# 06 유학


「2人とも高校はどこに行くんだ?」

社会人チームでセッターをしている高橋は、久々に練習に顔を出した中学生2人にそう声をかけた。スポーツドリンクを煽っていた日向と影山が揃ってこちらを向く。
大学生や社会人がメインのこのチームにおいて、中学生2人組はとにかく目立った。加入したいと彼らがやってきた最初の頃はチーム内から反対意見もあったのだ。割とパワー系のチームだったし、学校の部活と違ってきちんとした指導者がいる訳でもない。そもそも中学生のレベルでゲームについて来れるのかという問題がある。しかし、体験加入でそれらの懸念——技術不足、メンタルなど——を見事消し去ってくれた2人組は、時折ふらりと現れてはこちらが引くほど打ちまくって帰っていく。
そんな彼らがここ数ヶ月はあまり姿を見せなかったので高橋は初め心配していたのだが、誰かの「都立の一般入試もうすぐだからじゃないですか?」という言葉に膝を打った。そういえば中学3年生だった。高校受験があるはずだ。
その2人が久々に現れたので、思い出したように尋ねたのである。
今は3月。一般入試の結果もそろそろ発表される時期だ。

「結局、内部進学することにしました」

ふーん。と聞き流し、それから「え?」と聞き返す。
日向と影山が通っているのは超有名な進学校だ。大学附属であるため、一応は内部進学で大学まで進むことができる。けれどそれにはそこそこ厳しい内部試験を受ける必要があった筈だし、そもそもその高校には。

「え? だってお前らんとこの高校にバレー部あった?」
「一応あるみたいです。でも強くないです」
「えっ、それでいいの?」
「まあ……ちょっと揉めました。最初はやっぱりバレー強い高校も調べてたんですけど、俺たち2人とも親が凄く反対して」

親が、と口にした時の日向の顔つきが酷く静かなものだったので、高橋はそわそわした。普段明るくて元気いっぱいの子供なので、妙に大人びた達観したような表情を浮かべられると途端に別人のような印象になる。

「あの人たち結構、学歴とか好きなんで。デカめの喧嘩もしたんですけど、色々あって、まあいっかって」

何でもないことのように話す日向とその隣で黙ったまま汗をタオルで拭う影山に、これは2人の中でもう結論づいたことなのだとわかる。
それはそうだ。もう3月で、あと数週間もしたら卒業式を終えて新しい制服で新しい学校に通うタイミング。受験問題が既に終わった話なのは当然だった。
けれど、社会人である高橋にとって、これはなあなあにしてはいけない事のように思う。彼らの親の言い分も正しい一面はあるのかもしれないが、もし彼らが望む進路を抑圧されているのであれば、誰かが手を差し伸べてやるべきではないのか。それも、彼らのバレーボールの才能が潰されているようなこの状況なら。

「お前らはそれでいいのか? 納得してんのか!? おい、方法なんて色々あるんだ。一緒に考えることだって出来るんだぞ」

急に大声を上げた高橋に、日向と影山はびくりと肩を跳ね上げた。こういう仕草は2人とも何故か似ている。
それから、影山が真面目な顔で「はい」と言った。

「色々考えて納得しました」
「マージか!? あのな、バレーのプロで食ってくなら高校か大学で全国大会に行かなきゃ話にならん。今の日本のバレーボール界はそういう仕組みだ。俺は、お前らなら絶対プロでも通用するって思ってる。今安易に諦めて欲しくないんだよ!」
「高橋さん詳しいっすね」
「一般常識だわ!」
「……確かに、うちの高校はバレー部弱いです。でも、海外行こうかなって思ってるんで」
「あ? ……海外?」
「流石に高校そのものを海外のとこにするには準備足りなかったんで諦めたんですけど、腐っても進学校なんで、メチャメチャ留学制度整ってるんですよ。だからもう、高校はそれ使って海外に沢山行って、そっちでバレーしてみたいって思ってるんです」

明るい声でそう言う日向が、細めた目で「……あの親も、海外留学だったら全力で金出すって言うので」と続け、これはもしかして相当な家庭内バトルが勃発していたのかと高橋は一歩後退った。

「人は失って初めてその価値に気付くってホントだなって思いました。前はどれだけ家族に恵まれてたのかって思っ……イッテェ!!」
「え!? 影山いまなんで日向殴った!?」
「ボケだからです」
「今ボケてた!?」
「グゥゥ……」

痛みに呻く日向が、ぶるると頭を振り、それからぐっと顔を上げて高橋を真っ直ぐ見つめる。

「とにかく、大丈夫です。俺たちちゃんとバレーボールのこと考えてます」
「ッス。それに、別に高校バレーも諦めてません。弱くたって、メンバー揃えて練習して、行けるとこまで行きます」
「なー! 今回は大学行ってみてもいいし」

ワイワイし始めた日向と影山を見て、高橋はとりあえずほっとした。