よろフリヒロインと銀さんと眼鏡
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「名前が足りねェ」
その男、坂田銀時はとにかく疲れていた。
疲労困憊。満身創痍。百孔千瘡。とにかく疲れていたのである。「マジでざけんじゃねーよあのバカ王子。誰か強制送還してくんねーかな」ここ数日の仕事を振り返った。
額からチ◯コを生やしたどこかの星の王子が飼っていたペットが脱走。三日三晩街中を駆け抜けて保護したかと思いきや今度は違うペットが脱走というトラブルだらけの1週間を過ごしていたのであった。
とにかく今の銀時には恋人である名前が足りていなかった。「もうアレよ、糖分並みに足りてねェわ。早く会って癒されてェ。モフモフしてェ。あれ?モフモフってお前…それ定春じゃねーかふざけんな可愛いけどふざけんな。あいつだとモフモフプラスガブガブがもれなく付いてきちまうじゃねんか。モフモフプラスガブガブってカタカナ多すぎて訳わかんなくなってきた」と言うくらいに。
「ナレーション長ェんだよ!!何しに来たんだヅラ!!」
「ヅラではない。桂だ」
「今オメーに構ってる暇ねーんだよ早く地平線の彼方へ消え失せろ頼む300円あげるから」
「銀時お前……300円で俺のことを買うつもり…なのか…」
「テメーは何を顔赤らめてんだ気持ちわりィな!!」
「300円ぽっちでは俺のことは買えやしないぞ銀時。500円でないと」
「安いな!500円でオメー買って速攻屯所に連れてってやらァ!賞金出てえらいボロ儲けだわ!」
「…ったくお前ってやつは……。買うんだな?」
「この小説違うジャンルになるからやめて!?詐欺で訴えられるから!」
ナレーションがウゼェから切り替わって銀さんがお送りしとくわもう。面倒くせェ。クソ、バカとやり取りしたせいでHP下がったわ。名前の家目前だってのになんつー刺客だクソッタレ。
ピン ポーン
玄関の扉の向こうからほんの少しだけインターホンの音が聞こえた気がした。壁薄いんざゃねーのこのアパート。ったく、そろそろいい加減一緒に住まわせた方がいいんじゃねーか?その方が絶対良いわ。
思考がちっと斜め上を浮遊していたら目の前のドアから解錠の音。
あー、ここまで来るのマジ長かったわ…。
「銀さん?」
「よう名前、銀さんが来てやっ、……」
お風呂も上がって、夕食の片付けをしていたら突然インターホンの音が響いた。
玄関ののぞき穴を見てみれば、くりんくりんの銀髪の姿が見えたのでドアを開けてみたら、そこにいたのは銀さん。のぞき穴から見るよりも随分と疲れているように見えた。
「こんな時間に珍しいですね。どうかしたんですか?」
私の顔を見たと同時に何故かフリーズモードの銀さん。あ、そういえばすっぴんだった。思わず手で目から下を覆った。
「あ…お見苦しい姿ですいません…」
「待て待て待て逆効果!それ逆効果だから!!」
「はい?」
何言ってんだこの人は。とりあえず外は少し寒かったから、銀さんを部屋に招き入れ、温かい飲み物を用意し、それを部屋の卓袱台の上に2つ置いた。
チラチラこっちを見てくる銀さんを睨む。
「…なんですか。そんなにすっぴん酷いんですか」
「んなワケなーだろ。…その…アレだよ、アレ」
「?」
「罵って下さい」
「気持ち悪っ」
思わず持ってたお盆が銀さんの顔に飛んでった。いや、断じて私のせいではない。多分お盆が銀さんのことが好きで飛んでっただけだ。
「お盆に好かれるって聞いたことねーよ。お盆に好かれるメリットってなに」
「顔に飛んできてくれる可愛いところ」
「いやメリットじゃねェだろ普通に。迷惑でしかねェよ」
お茶を飲んで短い吐息をついた銀さんは卓袱台に頬杖をしながら私を指差す。
「いや、お前不意打ちでソレはダメだろ」
「ソレってなんですか。すっぴんですか。別人レベルとでも仰ってるんですか。えぇ、あなたが好きだとほざいてるのは紛れもなくこのぺろんぺろんのお顔ですが何か。チェンジですか?チェンジってことで?」
「ちげーっつってんだろ人の話を聞け。なんで眼鏡?聞いてねーんだけど銀さん」
「え?」
…眼鏡?
「…あぁ、銀さん知らなかったですか?私、視力が良すぎて、部屋ではあえてをかけて落としてるんです」
「どんなご褒美だよありがとうございます」
「大変だ会話ができないわたあめがいる」
「わたあめってお前、それ俺のことかコノヤロー」
ぐいっとお茶を飲み干したのを見届けて、もう一杯入れてあげようかと立ち上がってキッチンに立つ。
銀さんは我が家同然にテレビのスイッチを入れて、漫才コントの番組にしてゲラゲラ笑っている。…コイツ…マジでなにしに来たんだ…。
「わたあめさんがこんな時間になんの御用で?」
「あん?わたあめさんね、ここ最近むちゃくちゃ疲れてさー、可愛い彼女に癒されに来たんだよね。てな訳で癒してくんない?」
「えぇ…い、癒すって言っても…」
ちょっと疲れた表情の銀さんが一度こちらをチラリと見ると、またテレビの方を向いた。癒せって言われても…なかなかの無茶振りだ…。甘いもの好きなはずだけど生憎ケーキはおろか、チョコもない我が家。
「まぁもう既に現在進行形で癒されてっけど。癒しングだけども。……ん?」
「…ん」
「え?なに?カンタ?」
「ん!」
「ちょ、待て待て何!?」
テレビの電源を落として銀さんの横に正座で座る。ちょっと恥ずかしいが、両手を広げてスタンバイ。
「か、come on !」
「ムダに発音良いなオイ!!?え?なに?マジ?良いの?」
「嫌ならやめます」
「待て待て待て!!お願い待って!写真撮りてェ!家宝にするわマジ」
「くたばりやがってください」
「掌底突き!?」
顎を抑えて悶えている銀さんはやっぱり本当に疲れているらしい。
……い、今ならいけそうな気がする。
「……マジか」
「…マジです」
しみじみとセリフを述べる銀さんに恥ずかしさがこみ上げた。真っ赤な顔を見られないように後ろからぎゅっと首に抱きついてみた。
「なぁ、もう一個わがまま言っていい?」
「欲張り」
「前からの方だとすげー嬉しいんだけど」
「…はいはい」
のそのそ移動したら私の真っ赤な顔を見た銀さんがニンマリ笑った。
「締める」
「ぐげふ!?」
前から銀さんの首にぎゅっと抱きつく。銀さんに腰を抱きつかれて身動きが取れなくなった。
「あーーーたまんねーーー」
「…そうですか」
「すげー良い匂いするしあったけーしすげー可愛いし」
「そ……そうですか」
「そ。…名前」
「なんですか?」
「チューしていい?」
「っ……どうぞ」
銀さんの腕が緩んで、私もゆっくり銀さんから離れると、顔をまたマジマジと見られる。
「あの…っ、すっぴんなんでホントに、っんんっ」
銀さんのあったかくて柔い唇が私のに重なった。唇だけでは終わらなくて、おでこ、それから頬にあったかくて優しい口付けが降る。
「コレ良いけど邪魔だな」
こつん、と眼鏡に顔が当たった銀さんは少し苦笑いして私の顔から眼鏡をとった。
わたあめが満足するにはまだ少し時間がかかる模様です。
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