夜闇に浮かぶ『闇の印』の下で眠れる少女――クィディッチ・ワールドカップの夜に起きた事件を、完全に忘れてしまった者はそうそういないだろう。魔法省がひた隠しにしてきた被害者の少女と、我々は面会することができた。カナ・エリオットという名の十四歳の少女は、小さな体を震わせていた。まだあの夏の恐怖が身に染み付き、心に暗い影を落としているのだろう。怯えきった青い瞳が、『大人は信用できない』と訴えている。『恐ろしい呪いを受けたんです。誰も守ってはくれませんでした。どうして私が狙われたのか、大人たちは話してくれません。役人さんがちゃんと調べてくれているのかどうかも、わかりません・・・・・・このままじゃ、私、不安で、夜も眠れないんです』と、エリオット嬢は涙ぐみ、同じ女性である記者にだけは話してくれた。魔法省には早急な調査と、信頼回復が求められる。このあわれな少女を支えてくれる大人は、イギリス魔法界には果たして現れないのだろうか――」
 魔法薬学教室の机の下で、カナは「日刊予言者新聞」をガートに押し返した。
「あんたが本当にこんな話し方をしてたら、あたし、自分の記憶を疑うところだった」こそこそと話すガートはちょっぴり楽しそうだった。「やっぱりでっちあげなの?」
「こんなの、ぼく喋ってない」カナは怒ったように言った。「魔法省で働いてるロンのお父さんから手紙が届いたと思ったら――ぼく、自分が発言してもいないことで責められるなんて」
 羽化直前のタマムシの蛹をすり鉢で押し潰しながら、カナはぶつぶつ言った。リータ・スキーターにしてやられた。おかげで、アーサーおじさんに迷惑がかかっている。心配した旨の手紙に、カナは釈明を返信をしなくてはならない。
 その後も、カナの元に各地の魔女や魔法使いから励ましや慰めの手紙が何度も届いた。心配の言葉は的外れだし、魔法省を悪く言う言葉も多かったので、カナはそのほとんどの手紙をきちんと読まなかった。
 そんなこんながあったせいか――医務室に行ってマダム・ポンフリーに「イエス」と言うだけのことを、数日も先延ばしにしてしまっていた。カナは集団で役割を持つのは初めてだったし、自ら決断を知らせに行くと言うのはなんとも気恥ずかしい気持ちになった。
 朝食の席で、友人に囲まれたハッフルパフの上級生が、カナに気がつくとウインクを送ってきたこともあった。ヴィヴだ。しかし、彼はカナが慎重な性格だと思ったのか、それ以上近づいたり話しかけてきたりはしなかった。

「カナへ。
 エリアとともにきみの手紙を読ませてもらった。ハリーの身に起きていることは、わたしたちも日刊予言者新聞で目にしたよ。それに、きみのことも二面に載っていた・・・・・・魔法省が隠していたあの夜のことを、あの女はどこから嗅ぎつけたんだか。しかし、新聞記者のことはあまり気にしなくていいだろう。トーナメントが始まれば、話題がそちらに移るはずだ。とにかく、カナ、不安だろうけれど、自分の身を守ることを最優先に。ハリーが狙われているのはもちろんだけれど、それは、カナ、きみも同じだということを忘れないでくれ。エリアもずっと、休む暇もないほどきみを襲った人物について調べている。
 そこにハリーもいるね? この手紙を見せてもいいから、ハリーに伝えておくれ。ハリーの名付け親は、いまはわたしですら居場所のわからないところに隠れているはずだ。ここは煙突飛行ネットワークに登録されていないから、この家にいる限り、連絡を取る手段がフクロウしかないんだ。だから、彼はなんとかハリーに近づくと言って聞かなくてね。ペットを連れて、この家を飛び出したよ。しかし、彼は必ずハリーの助けになってくれるだろう。恐ろしいことが起こっている。しかし、ハリーなら乗り越えられる。みんなが助けてくれる。一人じゃない。だから勇気を持って。きみはたしかに、恐怖に立ち向かう勇気を持っていると、わたしは知っているからね。
 それから、カナ。ハリーの名付け親について、手紙に名前を書かないほうがいいだろう。郵便事故があってはいけないからね。今後は気をつけるように。
 健闘を祈る。リーマスより」

 リーマスからの手紙は、ハリーをわずかに勇気づけてくれた。ハリーもシリウスに知らせを出したけれど、まだ返事はないそうだ。
 カナは返信に、「一応伝えておくけど、ぼくは新聞に書いてあったようなことはひと言だって喋ってないからね。わかってると思うけど」と、きちんと書いておいた。
 そろそろ、これ以上マダムを待たせてはいけないなとカナが思った頃には、金曜日の朝になっていた。言い訳をするなら、この数日間、カナは自分のことばかり考えていたわけではない――ハリーとロンのあいだに起きていることを案じていた。
