ワインレッド リグレット



私たちが、わざわざめんどくさい合奏を選んだのには、理由がある。集まったお客さんを眺めながら、私たちはスポットライトを浴びていた。


基本的に「生徒の自主性」というものを重視し、はっきり言って放任主義な銀魂高校。
……の、はずだったのに。

問題児クラスである3Zはハタ校長に事前に出し物について調査を受けた。その結果、当然の如く空き缶1本でできた「丸ビル」は却下されることになる。
珍しく銀八先生も焦っていた。そしてない脳みそから絞りだすように考えた結果「体裁だけでも、ステージ借りてなんかやろうぜ」と、午前と午後に少しずつある、ステージの空き時間の15分を借りて合奏をすることにした。

練習はそれなりに真面目にやった。桂くんがエリザベスくんとピアノを連弾できたり、リコーダーで普段会話している百音ちゃんは、難しい曲も難なく吹けたり、珍しい一面も沢山あったけれど一番私たちが驚いたのは銀八先生がギターケースをだるそうに持ってきたことだ。
どうやら、銀八先生は学生時代に数学の坂本先生とバンドを組んでいたそうだ。モテると思っていたが全く効果がなかったことも話してくれた。
でも一回みんなの前で披露してくれた、ギターを構えて弦をかき鳴らす銀八先生の姿は文句なしに格好よかった。ピックを投げたら結構な女の子が拾いに行くんじゃないかな、と思えるくらいには。

そんなこんなで驚き続きの練習を経て、今に至るというわけだ。みんなはそれぞれのサイズのTシャツを、私は変わらずLサイズのTシャツを身につけ、担当の木琴を鉄琴のさっちゃんと一緒に叩いていた。

近藤くんは太鼓をやっていたはずだけど、何故かお妙ちゃんにバチで殴られる立場になっていた。どうして?
沖田くんは土方くんとマラカスで戦っている。うわ、音楽の先生や理事長の顔を見るのが怖い……

そんな心情の私を置いて、会場が笑い声でわく。

そして曲が終盤に近づくと、銀八先生が舞台の袖から出てきて悲鳴にも近い歓声が上がる。めんどくさそうな顔をしているけれど、少し口角を上げた銀八先生がギターソロを弾き終えた瞬間、体育館は盛大な拍手に包まれた。

最後に神楽ちゃんが元気よくシンバルを鳴らし、私たちの合奏は大成功で幕を閉じたのだった。



「お疲れ様ー!」



体育館の後ろでハイタッチなんかしちゃって、なんかまさに青春って感じ。文化祭が苦手とか言っていた銀八先生は今この場にはいないが、なんだかんだ私たちの演奏に力を貸してくれたし、やっぱりいい先生だと思う。



「午後も頑張りましょうね!」「黙るヨロシカスタネット」「なんでそんな事言うの神楽ちゃん……」



そんな一コマもあり、午後の部まで自由行動かと思いきや、突然入った放送。



「次は有志のバンド、“奇兵隊”! 銀魂高校最強のヤンキーグループ、高杉一派の皆さん、お願いしまーす!」



急いで視線をやったその先に、この高校の不良グループのあの五人がスポットライトを浴びて立っていた。高杉くんの登場に、会場に黄色い声が大きく響く。アイドルうちわみたいなのを構えている子も中にはいた。

高杉くんはいつものワインレッドのシャツに学ランを合わせていて、持った紫のエレキギターがよく映えていた。



「高杉、さっきいなかったよな」

「次に鬼兵隊で参加するからでしょ?」



万斉くんが挨拶をしているのを見ながら、私たちはこっそり話す。でも盛り上がるこことはなんだか場違いな気がして、とりあえず解散しようかと思い始める。



「午後は参加するように説得しといたから、あんま気にすんなよてめーら」



そのとき銀八先生に声をかけられて、私たちはとうとう別行動を始めるのだった。





高杉くんがあの時見たエレキギターを下げてやってきたことと、銀八先生がもう乱入はしなかったこと以外はあまり変わらず午後の部は終わった。
……高杉くん1人だけ、クラスTシャツを着ずに、バントの発表の時のままのいつものあの格好だった。
3年Z組の合奏は特別賞を貰って、私たちの最後の文化祭は幕を閉じたが、私はその姿に罪悪感しか感じなかった。

……なにやってんの、私。
高杉くん、あんまりTシャツとか1人だけ着てないとかそんなこと気にしなさそうだけど、それでも私は謝って返さなければいけないんじゃないのか。

銀八先生が間違えたのが悪いのは確かだけど、もう先生はみんなに謝って、探してくれと頼んでいたじゃないか。
私じゃないとチェックしなかったのと、気がついても持ったままでいたことはどう考えてもおかしいんじゃないのか。


結論にたどり着き、私は急いで放課後の学校で高杉くんを探し始めたが、結局私は彼を見つけることが出来なかった。


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