参
オーダーメイド製のライフル銃のスコープを覗き直す。
眼前には人質を抱えて首元に小刀を突きつける犯人の姿。そして耳にはイケメンの小言BGM。不意に伸ばした手の先にあるのは堅揚げポテト。歯応え良すぎてうっかり副長にバレたんだけど、クレームの連絡先ってどこにしたらいい?
「ーーえーと屋上にいる実行犯は六人、全員獲物持ちです。人質は五人ですね。子どももいます。総悟が三階まで来てますが動いてないですね。そこにも見張りがいる可能性があります」
『…お前菓子食ってんの誤魔化したろ。…まぁいい、人質の状態は?』
「やや疲労が見えます。特に女の子が一人、野郎に首元を押さえつけられてますね」
『そうか、総悟にゃ急がせる。少し待機してろ。お前ら特狙隊は真選組の切り札なの忘れんなよ』
「頼みますよ副長ー。4時から近藤さんと会議があるんですから」
『あん?会議だと?聞いちゃいねぇよそんなの』
「そりゃそうですよ。ストーカー講座ですもん」
『よし、講習料は1ヶ月の給料分な』
「ひぇえええええ」
ブツンと通信を切られて落胆しながらもまたもや堅揚げポテトに手を伸ばす。イケボが聞けなくなったのは寂しいけどやっぱ堅揚げポテトはブラックペッパー派だなぁなんて即座に考えを切り替えることにした。
ポテチに手を伸ばして貪れば、通信機から笑い声が入る。
『相変わらずの副長ラブっぷりっすね苗字隊長。その調子でライフル構えるなんてどういう神経してんすか』
「ふっ、副長ラビューたるもの如何なる時でも愛忘れるべからずよ。私のライフルはそもそも副長のハートを撃つためのものなんだから」
真選組特別狙撃隊、通称特狙隊は発足してまだ間もない部隊で、私の他にクソ生意気な部下が一人。総悟と同い年の乳臭いガキンチョの山田。あだ名はダーヤマだ。
『副長といやぁ、そろそろ朝礼スローガンに‘副長今日のパンツ何色ですか!’ってヤツ廃止して欲しいんすけどなんとかなりません』
「向こう百年はないね。転職オススメします」
『それ部下に言っちゃいます?』
「!」
スコープ越しの現場で動きが出た。主格犯のうちの一人が突然血相を変えて刀を振り回し始めた。…というか、人質と会話してて揉めたようだ。腕の中にいる少女が危ない。チャイナ服を着ているあたりはあの子は観光客なのかも…、不運だ。
さて、マズいんじゃないのー?総悟の居場所を確認すればもう屋上のすぐそばまで来ているのが確認できた。早くしてよー。
あの錯乱野郎が人質と一定の距離に入ったらぶっ放つとマイルールを設定し、銃弾1発分を装填確認して構えて愛しの副長へと通信をつなげる。
あと一メートル、あと五十センチ、
『名前?』
「すいません副長。ぶっ放ちます」
『!』
ライフル銃特有の銃声音の直後に激おこ男が肩から血を流して倒れ、その音を皮切りに総悟達が現場へ駆け込むのを見届けた。スコープから目を離して銃口を上に向けて止めていた息を吐く。
ひとまず特狙隊の仕事はここまでだ。肉眼で総悟達の様子を確認するとーー目を疑った。
「ん?人質が実行犯に襲いかかってる…?…ってか、あのチャイナの子なんで総悟とバトってるんだ…?」