▼ 序章
「伏せろ!!」
満天の星空が美しい、ある日の夜。
静寂に包まれる心地良い時間だというのに、ある建物から爆発する音が響いた。
窓から投げ込まれた爆弾のせいで、整えられた調度品はボロボロに変わり果てる。
室内にいた三人の人間も、所々に怪我を負った。
「く…罠か…」
「レナータ!」
「!!」
壁際に倒れていた男性が頭を押さえて起き上がった時、悲鳴が聞こえた。
顔を上げると、柔らかな金糸の髪の女性が、倒れている女性を抱き起していた。
急いで駆け寄り、薄目を開いた女性――レナータを見下ろす。
「……えれ……ぶじ……?」
掠れた声は弱々しい。
命の灯火が消えかかっていると感じた女性は、大粒の涙を浮かべた。
「ど……して……? どうして庇ったの!?」
「……しんゆう……だから……」
弱々しく微笑むアリシアに、溜まった涙がこぼれ落ちた。
「あなたは……まさか、こうなることを……?」
戸惑う男性が声を絞り出すと、レナータは苦笑した。
それは肯定だった。
「あなた、は……ボンゴレに……なくては……なら、ない……」
「それはレナータも同じよ!!」
憤>りを込めて叫ぶ女性に、レナータは力無く笑う。
「あなたが、しんだら……でい……は……ふみはずす、から……」
未来を見通したレナータの言葉に、二人は目を見張る。
「……あの、ひと、に……ごめん、て……つたえて……」
「な……にを、言っているんですか、あなたは……!」
焦燥感に駆られてレナータの手を握る。
そして、瞠目する。さっきまで温かかったはずの体温が、氷のように冷たくなっていたから。
「えれ……。わたしが、あいし……た、ボンゴレ、を……おね、がい……」
「ま……待って。お願い、待って! レナータ!!」
必死に呼びかけるが、レナータは柔らかく微笑む。
声が遠い。目の前も暗い。
それでも最期まで笑った。
「だい、すき……だよ…………あり、が……と…………」
微かな声で思いを伝えたレナータの瞳が閉ざされ、こめかみに涙が流れた。
呼吸が……心音が止まる。
けれどレナータは、変わらず穏やかな微笑を浮かべていた。
まるで、いつものように眠っているような、あどけない顔で……。
「レナータ!! ぃ……いやっ、いやあああああぁぁぁ!!」
女性の慟哭が響き渡る。
いくら泣き叫んでもレナータは帰ってこない。
わかっていても、泣かずにはいられない。
その夜、一つの命が儚く消えた。
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