焦凍に話してしまった手前、不合格になってしまったら情けなくて死ねる、と思っていたけど。つむじは今無事にヒーロー科の林間合宿のためのバンに乗り合わせている。
期末の実技試験は先生とのタイマン勝負だった。出久によるとヒーロー科の生徒はツーマンセルだったらしい。なにそれ、私だけ不利すぎるでしょ。
「フワフワキティ、車酔いとか大丈夫?」
「全然大丈夫です!」
プロヒーロー「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ」の運転するバン、通称「ねこバス」の後部座席に、米袋や野菜や肉などの食料品に挟まれる形で乗り込んでいる。
「イレイザーとブラドも粋なことするね。夏合宿でサプライズ登場とかさ」
「編入時期もちょうどよかったよね! 体育祭での活躍が認められたからかしら? 確かにすごかったにゃん」
「ありがとうございます!」
マンダレイとピクシーボブの会話に混ざりつつ、つむじの視線はバックミラーに映る後ろの座席に吸い込まれている。
6、7歳くらいの男の子。角のついた特徴的な赤い帽子を深く被って、黙って座っている。歳の割に大人しいな。つむじがこの子の年齢くらいの時には、鼻水垂らしてあちこち走り回って毎日擦り傷をこさえていたというのに。
「私、つむじ。きみ、名前は?」
「・・・・・・教えるかよ」
「こら洸汰」
マンダレイが運転席からたしなめる。息子さんかな。
「ごめんね。従甥なんだけど」
「コウタくん! どういう字を書くの?」
「話しかけてくんな」
つむじはプーッと頬を膨らませた。
「何歳かな? 小学校一年生くらい?」
「うっせーな。子どもアツカイやめろよ気色わりぃ」
「ああ、ごめんね。自分の名前とはいえまだ漢字とかわからないか。いやぁーごめんごめん」
「はァ?! 書けるし! ノート貸して!」
ノートと鉛筆をちらつかせるとコウタがでかでかと名前を書いてくれる。
「出水洸汰くんね。いい名前だねえ。教えてくれてありがと」
マンダレイとピクシーボブが「うまく扱われてる・・・・・・!」と肩を震わせている。アトランタのストリートキッズたちと心を通わせた経験が活きたか。
「私の字はこう書くんだよ。名前はひらがなね」
「聞いてねーし」
「つむじさんはねえ漢字の練習始めたの一年前なんだよね。読むのはできても書くの難しいよねえ」
「はあ? 学校行ってねーの」
「アメリカにいたからね」
「アメリカ?」
洸汰が食いついた。つむじは聞かれてもいないアメリカ時代の話をペラペラと話す。
「――でね、ほら見て! アメリカNo.1ヒーロー、スターアンドストライプ! 私この人に助けられたの。それからファンでね」
ヒーロー、と言ってから、興味ありげに浮いていた洸汰のお尻が、スッと座席に戻る。
「どいつもこいつも、ヒーロー、ヒーローって・・・・・・」
そう呟く声は、エンジンの音にかき消されていった。それ以降、洸汰はつむじがいくら話しかけても、悪態すら返さなくなった。
お昼には早いくらいの時間に、宿泊施設の前にバンが停まる。温かみのある一枚板の看板に「プッシーキャッツのマタタビ荘」と書かれている。
積荷を下ろす2人を手伝う。洸汰も手伝ってるのにつむじが手伝わない道理はないだろう。施設の中に入ると、イレイザーヘッドとブラドキングが話し込んでいるのが見えた。
「先生こんにちはー! 今日からよろしくお願いします!」
「おう綿某。来たか」
ブラドが頬を持ち上げて片手を上げる。くぅ、かっこいい。
「あれ、先生。ヒーロー科の面々は?」
「いま森でボロ雑巾になってるところだ」
「え」
「ピクシーボブの個性で、森の端から土魔獣相手にこの施設を目指してるってワケ。何、参加したかった?」
マンダレイがつむじの背後に野菜の箱を置きながら言った。
「いえ・・・・・・ここを目指すだけでいいなら、私、ぴゅーっと空を飛んで施設を探せばいいだけなんで」
