」
「うん」

 お礼を言うと嬉しそうに笑う六華。

「誕生日おめでとう」

 六華の祝いの言葉だけで、今年もいい誕生日になったと感じられた。


◇  ◆  ◇  ◆


 綱吉の誕生日では、手作りケーキとストーンビーズで作った王冠クラウンのシルバー付きストラップをプレゼントした。
 これを渡した時の綱吉はとても喜んでくれた。達成感から私も嬉しくなって、次の誕生日が楽しみになった。


 でも、私の誕生日の前に大切な子の誕生日がある。

 ――12月5日。凪の誕生日だ。

 その日は平日だから当日に祝えなかったけれど、休日に祝う約束をしていた。
 手頃な鞄に携帯電話と財布を入れて、電車で向かった。
 凪に連絡を入れると、いつもの公園で待っているそうだ。

 10時に黒曜の公園に行けば、冬服を着た凪がいた。
 出会った時に触れ合った白猫とたわむれていて、見ているだけでなごむ。

「凪、久しぶり。誕生日おめでとう」
「! うん、ありがとう」

 白猫が膝から降りて、どこかに行く。
 見送った凪は私のところに小走りで来た。

「どこに行くの?」
「ジュエリーショップとオルゴール店かな。オルゴール店だと凪も楽しめると思って」

 鞄からパソコンで調べた地図を出して、黒曜の商店街へ向かった。

 商店街の一角に、目的地である大きなジュエリーショップがある。
 店に入れば、多種多様なアクセサリーがずらりと並んでいた。
 ネックレス、ブレスレット、ピアス、イヤーカフ、ストラップなど。
 初めて見る凪は興味津々で見渡していた。

「すごい……」
「うん。見て回ろうか」

 凪をリードして、アクセサリーを見回る。
 ふと、凪があるところで止まった。
 よく見ると、そこに飾られた猫と、その猫を嵌め込めるシルバープレートがあった。
 値段は2000円。私の所持金を考えたら……買えるかな。

 シルバーネックレスを取って、近くにいる店員さんに訊く。

「すみません。これってペアルックですか?」
「そうですよ。これに合うチェーンも見ますか?」
「はい、お願いします」

 次に飾られたチェーンだけのコーナーに行って、微細なシルバーチェーンを見つけて買った。

「買ったの?」
「うん。はい、これ」

 別々の包みに入れてもらうよう頼んでいたから、猫のネックレスが入ったものを渡す。
 凪は驚いて受け取り、中を見て驚いた。

「え……いいの?」
「ん。ペアルックだからね。友達ってあかしになるかなーって」

 友達という証。そういうのにあこがれていたんだ。
 凪は猫のネックレスを取り、大事そうに握った。

「ありがと」
「どういたしまして」

 嬉しそうに笑った凪。やっぱり笑顔が似合う。

 ちょうどお昼の時間になったので、近くのしゃれたお店でパスタを食べた。
 次に向かったのはオルゴール店。
 知っている曲や知らない曲、珍しい形の箱や、おもちゃ型のオルゴールといろんな種類があった。
 初めて見る私達は目を輝かせて眺め、最終的に小さくて安いオルゴールを買った。

「楽しかったね」
「うん。……!」

 その時、凪の携帯電話から着信音が聞こえた。
 メールだったみたいで、画面を見た凪は眉を下げた。

「……ごめん。そろそろ帰らなきゃ……」
「あ……わかった」

 もう少し一緒にいたかったけど、凪の事情を考えると仕方ないよね。

「そうだ。冬休みだけど……25日、予定ある?」
「え。……ない」
「じゃあ、その日にクリスマスデートしよう」

 笑顔で言うと、凪は目を丸くした。

「……デート?」
「うん。女の子同士だと、デートって言葉はおかしいけど……逢引あいびきと言ったらデートだからね。今度はクリスマスケーキを食べて、プレゼントを交換し合おう」

 どうかな?と提案すれば、凪はほおを赤く染めて嬉しそうにうなずく。

 よかった。これで断られたらどうしようかと……。

「じゃあ、約束」
「……ん、約束」

 一緒に指切りして、公園で凪と別れた。


 こうして、友達の誕生会は穏やかに終わった。




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