 異例の四人目の代表選手となってしまったハリーは、グリフィンドール以外の全校生徒から冷たい視線を浴びていた。そんなハリーに対して、いつも味方になってくれるはずの親友のロンは、今は遠くの席にいる。ハーマイオニーは詳しいことを話してはくれなかったけれど、ハリーが代表選手に選ばれたことがきっかけになっているのは間違いない。ハーマイオニーもカナも何度か、ふたりの間に座って仲を取り持とうとしたけれど、いずれも失敗に終わっている。ふたりとも、カナやハーマイオニーに対しては友好的なのだけれど、お互いのことになると突然不機嫌になる。ロンの態度はかたくなで、そんなロンにハリーも怒りを感じているようだった。
「ぼく、マダム・ポンフリーに返事をしてくるよ」
 昼食を終え、午後の授業の準備のために生徒たちが立ち上がる中、カナはようやくそう絞り出した。
「あら、まだ考えていたの?」
「なんの話?」
 ハーマイオニーがあっけらかんと言うかたわら、普段より消耗した調子で、ハリーがカナを見た。
「えーと・・・・・・ハリー、まだ誰にも言わないで欲しいんだけど」
「言わないよ。言うような人もいない」
「もう、ハリー」
 カナは顔を近づけてこっそり知らせた。
「トーナメントの救護チームをね、マダム・ポンフリーが作るんだ。それに誘われたの」
「とってもいい仕事だと思わない?」
 ハーマイオニーは、元気づけるように言った。それはカナに対してだったのだけれど、彼女の視線にはハリーも含まれているような気がした。
「ああ、いいと思うよ」ハリーもわずかに笑顔を見せた。「代表選手にはきみのことを気に入ってる人も多いしね」
「ハリーもでしょ」
 ハーマイオニーがにんまりして言うと、ハリーはすこし気まずそうに眼鏡を押し上げた。
「そうだったらいいなって、ぼくも思ってる」カナも笑った。「いまから医務室に行ってくる・・・・・・たぶん、授業には間に合うと思うけど」
「ええ、遅れないようにね。何と言っても、次はあの『魔法薬学』だから」



 昼休みの医務室は空っぽだった。しかし、カナが静かに扉を開けるわずかな音を聞きつけると、事務所からマダム・ポンフリーが勢いよく顔を出した。おそらく、昼食を摂っていたのだと思う。薄いくちびるがわずかに湿っている。
「あ・・・・・・マダム、いまよろしいですか?」
「ええ、ええ。ミス・エリオット。会いたかったですわ」
 マダム・ポンフリーのきつく結ばれた口もとが、わずかに持ち上がった。
「その、例のあれのことで」
「ええ、ええ。そうでしょうとも」
 カナは両腕に大鍋を抱えたまま、すこし目線を彷徨わせて、意を決してマダムの顔を見上げた。
「ぼく、やります。自信はないけど、マダムを信じます」
「その言葉を待っていましたよ、ミス・エリオット」
 マダム・ポンフリーは、普段はめったに見せない微笑みで、カナのことを満足そうに見つめた。
「あなたのお返事を待っているあいだに、来たる十一月二四日にあなたがたが何をするべきか、他の子にはもう話したのですよ。いま、ちょうど患者さんもおりませんし、すこしお話してもよろしいかしら――その大鍋、次の授業は魔法薬学ですわね? スネイプ先生には、わたくしからお伝えしておきますから」
 言いながら、そばのテーブルの上でマダムは羊皮紙をちぎり、さっと羽根ペンで書き込むと、事務所に消えた。そして、すぐに戻ってくる。
「いいですか、ミス・エリオット。いまからわたくしが言うことは、他言無用ですわ。いくらあなたが、代表選手の生徒と仲がよかろうと、こっそりと口を滑らせてはいけません。これは公平な競技のためです」
「はい」
「いいでしょう」
 マダムは頷き、話を続けた。
「第一の課題では、代表選手たちはドラゴンに立ち向かいます」
「はえっ」
 喉から変な音が出た。カナが何度も目を瞬かせているのを、マダムは冷厳なまなざしで見つめていた。
「このことを、決して、断じて、漏らしてはいけませんよ」
「は、はい」
「ドラゴンキーパーを職業にしている者たちは日々、大きな切り傷、高温の炎によるやけど、それに、種類によっては特異な毒――これらに対する迅速な処置を必要としておりますわ。主な治療や薬剤の調合は、わたくしが行いますが、あなたがたにもその知識を身につけておいて欲しいのです」
 つまり――チャーリーが言っていた、「いいこと」というのは、ホグワーツでドラゴンを見ることができる、ということだったのだろう。チャーリーはドラゴンキーパーの仕事で、トーナメントの試合内容を知っていたんだ。
 カナがぽかんとしていると、マダムはひとつ咳払いを入れた。