「そう言うと思って、お前には参加させなかった。あいつらとの顔合わせもまだだしな」
制服のままボロボロのA組メンツが施設にたどり着く。食堂にずらっと並んだ料理に、みんなが沸いている。委員長らしき眼鏡の男の子の号令で皆順番に靴を脱ぎ手を洗い、おおきな「いただきます」の合図で夕食が始まる。
A組が出発したのは9時半ごろだったらしい。お昼抜きで、たどり着いたのが午後5時だから、空腹すぎて妙なテンションでみんながっついている。
キレイな制服のまま先に夕食をいただいちゃったのが申し訳ない感じだ。
「ご飯のおかわり欲しい人言ってねー」
「はい! って、エ!? つむじさん!」
茶碗を突き出した出久の背後から蓮根の挟み揚げを提供する。そうそう。このびっくりした顔が見たかったんだよね。
「やっほー、出久!」
「なんでつむじさんがここに!?」
「何だよ緑谷! ふわふわ系女子と下の名前で呼び合う仲かよぉ?!」
出久の隣にいた小柄な男子が身を乗り出した。
「はじめまして! 私綿某つむじーって、知ってたかな? 好きに呼んでいいよ! きみの名前は――」
「綿某さんごめーん! これ運んでくれるー?」
「あいあいさー! ごめんねブドウ系男子。またゆっくり話させて。出久、ご飯おかわりね」
ブドウ系男子にことわって、出久の茶碗をさらっていく。いつもの感じで書き文字まで聞きたいところだったけど、今のつむじには大事なお仕事があるのだ。クタクタのみんなにあったかいご飯を届ける仕事が。
「俺もだコラ!」
「はいよ」
出久の反対隣の男の子も茶碗を素早く突き出してきた。この爆発的ヘアースタイルは見覚えがある。
「バクゴウだっけ? 了解!」
厨房に駆け足で向かう。すぐ2人の茶碗が山盛りになって返ってきて、それはパサランに運んでもらう。つむじは大きな骨付き肉のプレートを各テーブルに運ぶ。「ありがとー!」と大きな声でお礼を言われるのが心地よい。ヒーロー科のみんなって、より一層元気だ。
「普通科女子の綿某さん! 状況も相まって天使に見えるわぁ」
「わあ、でんぴくん相当疲れてるね」
「アンタよそのクラスの女子に変な名前で呼ばせんなよ」
ショートヘアの女の子が上鳴にツッコミ入れつつ、つむじは次々と食事を運ぶ。
「ここで働いてんのか」
テーブルの奥に行ったとき、焦凍が話しかけてきた。
「ちがうよー! 先生から説明あると思うから私黙っとく。今はお腹いっぱい食べて」
空いた手でぱしん、と焦凍の背を叩く。きょろりと見回しただけでも、ガタイがいいのがいち、にい――わあ、ヒーロー科はやっぱりゴリラ男子、いるよねえ。眼福、眼福。と思いながら、次の料理をB組にも運ぶ。
デザートのアイスクリームをパサランを使った早技で配りまくる。いいな、私のとき出なかったのに。おいしそう。垂れそうになる涎を必死に堪える。
――みんながお腹いっぱいになって、あったかいお茶orコーヒーで一息ついた頃。イレイザーヘッドとブラドキングの先生がたが、並んでつむじを手招きした。
つむじは先生がたの横につつつ、と忍び寄り、エプロンを外す。
「見ての通りだが、今回の林間合宿に特別に参加する生徒がいる。自己紹介を」
ブラドキングの紹介で、つむじは一歩前に出る。
「普通科C組だった、綿某つむじです。今回の合宿で全員と友達になるつもりで来ました! 気軽に話しかけてください。あー、もちろん自己課題も達成するつもりです! 先生、ご心配なく! 切磋琢磨したいです! よろしくお願いします!」
ウオーッ!! と歓声が上がって拍手で迎えられる。ちょっと張り切りすぎたかな、と若干赤い頬が気になりつつ、後ろに一歩下がる。
「綿某の言葉でわかったと思うが、彼女は夏休みが明ければ普通科からヒーロー科へ編入してくる。クラスはまだ決まってないが、彼女だけじゃなく、学科やクラスを垣根を越えて、この場にいる全員が、この合宿を機に交流を深める機会となることを願う。そしてお前たちもいい刺激を貰って、互いに高め合ってくれ。以上! A組から風呂に行けーッ!」
