たからものはここにあり!


「ちょっと!」

ちょうど玄関の鍵を閉めた時、静まり返った住宅街に聞き慣れた声が響いた。とってもいいタイミングだ、流石私の幼馴染。

「やっほ〜刀也、こんばんは〜」
「はいこんばんは、……じゃなくて!なんですかこんな時間に呼び出して!あとその薄着はなんだもう少し防寒しようという意識を見せろ!冬だぞ!」

登場して三秒も経っていないのにつらつらとよく回るお口で説教を垂れるこいつは、私の幼馴染の剣持刀也。努力家で喋るのが上手くて人気者で世話焼きで、幼馴染である私にやたらと甘い男。こんな時間に呼び出してわざわざ来てくれる所もそうだし、面倒臭くて防寒具を一切つけていなかった私に自分のマフラーをぐるぐる巻いてくれる所も、甘い。

「全く。これで少しは暖かくなったでしょ」
「ありがと〜。さ、じゃあ行こう!」
「待て待て待て」

意気揚々と一歩踏み出すと、何故か刀也に腕を引っ張られて止められた。なんだ、こんな時間だからとっとと用事を済ませて帰してあげようと思ったのに。

「なに、刀也」
「いやだから、僕まだどこ行くか聞いてないんですって」
「LINEで言わなかったっけ?お腹空いたからコンビニ行くのついてきて!」

満面の笑みで告げる。普通の友達相手ならこんな自己中心的なわがまま言えるはずないが、刀也になら、まあ、大丈夫。生まれてから今までずっと一緒にいたんだ、わがまま言っても許してくれるって分かってる。

「……いやまあそんなことだろうとは思ってましたけどね。行くならとっとと行きましょう」

ほらね。ため息つきながらもちゃんとついてきてくれるし、愛想つかしたりなんかしない。ありがたいなあ。私にあまあまで優しい幼馴染に心の中で感謝して、二人並んでコンビニに向かった。



△▼△▼△▼



「ね、ね、刀也」
「はい?」
「ん!」

深夜に幼馴染に呼び出されて向かったコンビニ。こんな時間なのにも関わらず存外人はいて、なんと会計のために並んでいる。そんな小さな待ち時間に、例の幼馴染が何やら言っているので耳を傾けてみたら。ん、と言ってある方向をぴっと指差しているので追ってみると、どうやらレジ横のホットスナックの保温機を指差していたらしい。ほとんど中身が無くなってがらんとしている保温機の中に、ぽつんと一つだけ売れ残っていたのは、唐揚げ。

「……欲しいんですか?」
「買ってください」
「しょうがないな……」

やった、とにこにこしている彼女を見て自分の口角がゆるゆると上昇していくのが分かる。やめろ剣持刀也。抑えろ剣持刀也。僕は剣持刀也だぞ、いくら幼馴染の言動が可愛すぎるからっていきなり笑い出したりしねえんだよ。ぎゅ、と眉間に力を込めて何とか誤魔化そうと試みたが、せいぜい笑顔からにやけ面に変化したくらいだろう。
僕が一人で葛藤している間にも着々と時間は進み、無事会計を終えて唐揚げもきちんと買って、店を出た。それを渡した時の「ありがと〜!」という嬉しそうな顔にもう一度にやけそうになったが、今回は何とか耐えた。偉いぞ剣持刀也。あとはこのまま彼女を家まで送り届けるだけ……だと思って油断した。帰り道に上機嫌で、買ってあげた唐揚げをぱくぱく食べているのを可愛いな、と思ってぼーっと眺めていたんだ。そしたら、「いっこ欲しいの?あげるよ、あーん」なんてしてくるから、なに、死にそう。あーんに動揺して固まっている僕を怪訝そうに見つめて、唐揚げの刺さったつまようじをふらふらと揺らしている動作すらも可愛く見えてきてもうどうしようもない。なんだって言うんだよ、もう。

「刀也〜?要らないの?私食べちゃうよ?」
「……もらいます」

やべえ、気合い入りすぎてやたら力強い返事しちゃった。彼女の方をチラ見して様子を伺うが、何も気づいていない模様。なんともない顔で僕の口元につまようじを近づけてくる。……ええい腹を括れ剣持刀也!こんなこと恥ずかしくもなんともないだろ!!
ぱくり。
つまようじに噛み付くような勢いで唐揚げを掠め取る。一見この事件は何事もなく終わったように見えた、が。

「っ〜〜!!」
「え、なに、刀也どうしたの?!ほっぺどうしたの?!」
「つまようじささった……」

気合い入れすぎて、ほっぺの内側につまようじ刺さった。どういうことだよ、なんであーんされてつまようじがほっぺに刺さるんだよ。おかしいだろ。恥ずかしすぎるわ。

「ねえ、刀也ほんとに大丈夫……?」
「きにしないでください……」

ちくちくと痛む頬を抑えながら、心配そうにしている幼馴染と目を合わせる。こんな真冬にそんな薄着で出てくるなよ。だいたいあんたがこんな時間に呼び出したせいで僕のほっぺにつまようじが刺さったんだぞ。いくら心の中で悪態をついても、頬の痛みは収まらず、胸の鼓動も収まらず。……くそ、だめだ、可愛い。

深夜のコンビニに行くはなし。
2020.6.24