「理想を言えば、あなたがたが救護テントの中で大人しく座っているだけでいいのがベストですわね。ですが、ドラゴン相手ともなれば、怪我は避けられないでしょう――応急処置に使う魔法薬について知りたければ、特別に、わたくしの蔵書を見てもかまいませんわ。そのようなときは申し出てくだされば結構です。なにか質問したいことはおありで?」
「あの、マダム。その・・・・・・」カナは一度、唾を飲み込んだ。「その、ぼくを選んだのって、ダンブルドアに――」
 しかし、カナの言葉は続かなかった。医務室の扉を叩く音が、空っぽの室内にこだました。マダムが動き出すと同時に、扉が開き、生徒が医務室に飛び込んできた。
 ハーマイオニーだった。両腕のローブの袖で顔の下半分を隠して、涙目のままマダムのもとへ駆け寄っていく。
「ミス・グレンジャー。いったいどうしたのです?」
 カナも心配になって、ハーマイオニーを見やった。しかし、ハーマイオニーはカナに気がつくと、カッと顔を赤くした。
「私・・・・・・」
 ハーマイオニーが腕を下ろすと、カナとマダムは同時に息をのんだ。ハーマイオニーの前歯が――もともと少し大きかったけれど――今や、見る影もなく顎の下まで伸びていた。まるで成長しすぎたビーバーのようだった。
デンソージオ歯呪いです」
 ハーマイオニーはひどく話しづらそうに、涙目で言った。
「誰にやられたの?」
 カナが聞くと、ハーマイオニーはみるみる目に涙を溜めた。
「マルフォイが・・・・・・ハリーと喧嘩して、呪いの撃ち合いになって。でも、呪いがぶつかってはじけて、私とゴイルに当たったの。マダム、これからゴイルもやってくると思います」
「ミス・エリオット。授業にお行きなさい」
「でも――」
「お行きなさい」マダム・ポンフリーは辛抱強く言った。「ひと晩あれば、ミス・グレンジャーの呪いはすっかりよくなります。見舞いはそのあとです。さあ、ぐずぐずしないで」
 カナは半ば強制的に追い出され、扉がピシャリと閉じられた。心配や困惑で落ち着かない気持ちのまま、カナは地下牢教室へと向かった。とちゅう、ずんぐりした体を揺らしながら、腫れ上がった鼻を押さえてよろよろ歩く、おそらくはゴイルとすれ違った。鼻が大きくなりすぎて、よく見ないと誰だか判別がつかないほどだった。

「遅れてすみません」
 カナが薬学の教室に入ると、冷たい視線が突き刺さる。スネイプ先生が、心底つまらなそうにカナを見た。
「ぼく、マダム・ポンフリーに・・・・・・」
「聞いている。授業を受けるのならばさっさと座れ」
 席を探すためにぐるっと視線を巡らせたとき、スリザリン生のローブの胸に、大きなバッジがついているのが見えた。それは、クィディッチ・ワールドカップで売られていたロゼットによく似ていた。薄暗い教室の中で、チカチカと赤い文字が点滅している――「セドリック・ディゴリーを応援しよう。ホグワーツの真のチャンピオンを!」――カナが面食らっていると、パーキンソンがにやっと笑って、ロゼットに触れた。すると、赤い文字は消え、かわりに緑色の文字が浮かんできた。
「臭うぞ、ポッター」
 ハーマイオニーがああなった災いの種がなんなのか、カナはなんとなく理解した。おそらくはこの気分の悪くなるロゼットをめぐって、なにかことが起きたに違いない――ハリーがたったこれだけの仕打ちで呪いを飛ばすほど怒るとは思えないから、きっと友人の誰か絡みなんだろうと思った。
 カナは一番後ろの、ハリーがたった一人で座る席へとついた。ハリーはまるで茹だってゆらめく大鍋の中身みたいに、今にも沸騰しそうな恐ろしい表情で、没頭するようにスネイプ先生を睨みつけていた。
「ハリー」
 呼ばれて、ハリーはたったいまカナに気がついたみたいで、はじけたように顔を上げた。
「怖い顔してる」
「・・・・・・きみだって、あの場にいたなら僕と同じ気持ちになるだろうさ。スネイプのやつ――」
 ハリーの小さな声が突然途切れた。スネイプ先生が、「解毒剤!」と吠えたからだ。
「材料の準備はしてきただろうな? それを注意深く煎じるのだ・・・・・・これから、実験台になる者を選ぶ・・・・・・」
 スネイプ先生の暗い目が、ハリーのほうへと向いた。ハリーは髪を膨らませたように見えた。おそらく、スネイプ先生の魂胆は、ハリーに毒を飲ませて、ハリーが調合した不十分な解毒剤を使うつもりだろう。カナは足を伸ばしてスネイプ先生の見えないところで、こつん、とハリーの足先を小突いた。ハリーは、大鍋を握りしめている手をゆるめた。
「僕が何を考えてるかわかるのか?」
「考えたくもないよ」