「ねえねえ綿某、私のこと覚えてるー?」
「もちろん! 溶解液の個性の芦戸三奈!」
「私葉隠透ー! つむじちゃんって呼んでもいーい?」
「いーよ!」
A組女子にもみくちゃにされながら移動する。ピンクの子は体育祭で戦った子。透明人間の子が葉隠透。
「ウチ耳郎響香」
「蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」
「麗日お茶子です!」
「八百万百と申します。クラスメイトからはヤオモモと」
そのまま流されるようにA組女子の寝室へと向かう。
「そういえば綿某、お風呂とか寝るのはどーすんの?」
「自由にしていいって。今日はA組と過ごそうかな。あしたB組で」
「やったぁ! いろいろ聞きたいことあんだよねー! いっちゃうよ根掘り葉掘り!」
「掘っちゃうぞー!」
「いいよー! なんでも来ーい!」
なんか波長が合うかもしれん。この元気っこ2人。
アメリカには家族だろうと、服の下を見せる文化というのがあまりない。大衆浴場とか家族風呂とかに抵抗がないのは日本人独特の感覚だと思う。そして何を隠そう、つむじが他人と入浴したのは、かつて轟家で暮らしていた頃が最後なのである。
めちゃくちゃ恥ずかしい。
「なーに言ってんの綿某。私たち友達1日目だけどさあ。テレビ中継で下着姿晒してたじゃん」
「なんかそれとこれとは違うかも・・・・・・!」
「まあまあ、綿某さん。私も恥ずかしいけど、しょうがないさ。B組の人も待ってるしね」
麗日に励まされながら、裸一貫で浴場に踏み出す。まず体を洗うのよ、と蛙吹に教えてもらいながら、みんなで並んで洗身する。
「綿某、髪スゴッ。アフロみたいになってる」
「髪が多いのね」
「長いもんね、綿某さん」
「個性ゆえ・・・・・・」
髪が長く多いゆえに、シャンプー中はものすごくボリューミーな泡がたつ。
「梅雨ちゃんも髪長いけど、私と違ってツルツルさらさらでうらやましいな」
「ありがとう。つむじちゃんの髪もステキよ」
「何という包容力・・・・・・!」
ケロ、と蛙吹が喉を鳴らす。
体を洗い終えて温泉に浸かる。足滑らせないようにね、と蛙吹が忠告してくれる。
「きもちい・・・・・・」
「でしょぉー! 温泉ってサイコーだよねぇ」
とろけるようにつむじが言うと、芦戸や葉隠が賛同する。
「日本人のこころだよ・・・・・・」と麗日。
「そうなんだ!」
「うちにも露天風呂がありますが、やはり本格的だと違いますわね」
「へえ〜! みんなのお家にもこういうお風呂あるの?」
「ヤオモモはお嬢様なんだよぅ。普通の家にはナイナイ」葉隠がお湯をぱちゃぱちゃ波立たせながら否定する。
「そっか。綿某はアメリカにいたんだっけね」と耳郎。
「いろいろ経験豊富なんだって〜? 」と芦戸がいろめき立つ。
「まあヒーロー活動のお手伝いはちょっとしたかな」
「そっちもだけど! 私が聞きたいのはラブとかライクとかそういう話だよう!」
「え」
そのとき、竹の壁の向こうにざわめきが聞こえてきた。
「あー、男子入ってきたー」と芦戸が残念そうに言った。
「けっこう声近く聞こえるね〜・・・・・・」
「露天風呂ってそういうモンだよね」と耳郎。
「ねー」葉隠が同意する。
会話できそうなくらい、男子の声がすぐ向こうで聞こえている。出久と焦凍もいるかな。つむじはちょっぴり熱ってきた頬を触る。
「だいじょぶ? のぼせた?」と芦戸。
「温泉に慣れていないのでしたら、長湯は禁物ですわ。綿某さん」
「うん。もう出よっかな・・・・・・っ」
立ち上がろうとしたとき、くらりと世界が揺れる。「綿某!?」と女の子たちの悲鳴がして、誰かが支えてくれる。
「ごめん、立ちくらみ。だいじょぶだよ・・・・・・」
「つむちゃん、大丈夫か?!」
「えっ、つむじさん? 轟くんなにが・・・・・・」
