あまいごほうび


照りつける紫外線は思いのほか強くて、アスファルトに反射して私たちの足元をじわじわと焦がしていく。隣を歩く黛くんは、今にも指先とかから溶けだして地面に染みていきそうな感じだ。

「あっつい……」
「そうだねえ」

こんな夏真っ盛りの時分に黛くんが外出しているのは、他ならぬ私の弛まぬ努力のお陰と言うべきか、せいと言うべきか。黛くんからしたら後者だな。ど〜〜しても黛くんと一緒に行きたいカフェがあったのだ。なんで黛くんと一緒じゃなきゃいけなかったかっていうと、夏限定メニューのフルーツパフェがカップルでお越しのお客様限定、とかいう浮かれた仕様だったから。私がよく通っている所だったからホームページを見て愕然とした。行きたい、食べたい、いやでもこの季節に黛くんを外へ連れ出すのはほぼ不可能では?なんて思った。でも、それからの私は頑張ったのだ。黛くんにいつもより多めに愛の言葉を囁いたり、お気に入りのお菓子を差し入れしまくったり、あとなんか、一緒に寝たりした。その結果、優しい黛くんが二日で折れてくれた。「お願いだから普通に接して」なんて言葉もついてきたけど。
今はそのカフェに行った帰り道。何処か寄ってこうかと思ったけど、黛くんがこの調子だからな。とっとと家に帰って休ませてあげなきゃ。夏の間にもう一回くらい一緒に何処か行きたいなあ。気温の高さも相まって普段よりもぽかぽかとした黛くんの手を引きながら歩いていたら、突然手を引っ張られた。というより、黛くんが立ち止まったみたいだ。

「黛くん?どうかした?」
「ね、ここ入んない?」

そう言って黛くんが視線を向けたのは、全国チェーンのアイスのお店。三十一種類フレーバーがあるのが名前の由来らしい。絶対それ以上種類あると思うけど。

「さっきパフェ食べたのに?」
「甘いものは別腹って言わない?あと休憩したい」
「まあ確かに」

歩いてた時より心なしかちょっと元気になっている黛くんにおされて、入店。冷房の効いた店内は外より何倍も涼しくて、黛くんが隣でふう、と息を吐いていた。

「何食べよっかな〜」
「俺始めてきたかも」
「え、ほんとに?」
「うん、施設の人がテイクアウトしてきたの食べたことはあるけど」
「なるほど〜。じゃあおすすめ教えてあげよう」

それなりな人数が列を作っていて、買うまでにちょっと時間がかかりそう。でも迷う時間ができるしちょうどいいかな。ゆっくりと動く列に身を任せながらショーケースの中を覗き込む。

「あ、俺これは食べたことあるよ。美味しかった」
「分かる〜。それとても美味しい。あとこれも美味しい」
「ふぅん……」

おすすめのフレーバーを教えてあげる度に興味深そうにする黛くん。いつもは私が黛くんに何かを教わることが多いから、なんだか楽しい。あと何か美味しいのあったっけ、とショーケースの中を眺めていると、店員のお姉さんに元気よく話しかけられた。

「期間限定フレーバー、良ければご試食どうぞ〜!」
「あ、ありがとうございます〜」

小さなカップとピンクのスプーンを受け取って、ちょこんと置かれた黄色のアイスクリーム。ぱくりと口に含むと、すっと爽やかなレモンの風味を感じた。美味しい!
黛くんはと見てみると、なぜだかしんみりとした雰囲気を醸し出していた。……そんなに美味しかったの?お姉さんにもう一度お礼を言って、カップとスプーンを渡す。

「美味しかったね」
「うん、俺あれにする」
「そっか」

いつもクールな黛くんが途端に小さな子供に見えた。今日は発見が多いな。アイス屋さん入ってよかったかも。
そんな事を思っていたら、やっと順番が回ってきた。私はいつも食べているお気に入りのフレーバー、外は暑いからという謎の言い訳を脳内でした後、三段を選んだ。黛くんは二段と三段で迷ってたみたいだったから、後ろから三段にしよう、と囁いたらちょっと笑って三段にしてた。やったね。
購入したアイスを持って、店内のイートインコーナーの一角に向かい合って座る。一番下のアイスが既に溶けだしてコーンに垂れていたので、慌てて舐めた。

「黛くん美味しい?」
「おいしい」

ピンクのスプーンでちまちまと一番上のアイスを掬う黛くん。よっぽど美味しかったのか時折目を細める仕草をしていて、見ていてなんだか嬉しくなった。そして、ちょっといたずらしたくなった。

「黛くん、あ!」
「……外だよ」
「一回だけ!」
「…………しょうがないなぁ」
「ん、ありがと!おいしい」
「そりゃよかった」

口を開けて黛くんを呼ぶと、渋々ながらもスプーンを差し出してくれた。すっと広がるレモンの香り。私が考えたいたずらが成功するのは珍しい。普段は外でも家でもあーんするのもされるのも嫌がるのに、黛くんも実は浮かれてたりするのかな。
そんな調子でぱくぱくと食べ進めていたら、気づいたらコーンまで食べ切っていた。先端のちょっと硬い部分を咀嚼しながら黛くんの方を見てみる。黛くんはちょうど一番下のアイスを食べ始めたみたいだ。……黛くんもしかしてアイス食べるの遅い?

「……あまって……今頭きーんってした……」

頬杖をついて眺めていたら、突然そんなことを言いながら目を瞑って渋い顔をするもんだから笑ってしまった。目を開けた黛くんに恨めしそうに睨まれる。ごめんってば。

「……ちょっと待って。すぐ終わるから」
「ゆっくり食べていいよ〜」

ちまちまとアイスを口に含む黛くんを向かい側で見つめるのも悪くない。おねだりしたら、もう一回あーんしてくれたりしないかな。

アイスを食べるはなし。
2020.5.10