「ごめんな、つむちゃん」
 焦くんの声だと、思ったの。







Not About Angels








 復興作業が始まって一か月が過ぎた。


「燈矢兄。もうほとんど喋れないんだってね」
「私、もっと早くに会いに来ていたら、よかったね」
「そうしたらもっと話せたのに。私が意気地なしだから、時間がかかってしまった」
「私の話をいくらしても、毒になっちゃうと思って、来れずにいたの」
「だって、私・・・・・・」
「私、とうやにぃのこと・・・・・・っ」



「日本に帰ってくるときも、あなたのことを考えてた」
「あなたが私に教えてくれたから。夢を見ることも、努力をやめないことも、それがかっこいいってことも」
「ごめんね、燈矢兄。今日は私がけじめをつけたくて、来たの。あなたに会えないままじゃ、私、前に進めないと思って・・・・・・」
 しゃくりあげるつむじの背中を、冷の手がそっと撫でた。
「あなたのことが好きだったの・・・・・・」
 こんなことを言っても、自己満足にしかならないことはわかっている。わかっているけれど。栓が取れてしまったかのように、言葉があふれてくる。
「燈矢にぃ、遅くなってごめん。ごめんなさい。話したかった。私、話したかったのに。弱虫でごめんなさい。焦くんみたいに、お父さんみたいに強くなくて、ごめんなさい。お母さんや冬美ちゃんみたいに覚悟がなくて、ごめんなさい。私、わたし、逃げてばっかりで」
 息もつけないほどあえぐつむじに、冷が寄り添う。つめたい手をぎゅっと握りしめながら、つむじは幼子のように泣いた。
「燈矢にぃから逃げてごめんなさい・・・・・・っ」
 ガタン、と車椅子が揺れた。炎司が「燈矢」と呟く。冷とつむじも顔を上げた。
 か細く息を吐き続けるだけの、燈矢のただれた口元。機械頼りの呼吸の音のなかに、わずかに色が混じる。
「・・・・・・つ・・・・・・む・・・・・・」
 3人は固唾を飲んで、それを見守った。言葉だ。今際に立たんとしている燈矢が、言葉を。ひとつも聞き漏らすまいと、息を潜めて音が震えるのを待つ。
「・・・・・・あ・・・・・・がと・・・・・・な・・・・・・」
 つむちゃん、ありがとうな。
 鈍くなった翡翠色の瞳が、どろりとつむじを見つめている。こんな奇跡があっていいのだろうか。つむじがそれを、受け取ってしまっていいのだろうか。
 崩れ落ちるつむじを、ぎゅう、と冷が抱きとめた。再び堰を切ったようにしゃくりあげるつむじの頭を、つめたい手が包む。
 言葉を最後に、燈矢は眠りに落ちた。看守が面会時間の終了を伝える。冷が炎司の車椅子を押し、つむじも両目をぬぐって立ち上がる。
 つむちゃん。
 もう一度呼ばれたような気がして、振り返る。ガラスはシャットアウトされて、光の一つも通さない。真っ暗な部屋の真ん中で、罪人の燈矢は眠っている。
「私こそ・・・・・・」
 届くはずもないけれど、精一杯のいびつな笑顔を浮かべて、ふるえる声を張り上げた。
「ありがとう、燈矢兄」



「おかえり」
 校門前に車を停めてもらうと、ヒーロースーツに身を包んだままの焦凍が立っていた。
「ただいま、焦くん」
 まだぐずる鼻先をスンと啜って、炎司と冷に別れを告げる。










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