東堂尽八には姉がいる。

箱学No.1の美形を自負している東堂にも敵わない人がおり、それが元箱学No.1の美女、双葉である。
双葉自身、そんなポジションに居るなんてことは思ったことはないのだが、東堂は双葉のことを美しいと豪語出来る。
東堂にとって双葉の存在は大きく尊敬に値する人物なのであった。



週末、東堂は実家である老舗旅館 東堂庵にやって来ていた。
祝日が金曜にあり丁度オフだったので、久々に帰ってみるかと足を運んだ次第である。
東堂庵に入れば母親が出迎えてくれた。
そして、夕飯を用意するから休みなさい、と言ってくれたので東堂はその言葉に甘えることにした。

「汗を掻いたからな。よし、風呂に入ろう!」

脱衣所にバスタオルと着流しを持ち込み服を脱いで風呂場に入る。
シャワーで冷水を浴びるより、ゆっくり浸かり身体を癒すことを選択した東堂は、ほかほかと湯気のあがる浴槽に身体を滑らせた。

「ふう…、いい湯だ」

湯を手で掬ってちゃぽちゃぽと遊ぶ。
寮の風呂に入る時はシャワーで済ますので今回のようになかなかゆっくりは出来やしない。
程良く温まった東堂は湯からあがり、馬油入りシャンプーで髪を入念に洗う。
隅々まで身体を洗い、そういえば巻ちゃんにまだ電話をしていなかった。後で掛けよう、と物思いに耽ること数分。
小さく嚔をしてしまったのでそろそろ上がろうと脱衣所に続く扉を開けた。

「尽ちゃん居たの」

東堂は固まった。
目の前に会いたいと思っていた姉、双葉が下着姿で立っている。
恥ずかしがることなく寧ろ堂々と仁王立ちで、

「私は腹ペコだ。尽ちゃんの作る肉じゃがが食べたいのだが」

その声に我に返った東堂は慌てて

「姉上!今直ぐ服を着るのだ!!」
「風呂に入ろうとしているのに何故また服を着ねばならぬのだ…尽ちゃんこそ服を着ねば風邪を召してしまう」
「オレは後でいいのだ!服を着るか湯船に浸かるかせねば、」

下着を脱いだ双葉は東堂の頭にぽん、と手を置き軽く撫でた。

「気遣い感謝する。風呂から上がったら久々に尽ちゃんの話を聞かせてもらおうか」

ぱたんと扉が閉まる。
東堂はその場にへなへなと座り込んだ。
出るところは出て引き締まるところはきゅっとくびれている、れっきとした女性の身体だった。

昔はよく一緒に入っていたのだが…。

改めて東堂は双葉が美しく綺麗だと思った。
東堂は紅に染まった顔を隠すように俯く。

見られた。

ただそれだけのことだが東堂にも羞恥心というものが存在する訳であり、幾ら身内であるからと云えどやはり双葉に見られたことが恥ずかしくて。

「電気…ついていたのだが…」

双葉の堂々とした姿に東堂は疑問を覚えた。わざと、なのだろうか。

「ああもう!」

バスタオルでごしごしと髪の水分を抜き、着流しを着て形を整えた。


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