 そのとき、地下牢教室の扉がコンコン、と叩かれたので、全員の視線がそちらへ向いた。そろりと顔を出したのは、グリフィンドールの三年生、コリン・クリービーだった。ニコリとハリーに笑顔を向けながら、コリンは悠々とスネイプ先生の元へと歩く。
「なんだ?」スネイプ先生が低い声でたずねた。
「先生。僕、ハリー・ポッターを連れてくるように言われました」
 とたん、スネイプ先生はぎろりと、小さなコリンを見下ろした。さすがに、コリンの顔から笑顔が消える。
「ポッターにはあと一時間、魔法薬の授業がある」冷たい声だ。「ポッターが地上に行くのは、授業が終わってからだ」
 しかし、コリンの顔が使命感に燃え、頬が上気した。
「先生、でも、バグマンさんが呼んでいます」コリンはおずおずと、しかし確かに言った。「代表選手は全員行かないといけないんです。写真を撮ると言っていました」
 ハリーがまるで鳩尾でも殴られたかのように、顔をしかめた。「よかろう」スネイプ先生は吐き捨てた。「ポッター、荷物を置いて行け。戻ってから自分の作った解毒剤を試してもらおう」
「すみませんが、先生――荷物を持って行かないといけません」
 負けないように、コリンが声を張り上げた。
「代表選手はみんな――」
よかろう! ポッター、鞄を持って、とっとと私の前から消えろ!」
 ハリーは鞄を放り投げるように肩にかけ、大鍋をつかみ、大股で席を立った。スリザリン生の席を通り過ぎるとき、緑色の光がハリーの背中をピカピカと照らした。またあの最悪なフレーズを、ハリーに浴びせているのだろう。

 無事に終わったとは言いがたい授業のあと、夕食に向かう道すがら、カナはロンを捕まえて、ことの経緯を聞き出した。
「僕とハリーで、明日の夜は居残り罰だ」
 うんざりしたようにロンが吐き捨てた。どうにも、「臭うぞ、ポッター」に言い返したハーマイオニーに対して、マルフォイがまたしても「穢れた血」と呼び、ハリーが杖を手に取ったのだという。
「それで、ハーマイオニーにマルフォイの呪いがぶつかって、ホラ――歯が伸びた。君、見たんだろ?」
「見たよ。かわいそうに、ハーマイオニーは泣いてた」
「それでスネイプのやつが――ああ、今でもムカムカするよ! なんて言ったと思う?『いつもと変わりない』だとさ! あれが教師の言うことか? 僕ら、許せなくて――」
 ロンは一瞬、言葉を飲み込んだ。
「『僕ら』って?」
「・・・・・・僕とハリーだ。スネイプに言ったんだ。最低最悪のコウモリ野郎、お前と同じ魔法族なのが恥ずかしいってね」
「それで、二人揃って罰則ってわけだね」
 カナがすこし微笑んでロンを見上げていると、不満げなため息が返ってきた。
「なに、笑ってるんだよ」
「いや? もう仲直りできるんじゃないかと思って」
「馬鹿言うなよ――」
 グリフィンドールのテーブルにどかっと座り込み、ロンは乱雑にかぼちゃジュースのゴブレットをつかんだ。
「それを言うなら、カナ、君もさっさと仲直りしたら?」
「あー」
 カナはちらりと視線を巡らせた。大広間の入り口に、ジョージとリーと連れ立って、楽しそうに話しているフレッドが、ちょうどグリフィンドールのテーブルに向かっているのが見えた。
「・・・・・・うん。そうしようと思ってたところだよ」
 カナはジャケットポテトの皿を引き寄せて、フォークで皮をつついた。
「ハリーには味方が必要だよ」
「君たちがいるだろ?」
「ううん、ロンの代わりにはなれないよ」
 ロンの碧い目が、ゆらゆらと視線を彷徨わせた。
「ひとりぼっちで、ハリーはすごく――つらい思いをしてる」
「ああ。でも、自分で名前を入れたんだ。わかってたことだろ?」
「ロン」カナはため息混じりに言った。「わかってるでしょ。ハリーはそんなことしない。目立ちたがりじゃないし、みえっぱりのために嘘をついたりしない」
「ああ、そうかい」いらいらとした声が返ってきた。「いいかげん、ほっといてくれよ。君もハーマイオニーもさ。僕らのことなんて、どうだっていいだろ。話したくないんだよ」
「そうも言ってられないんだよ」
 なんて言ったって、ハリーはドラゴンと戦わなくてはいけないのだから――カナはそれを思い出して、思わず口をついて出そうになるのを、必死にこらえた。
「きみに、後悔してほしくないんだ」
「後悔なんてしてない!」
 ロンの声に、周りの視線が集まった。ロンは気まずそうにゴブレットを傾けた。
「もう、あっちいけよ」
「やだよ。まだ食べてる途中だもん」
 ぶつぶつと文句を言うロンをよそに、カナはちらりとフレッドのほうを見た。カナに背を向けて、ジョージと話している――ふと、ジョージとピタリと目が合って、カナはあわてて顔をそらした。
