『ねぇ、太宰さん』
「んー?なんだい?」
『兎が寂しいと死んでしまうっていう話、あれ眉唾ものらしいですよ』
「そうだろうねぇ」
『知っていたんですか?』
「何と無くね」
引きっぱなしの布団に俯せで読んでいる愛読書から視線を外さずいる彼の背中に上半身を横たえながらそんな話をしていると、何時の間にやら本を置いて体勢を変えた太宰さんに後ろから抱きすくめられた。
「兎よりも君の方が寂しいと本当に死んでしまいそうだ。私がこうやって少し本を読んでいるだけで寂しがってしまうしね」
『…寂しがってません。酔っているんですか?』
こんな少量じゃ酔わないよ、なんてこれだけ呑んで何を言っているんだと半分以上が空になっている一升瓶を横目に言いたくなったが、生憎この人が上戸だという周知の事実がある為そのままもう何も言うまいと押し黙った。
「心配しなくても君が死ぬ時は私と一緒だ。君の呼吸が止まるその瞬間まで寂しい思いなんてさせないから安心し給え」
『そんな心配していません』
「照れ屋さんだねぇ」
何時もの締まりのない笑顔でそう告げる彼の身体を抱きすくめる腕と首筋に降りてきた温かな唇に、認めたくないが少しの安堵感を感じながら私は瞳を閉じた。