弐
建物を見上げているクソガキの隣に立っては俺もそのクソガキにつられて建物を見上げた。
「状況は」
「奴さん完全に膠着状態に入りやしたね」
「…そうか」
「今ザキに潜り込ませていやす」
「…今はとにかくアイツの連絡を待つか」
総悟のセリフに短く返事を返しながら胸ポケットから煙草を取り出した。
ーー午後14時15分頃、立てこもり事件が発生した。
小型のショッピングモール屋上に集められた客と従業員を人質にとり、俺たち真選組が包囲してから小一時間が経とうとしていた。
「強行突破しやす?」
「人質の救助が先だ。早まんじゃねェ。誰が交渉はしたのか」
「今近藤さんがしてやすぜ」
「近藤さんが?」
総悟が顎で示した場所には拡張機を片手に号泣する近藤さんの姿。
「お前らァアア!!こんな立てこもりなんてマネ…田舎のかーちゃんが泣くぞォオオ!…うっ…ぐすっ……なんで…なんでこんな…っ!全国放送デビューするくらいなら大食い選手権に出てからにしろよォオオうぐっ!ひぐっ…!」
「……対話交渉は無理だな」
「みたいですね。それから…これ」
「?」
「連絡が入りやした」
総悟に渡されたイヤホンを受け取って装着した途端、
『副長ォオオ!!お疲れ様です!今日も大好きです!ところで今日のパンツ何色ですかァアア!?』
「うるせェエエエ!!鼓膜破れるわァアア!!テメーいつものトーンで喋ってくんな!!ボリューム考えろ!!」
『え?副長はバストのボリュームある方がお好みでしたか?』
「おい総悟、この通信機壊れてんぞ」
「ありゃすいやせんでした」
通信機が繋がってる相手はあの馬鹿だった。なんだってこんな時に…。
ぶつくさ言いながら総悟に突き返そうとしたらイヤホンから『副長!』なんて切羽詰まったアイツの声が聞こえて、装着し直す。
「どうした!?ホシに動きが…」
『副長の声めちゃくちゃ良い声ですね!この通信機めちゃくちゃ声よく聞こえます!あーまるでイケメンの子守唄やー』
「永遠に寝かしつけてやろーかコルァ」
『マヨネーズの海に沈められそうですね』
「オイ、お前今どこにいんだ」
ビキリと頬に青筋を浮かべながら通信相手に殺意を込めて言い放ってやった。それから近くにある建物をいくつか見上げる。
『えっ、声聞いてたら私に会いたくなったんですか?』
「お前の給料は後で間違いなく減給しといてやる。ゼロ一つ消しておく」
『マジか。酷いじゃないですか副長!こんなにも身体張って仕事してるのに…!』
「さっさと居場所吐け。勝手に特狙隊の配置つけやがって」
『近藤さんの指示ですぅー!ちなみに副長達の後ろにある四つ越デパートの屋上です。私は、ですがね』
「あん?」
後方にある四つ越デパートの屋上を見上げたらライフルの先端だけが僅かに見えた。…そこかよ。
『ちなみに他の建物にも私の部下が張り付いてますよポリポリ』
「オイなんか今スナック食ってるような音が聞こえたぞ」