 ハーマイオニーは夕食に顔を出さなかった。今晩は入院になるのだと思う。ロンが少し心配そうにしているのを、「大丈夫だよ」と話しながら大広間を出るとき、ハリーがひとり大広間に入っていったのが見えた。代表選手の写真撮影が終わったんだろう――カナが声をかけるまもなく、ハリーはずんずん歩いて、テーブルについた。
「そうだ、ロン。ぼく、トーナメントの救護チームに入ったんだ」
「なんだって?」
 ロンが目を丸くした。
「君まで慈善事業を始めたのか?」
「慈善事業っていうか、マダム・ポンフリーに頼まれたんだ。でも、何もすることはないよ。救護テントにいるだけでいいって」
「ふーん」
 ロンが、すこしつまらなそうに前を見た。
「羨ましい?」
「べつに。カナらしいなと思っただけだ。君、だれかを看病するの好きだろ?」
「そんなこと言ったっけ?」
「いつも看病される側だからさ」
 ロンはわずかに気分を取り戻したように軽い調子で言った。
「できるかわかんないけど」
「できるさ」
 その声が、ほんのすこし、カナの心を震わせた。一瞬、ロンじゃない、違う人の声と勘違いしたからだ。ロンは穏やかに微笑んでいた。
「そう言って欲しいんだろ?」
「・・・・・・うん、ありがとう」
 カナは、なんとなく目を合わせていられなくて、足元を見て歩いた。

 談話室に入る時、額縁の裏からフレッドとジョージが飛び出してきて、ばったり出くわした。
「あっ! フレッド・・・・・・」
 カナが声をかけると、ひらりと上がった手が続きを遮った。ジョージだ。
「悪い、カナ。また今度だ。ちょうど今、アバネシーが交渉に応じてくれそうなんだ――」
「ロン、そいつをちゃんと見張ってろよ!」
 先をいくジョージを追いかけて、フレッドも行ってしまった。カナは、ぐにゃっと折り曲げられたような気持ちになりながら、うつむいた。
「あー・・・・・・その」
 一緒にいたロンが、気まずそうに声を発した。
「もう怒ってないんじゃないか? フレッドのやつ」
「うん、そうだね。気にしてないんだろうね」
 けろりとカナが言うと、「は?」とうわずった声が返ってきた。
「ぼくだって、もういい。今度・・があったら――談話室のシャンデリアにぶら下げてやるんだから」



 翌日が休日で良かったと思う。ふつふつ、ゆらゆらと茹だっていた怒りは、ベッドに入り夜が更けていくにつれて、悲しみへと形を変えていった。朝になって目が覚めたとたん、カナの目頭は勝手に熱くなって、「バカ。フレッドの大バカ」と何度も思った。
 退院したばかりのパジャマ姿のハーマイオニーが起こしに来るまで、カナはベッドに潜り込んでいた。
「ちょっと、どうしたっていうの?」
 すっかり歯が元通りになったハーマイオニーが、枕に水溜りを作っているカナを見て驚いていた。
「・・・・・・なんでもない」
 がらがらの引きつれた声に、ハーマイオニーは同情した様子だった。
「なんでもないようには見えないけど」
 ハーマイオニーは、濡れたタオルでカナの顔をむりやりぬぐって、ぐしゃぐしゃの髪にブラシを通し始めた。
「また喧嘩したの? フレッドと」
また・・じゃない。ずっとだもん」
 カナはまだ涙をぽとぽと落としながら、枯れた声で言った。
「ぼくだけ落ち込んだりして、バカみたい。あの人・・・、今は商売に夢中。ぼくのことは、どうだっていいんだ」
「そんなこと、ないと思うわ」
「じゃあ、どうしてぼくだけがひと晩じゅうムカムカして、泣くほど悔しい思いをなくちゃいけないわけ?」
「カナ。すこし落ち着いてちょうだい」
 ブラシをテーブルの上に置いたハーマイオニーが、「アクシオ」でティーセットを呼び寄せた。
「話し合ってみたらどう?」
「無理。話にならないよ。どうせ『忙しいから』って、昨日みたいにあしらわれて終わり」
「まずは、あなたの怒りがおさまらないとね」
 ハーマイオニーは、熱い紅茶を淹れてくれた。カナはそれをひと口飲み込んで、ため息をついた。
「ぼく、また・・・・・・去年の冬みたいに、彼を追いかけては避けられるのはいやだよ」
「きっとフレッドが歩み寄ってくれるわ」
「そうしてくれなかったら?」
 ティーカップの水面にゆらゆら揺れる、自分の顔をじっと見つめた。
「ずーっと待っていなくちゃいけないの?」
「・・・・・・カナ。答えは出ないわよ。何か、気晴らしでもしたらどう?」
 ハーマイオニーは辛抱強くカナに語りかけた。
「あなたがどうしたいかじゃない?」
「わ、わかってる」
 水面のカナが、不安そうに表情を曇らせた。それをかき消すように、ティーカップに口をつける。