壁のすぐそばから焦凍と、ちょっと遠くに出久の声がした。つむじの異変が聞こえていたんだろう。
「のぼせただけー! 男子心配ご無用ー!」芦戸がすぐに返事した。「今の轟?『つむちゃん』だって?! なになにー? どういうカンケー?!」
「三奈ちゃん今は綿某さん答えられんて・・・・・・」
「ヤオモモ、峰田くんがいるからはやくつむじちゃん引き上げよっ」
「ええ」
ぬるめのシャワーを全身に浴びてから、脱衣室のベンチに座らせられる。バスタオルでわさわさっと包まれて「ここで涼んでおきなよ!」と芦戸が扇風機をつけていった。
「ありがと・・・・・・」じーんと痛み始めた頭で、かろうじて礼を言う。
楽しくてつい長湯しちゃったのか。八百万が言っていた通り、温泉に慣れていないうちは早いうちに退散し方がいいんだろう。明日は失敗しないようにしないと。
数分もしないうちに、全員が脱衣所に入ってきた。
「峰田やっぱりやると思ってた。サイッテー!」
「洸汰くんは大丈夫でしょうか・・・・・・?」
「ね、デクくんが連れてったみたいだけど・・・・・・」
「つむじちゃん、具合はどう?」
蛙吹がつむじの顔を覗き込む。声からして葉隠も近くにいるんだろう。
「うん。大丈夫だよ。ごめんね、早速みんなに迷惑かけちゃって」
「温泉が初めてならこちらこそ気を遣うべきだったわ、大事にならなくてよかったけれど」
「もう平気だよ。みんなありがと」
わしゃわしゃと髪にタオルを当てて、ニッとわらう。
「ところで、何かあったの?」
ああ、そうだったな。微かに脳裏に残る記憶を引っ張り出してみれば、つむちゃんは元来、庭とか廊下とかめちゃくちゃに走り回るやつだった。夕食の時にヒーロー科の生徒たちのためにあちこち走り回るつむちゃんの姿を見て、少し懐かしいような、寂しいような気持ちになった。
ヒーロー科に入れるかもしれない。
先月、お母さんの病院に向かうバスの中でそう言われた時は、嬉しさと同時に何故か胸の奥がつきんと痛んだ。つむちゃんがヒーロー科に入る。そうしたら、俺が知っているつむちゃんじゃなくなってしまうのではないかと。
かつて隣で眠ってくれた小さなつむちゃん。
遠い海の向こうで数年を過ごしたつむちゃん。
緑谷と遊園地に行ったつむちゃん。
俺じゃない誰かに弁当を作ってきたつむちゃん。
俺の知らないつむちゃん。
考えてみれば、あの子のことを俺は何も知らない。日本に帰ってきてからのことを考えれば、俺とよりも、緑谷と過ごした時間のほうが圧倒的に長いのだろう。そんなことをひがんでもどうにもならないのだが。自分が幼稚すぎて情けなくなる。緑谷に嫉妬でもしてるってのか。
「とどろきぃ、お前、めっちゃ必死な顔してたぞ〜」
「らしくねェよなァ〜、綿某さんが心配だったんだ〜?」
両サイドに上鳴と瀬呂が寄ってきて挟まれる。何故ニヤニヤしているのかわからない。視界の端に瀬呂のテープでぐるぐる巻きにされた峰田が吊るされているのが見えた。
「心配するだろ。つむちゃんに何かあったら困る」
「おやおや・・・・・・『つむちゃん』だって? ンー、俺の聞き間違いじゃなかったみたいだなァ〜、轟くん〜」
「前から気になってたんだけどさー、綿某さんとどういう関係?」
まだくねくねしながら声を上擦らせる上鳴をよそに、瀬呂が肩を組んできてひっそりと聞いた。
「俺とつむちゃんの今の関係は・・・・・・俺が頼めば弁当を作ってきてくれるぐらい、の関係だ」
まあ、緑谷は遊園地でクレープ半分こするぐらいの関係だから、俺はまだまだだ。と内心で思いつつ。
「彼女?!」と興奮する上鳴。
「そんなんじゃねェ」
「じゃあ好きなん? 轟は綿某さんのこと」瀬呂が耳元でコソッと聞いた。
「もちろんだ」
「きゃっきゃっ、イイコト聞いちゃった!」
「声でけぇよ上鳴。女子に聞こえちまうぞ」
「だからさぁ、轟のことちょっとでもカッコよく見えちゃったりとかさ! あるでしょ!」
