あまくてやわくて
うそみたい


「ねえ」

今日はなんだか、黛くんの距離が近い気がする。なんでだろう、彼も寂しかったりしたんだろうか。私の仕事が忙しかったせいで全然会いに行けなくて、かといって彼がこちらに会いに来る訳でもなくて。そうしてだんだん積もっていった、お互いがいない時間の厚みは、彼にもちゃんと感じてもらえたんだろうか。

「……ねえってば」
「あ、ごめん。なあに」

黛くんの顔を見つめたまま考え事をしていたせいで、返事が疎かになっていたみたい。だって、黛くんかっこいいんだもんなあ。ずっと見ていても飽きない。そんな黛くんの顔は、今はちょっぴり、しかめられていた。

「名前こそなあに、だよ。さっきから俺の顔ガン見してさあ」
「そうかな」

私、そんなに黛くんの顔見てた?本人に言われるくらいだから本当なんだろうけど、完全に無意識だった。なんでだろう、ずっと会えなくて寂しかったからかな、それとも、

「かっこよかったからかなあ」
「……まあ、確かに、そんなに悪い顔立ちしてる訳ではないと思うけど。あんまり言われたことはないかな。……ありがとう」
「あ、口に出てた?」
「うん」

一見いつもと変わらない表情、変わらない声音で、こくんと頷く黛くん。でも、私には分かる。いつもよりほんの少しだけ唇がむってしてるし、声の抑揚がいつもよりついてる。……分かりにくいけど照れてるんじゃないかな、これ。

「嘘じゃないよ」
「名前が嘘をつくような人だとは思ってないけど……」
「黛くん、中性的な顔立ちしてるけど、よく見るとちゃんと男の人っぽい所もあっていいよね。実は背も高いし。私そういうの好き」
「……ありがとう」

もっと分かりやすく照れてくれないかなと思って、普段は言わない本音を語っていく。すると、今まで合っていた目線がするりと外れてしまった。
黛くんは、斜め下の方を向いて指先をいじっている。結構いい感じかもしれない。まだ押せるな。

「あ、あとねえ、指先とかも好きだよ。黛くんの手、そんなに大きい訳じゃないけど骨ばっててかっこいいと思う。爪の形も綺麗だし、ネイルしたら映えそうだなあ」
「ネイルしたら映えそうって……。俺は別にネイルしないから、宝の持ち腐れじゃない?」
「じゃあ、今度ネイルしてみてもいい?」
「う〜ん……別にだめな理由はないけど」

言おうと思えばいっぱい出てくるもんだなあ、黛くんの好きな所。そりゃそうか、私と黛くん、結構長い間一緒にいるんだもんなあ。それでも今まで面と向かって言ったことはあんまりなかったから、ちょっと新鮮。

「あ、あとねえ」
「待って、ちょっと待って」
「なに?」
「……それ、いつまで続くの」
「なにが?」
「なんかすごい褒めてくるじゃん。嫌な訳じゃないけど……まあ、恥ずかしいし」

待って、という言葉と共に、指先をきゅっと握られる。見ると、長い袖の先から覗く、先程褒め倒した黛くんの手。どうやら、私の手を握ってまで制止したかったらしい。彼の方を見上げると、頬がほんのり赤い。肌が白いから分かりやすいなあ、ちょっと可愛い。

「ごめん、なんか照れさせてみたくなっちゃって」
「なんでいきなりそんなこと思いつくの……。もう成功したからやめていいよ」
「そっかあ」

触れ合っていた指先が離れていくのが寂しくて、思わず黛くんに抱きついた。小さく声をあげた黛くんは、びっくりしながらも受け止めてくれて。ほら、こういう所も、ちゃんと男の人。

「今日どうしたのさ。なんか変だよ」
「ずっと会えなかったから、寂しかったのかも」
「……俺の方から会いに行けば良かったね」

名前の迷惑になるかと思って、と言いながら私の頭を撫でる黛くん。表情は見えないけど、優しげな顔をしてるんだと思う。だって、いつもそうだから。

「黛くんは寂しかった?」
「……寂しかったよ。名前に会いたいなあって、よく思ってた」
「そっかあ」

ああ、幸せだ。黛くんと一緒にいられて、お話して、手を握って、抱き合って。こんな時間がずっと続いたらいいのに。

「ねえ、好きだよ」
「うん、俺も」
「俺も?」
「……俺も、すき」

黛くんの言葉は、私の鼓膜を揺らした後に、空気にとろけてすぐ消えた。でも、私の中にすうっと溶けて馴染んでいった。きっとずっと、忘れないんだろうなあ。私の中で黛くんが、これから先も大事な人であるといい。そう祈って、この瞬間を噛み締めるように、そっと目を閉じた。

照れるはなし。
2020.6.24