「私、図書館に行くけど――カナはどうする?」
「うん。ぼくも行く」

 談話室でジニーと出会った。「カナを探してたの」と言うので、ハーマイオニーと別れることにした。
 ジニーはモジモジと口籠るばかりで、いつまで経ってもはっきり話出そうとはしなかった。あてもなくうろうろと歩き、階を変え、あちこちの扉をくぐる。
 ふと、廊下や階段を通るとき、生徒たちの視線やクスクス笑いがやけに際立っていた。それらぜんぶが、自分に向けられているような気がしてならなかった。昨日から今朝にかけて、ひどく気分が波立っていたから、意識が過敏になっているのだと思った。
「あなたに聞きたいことがあるの・・・・・・その、あなただけじゃなくて、ハーマイオニーにも聞きたかったんだけど」
 とうとうふたりは校庭へと降り立った。城壁沿いを歩き、ひと気のない柱の影に、二人はそっと並んだ。
「ねえ、今朝の『日刊予言者新聞』は見た?」
「いや、まだだよ」
「そう・・・・・・」
 ジニーはひどく言いづらそうにした。口を開いては閉じ、言い出すのを恐れているように。
「どうしたの?」
 カナが聞くと、ジニーは顔をしかめた。
「あなたたちって・・・・・・ほんとうにハリーとなんでもないのよね?」
 カナがぽかんとしていると――ジニーがうつむいた。
「い、いいの。あたし、むしろ、カナやハーマイオニーなら、いっそ諦めがつくの」
「ちょっと待ってよ。急に何の話?」
 潤んだくるみ色の目が、カナを見上げた。ちょうどそのとき――向こう角から話し声が聞こえてきて、二人の意識はそちらに向いた。まるでなにか言い争っているような、あまり穏やかではない男女の声だった。あわてて、カナたちは壁際に身を寄せて、そっと口をつぐんだ。
「――いい加減にしてったら。あたし、あんたの許嫁でもなんでもないんだから。その話は御破産になったでしょ、あんたのお父様がそう言った。覚えてないわけ?」
「だからといって、君は奔放にやりすぎだ。なぜ君のお父上の顔に泥を塗るようなことをするんだ? それだけじゃないぞ。縁談が破談したからと言って、まったくの無関係になるわけじゃない。僕らも恥をかくんだ。少しは慎みを持ったらどうだ?」
「あたしは、お父様に忠告されるまでは、好きにさせてもらう。あのひとがあたしが学校で何やってるか知らないわけがないし。それに、少なくとも、あんたの恥ずかしいガールフレンドみたいに人前で発情したりしてないわけだし」
「いいか、パンジーは関係ないだろう。僕はただ、男子寮に入り浸るようなまねを控えろと――」
 そこで、声が途絶えた。言い争いの主と、カナたちが、顔を合わせてしまったからだ――意外なことに、角から現れたのはマルフォイとガートだった。スリザリン寮からは離れていると思うけれど――
「ハーイ、カナ。それにウィーズリーさん」
 ガートはなんにも気にしていないように挨拶したので、カナも「ハーイ」と返した。マルフォイは汚らしいものでも見るような目でカナとジニーを見比べ、「ふん」と鼻を鳴らして、大股で立ち去って行ってしまった。
「ごめん、聞きたくて聞いてたわけじゃないんだけど・・・・・・」
「べつに、かまわないよ」
 カナが謝ると、ガートはけろりとそう言った。
「聞かれて困るようなことを、こんな誰が通るかわからないような場所で話さないし。あいつはどうだか知らないけどね」
「マルフォイに追いかけられてたの?」
「そうそう、あいつ、あたしのことが好きみたい」
 カナとジニーは顔を見合わせた。ガートは「冗談だよ」と口角を上げる。
「そんなことよりさ、ちょうどよかった。カナに見せなきゃと思ってたんだ。どうせあんた新聞なんて取ってないだろうから――今朝の記事、うわさになってるよ」
「リータ・スキーターよ」
 ガートが小さなポシェットから新聞のたばを取り出し、カナに手渡すと、ジニーがそっと言った。
「ああ、またその人ね」カナはうんざりしたように息を吐いた。「初めてじゃないよ。先週もぼくの記事が出てた。写真も勝手に撮られたし・・・・・・」
「違うのよ、カナ」ジニーはもじもじと言った。「新聞を読んだら、きっとあなた、怒るわ・・・・・・」
 壁に寄りかかりながら、新聞を広げる。
 「日刊予言者新聞」の一面は、ほとんどが、あいまいな面持ちのハリーの写真で埋め尽くされている。校長陣と代表選手たちの集合写真では、一番幼く小柄なハリーが中央に立たされて、ダンブルドアがセドリックとハリーの両者の肩に親しげに手を置いていたけれど――それでも、その中でハリーはひときわ浮いているように写っていた。