「全然ないよ。そんなんじゃないって」
この問答を何回繰り返しただろうか。色めき立った芦戸が形を変えて何度もつむじに尋ねる。布団を隣に陣取られ、肩がくっつくくらいの距離に桃肌の体温を感じる。
「幼馴染なの。小さい頃一緒に住んでて兄弟みたいなモノ」
「そこまで徹底的に否定されると轟がカワイソーに思えてくんね・・・・・・」耳郎が枕に顔を埋めながら頬を引き攣らせた。
「クラス屈指のイケメンボーイなのにね・・・・・・!」と葉隠。
「轟はずぇーったい綿某のこと好きだと思うけどなー! 晩ごはんの時ずっと目で追ってたもん! 私見てたんだよねー!」
してやったりと芦戸がニヤリ笑いを浮かべる。つむじは「あー」と軽く頷いた。
「焦くんって変な奴だからさ。好きとかそういうのわかってないんじゃないかな。ニブチンぽいじゃん」
「なんかわかるッ」麗日が噴き出す。
「じゃあさじゃあさ、緑谷とはどうなの? 名前で呼び合ってさぁ、仲良さそうに話してたじゃんっ!」
芦戸が攻めの方向性を変えた。
「出久はね、日本に来て初めてできた友達だったんだ。筋トレ仲間でヒーロー志望仲間で志望校まで一緒でね。意気投合したの」
「それでそれでー?!」
「うん、それだけだよ」
「なんでよー!!」芦戸が悔しそうに両手で枕を叩く。
「ごめんね。面白い話できなくて」
「いえ、綿某さんの話はとても興味深いですわ。その、緑谷さんと筋トレ仲間というのは?」
「そのまんまだよ。良いトレーニングがあったら共有したりして」
「いえ、その・・・・・・失礼ですが、綿某さん自身があまりトレーニングをなさっているようには見えなくて」
「うぐっ」
腹の奥まで深々とヤオヨロアローが突き刺さる。葉隠が見えない指先でつむじのまるだしの腕をツンツンと突いた。
「ほんとだあ。マシュマロみたーい」
「マジ? 触らしてー。ほんとだふわふわー! NITORIのホテル枕みたーい!」
「うっ、おやめください・・・・・・私ゴリラになりたいの・・・・・・」
「なんでゴリラ!? 綿某変わってんね!」寝転んでいた耳郎が起き上がる。
「圧倒的ムキムキヒーローを目指してるの! スターアンドストライプのような!」
「あっ、スマホについてるマスコット! 見たことあると思ったー。スターアンドストライプなんやね」
麗日が指差した。枕元に置いていたスマホのそばに、小さな黄色いシルエットが横たわっている。
「アトランタにいた時からトレーニングしてるけど、筋肉つかないんだよね。食事変えても運動強度上げてもさ。個性の影響かなって最近は思ってるけど」
「つむじちゃん今のままでも強いよ。常闇くん伸してたじゃん!」しょんぼりしたつむじを、葉隠がフォローしてくれる。
「確かに」蛙吹がケロッと賛同する。「常闇ちゃんも黒影ちゃんも強いのに、手数で圧倒してたわよね。体育祭」
「あれは悔しかったなあ」
「でもすごかったよー。試合には負けちゃったけど『綿某つむじが来たぁ!』って感じがしたなあ」
「麗日、なにそれ」耳郎が笑う。
「でもわかるかも」葉隠が賛同する。
「綿某さんが普通科だったからこそ、注目を集めたのだと思いますわ」
「やっぱズルいよね綿某ー」
「そんなことないよ。私みんなより出遅れてるもん」
みんなを見回して、ニコッと笑う。
「だからこそ、どんなか細いチャンスでも掴んでやるって気持ち!」
「よっしゃ明日も頑張ろうー!」
「おー!」
葉隠の声にみんなが応える。やる気いっぱいの仲間に囲まれるって、こんなに胸が熱くなるんだな。
「あ、男子部屋見に行くの忘れてた!」
「芦戸さん。あと30分で消灯時間ですのに」
「カタイこと言わないでよヤオモモー。時間には戻るからさ!」
「私も行くー。つむじちゃんは?」
「私も! 男子に挨拶したい」
「やっほー男子。部屋見せて〜」
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