 トーナメント代表選手の記事というよりも、ハリー・ポッターについての個人的な記事は、二面から始まり、六面、七面へと続いていた。そのどれもが、とてもハリーから発せられたとは思えないエピソードの数々で、カナは読みながら頭が痛くなってきていた。
 とても、敬意を感じられない記事だった。なにしろ、フラーとクラムに至っては名前の綴りが間違っていたし、インタビュー記事すら載っていない。セドリックなんか、名前すら見つからなかった。目が滑るような、うんざりするほど誇張したハリーの記事ばかりだ。
「スキーターの記事によると、ハリーは死んだ両親を思って毎晩泣いてる、感動的な男の子みたいだね」
「ま、肝心なのはそこじゃなくてね」
 ガートが正面から手を伸ばし、新聞をめくった。七面の一番最後――ハリーの記事の締めくくりだ。

「――しかし、ハリーには苦く甘い愛の試練も待っている。親友のコリン・クリービーによると、ハリーのそばにはいつも二人の女の子がいる。
 ひとりはハーマイオニー・グレンジャー。マグル生まれのかわいい女の子で、ハリーと同じく、学校の優等生の一人である。献身的にハリーを支えるグレンジャー嬢の姿は、学校内の誰もが日々目にしており、二人の仲は言うまでもなく推し量ることができるだろう。
 そしてもうひとりが、カナ・エリオット。八月に発生した『闇の印』事件の被害者で、ハリーは彼女のことを身を挺して救出したのだという。それ以来、エリオット嬢はハリーに心を奪われているようだ。心優しく勇敢な少年が、悲劇的な少女を放って置けるはずがない――果たしてハリーが手に入れるのは、本当の愛か、かりそめの愛か――」

 カナが新聞の真ん中に手をかけようとしたのを、ジニーがあわてて止めた。おかげでムカつく記事をびりびりに裂くことができなかった。
「カナ、だから言ったでしょ! きっと怒るって・・・・・・」
 ジニーは焦ったように一面のハリーの写真を見つめ、息を吐いた。
「スキーターの独自取材だとしたら、たいしたものだよ」カナは鼻息を荒くした。「魔法省が隠してる被害者の情報だって、どこで手に入れたんだか・・・・・・さぞや鼻が高いだろうね」
「情報源はスリザリンのお喋りインコだろうからね。ピーピー、パーパー」ガートが冷め切った声で言った。「ウィーズリーさんの言うこともわかるけど、どうせ嘴で突っつかれるのはカナなんだから、早く知っておいた方がいいと思ってね」
「ジニーでいいわ。スリザリンのエイブリーさん」
「ええ、あたしのことも何とでも呼んで」
「じゃあ、ガートルード」
 ジニーが新聞をガートに返そうとした。「いいよ、あげる」とガートがつっぱねると、ジニーは嬉しそうにした。
「あとは、あんたのボーイフレンドがどう思うかだけど」
「どうも思わないよ」カナが冷たく言った。
「あー、そう?」ガートは意外そうに肩をすくめた。



 図書館に行くと、カナはまず司書のマダム・ピンスにぎろりと睨まれた。そして、すぐにその視線は逸らされて、ある一点に向いた。そこにあったのは、ホグワーツの女子生徒に囲まれたヴィクトール・クラムの姿だった。クラムはいつもの不機嫌そうなむっつりとした表情のまま、ただ手元の本に視線を落としていた。
 マダム・ピンスが生徒に目くじらを立てるのもしょうがない――彼女の図書館の静寂を破る者は、誰であっても許されないのだから。
 カナは「魔法生物」の棚に近づいた。そして「D」の表示を探す――ドラゴンの生態、そしてその被害や治療について、カナは知る必要がある。マダム・ポンフリーの持っている書物を頼る前に、カナは自分でも調べておきたかった。それに、カナが直接言葉にせずとも、ハーマイオニーやハリーがドラゴンに勘付いてくれないかと、うっすら思っていた。
「やあ、カナ」
 カナは手に取った数冊の本を、ばらばらと落とすはめになった。カナに声をかけたのが、他でもない、代表選手のセドリックだったからだ。
「おっと・・・・・・びっくりさせてごめん」
「いや――ぼくのほうこそ、びっくりしすぎて、ごめん」
 セドリックはカナが落とした本を拾ってくれた。そして、その表紙をまじまじと見つめ――不思議そうに、カナに差し出した。「『ドラゴンを愛しすぎた男たち』? 飼育学の課題かい? いくらハグリッドでも、ドラゴンを用意できるとは思えないけど――」
「えと、違うよ。個人的な趣味なんだ、ウン。拾ってくれてありがとう」
 とっても不自然な微笑みで、差し出された本を受け取ったけれど――カナはむかしから隠し事が下手だ。
「それよりも、セドリック、めずらしいね。一人でいるなんて」
「まあね。久しぶりに、静かに過ごしたくなってね」
 セドリックは、カナがいままで探していた本棚を目で探っている。カナは課題の内容がセドリックに悟られてしまうのではないかとひやひやした――
「えーと、セドリックは、何か本を探しに来たんじゃないの?」
「気分転換できるならなんだっていいんだ。そうだな、せっかくだから、僕もドラゴンについて勉強しようかな?」
「ああ、ウン。いい考えだね」
 朗らかな笑顔がカナに向いた。たとえセドリックが、課題についてなにか勘付いたのだとしても、カナのせいじゃないだろう――だって、口を滑らせたわけじゃないのだから。それに、セドリックは救護チームについてはまだ知らないはずだ――
「そういえば、きみもトーナメントの医療チームに参加するんだって?」
 口から心臓が飛び出そうになるのを、すんでのところで堪えた。おかげで、喉から潰れた蛙みたいな変な音が鳴ってしまった。カナはがんばって平静を装いながら、口角と眉を持ち上げた。
「うん。どうして知ってるの?」
「ヴィヴから聞いたんだ。ハッフルパフの談話室でね。彼と一緒に仕事するんだろう?」
「彼ほどうまくはできないと思うけどね」
「いいや、カナならできるさ。ヴィヴだって低学年の頃は、成績が良いとは言えなかったんだ。あの人はほんとうに努力家だよ」
 ふと、セドリックが眉を下げた。
「その・・・・・・今朝の新聞を、きみはもう読んだかい?」
「あのばかばかしい記事でしょ。読んだよ。友達に教えてもらった」
「そう」
 カナはいたたまれなくなって、必死に言葉を探った。
「気にしないほうがいいよ。あの人は捏造記事ばっかり書く人なんだ。注目を集めるためなら嘘だって平気で書くんだよ。だから、セドリックも気をつけてね」
「いや、そうじゃなくて」
 真剣な、しかし弱々しい面持ちでセドリックが言った。
「ぼくは結局、きみの力になれなかったなって、思ったんだ――夏休みの、あれのこと、新聞に書かれちゃっただろ?」
「しょうがないよ。誰のせいでも、ないもの」
「――カナは強いね」
「そうかな・・・・・・」
「うん、そうだよ」
 セドリックは微笑んだ。カナもそれに応える。
「でも、セドリックがそう言ってくれて、ぼくはすごく助かってるんだ。友達が味方してくれるのって、とくべつ嬉しいでしょ?」
「ああ、それならよかった」
 セドリックの指が本棚に伸び、「ドラゴンの巣から生き延びる五十通りの方法」が滑り出てくるのを、カナはじっと見ていた。
「あれっ。もしかして、この本を探してた?」
「えっ?」
 グレーの瞳と目が合った。親切という言葉が人間になったら、こんな表情をしているだろうなあと思えるような微笑みが、カナに向けられた。
「きみったら、さっきから、この本をじっと見てるからね。ほら、どうぞ」
 そう言って差し出された本を、カナは手で押し返した。
「ううん! いいんだ。セドリックが読んだら、次に読ませてよ」
「でも・・・・・・」
「いいから!」
 カナがかたくなに突っぱねるので、セドリックも不思議そうにしながらも、手を引っ込めた。
「それじゃ、読み終わったらきみに教えるよ。今日は、邪魔しちゃったね」
「ううん。そんなことないよ」
 カナが言うと、セドリックは笑みを深くした。
「それじゃ」
 セドリックが、図書館の奥へと消えるのを見送って、カナも数冊の本を抱えて、マダム・ピンスの事務所へと向かった。カナは談話室でドラゴンの本を広げて読み漁るつもりだ――ハリーが気づいてくれるまで。
「・・・・・・アー、ぼく、変じゃなかったかな?」
 廊下で、カナはひとりつぶやいた。セドリックに課題のことが勘付かれたのではないかと、さっきから心臓がバクバクしている。
「あら、どうして?」
「うわーっ!」
 カナは今度こそ口から心臓が飛び出たと思った。本こそ落とさなかったけれど、思わず叫んでしまった。
「そんなに驚かなくていいじゃない」
 ハーマイオニーだった。カナと同じで、図書館から出てきたばかりなんだろう。本が入って重たそうな鞄を抱えている。
「なにか隠し事?」
「ウーッ、聞かないで」
「いいわ。なにも聞かないであげる。でも、あなたの様子から、私が勝手に推察しちゃうのは、さすがに許してくれるわよね?」
 それこそ、カナが望む展開だ。こっくりと頷くと、ハーマイオニーは満足そうに笑った。
「今度、答え合わせをしましょうよ。そうね――次のホグズミード休暇で。どう?」
 それがハーマイオニーなりの、休暇の誘いなのだということに気がつくまで、カナはしばし目を瞬いた――そして、あいまいに頷いた。
「もちろん、いいけど――ぼくが答えを言うかどうかは、まだ決まってないからね!」



20250202


戻る
TOP