銀さんと幸せな家庭のはなし
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「「……ほあ〜〜〜」」
なんとも間の抜けた声に視線がそちらに動く。
「「かんわいい〜〜〜」」
真っ白い部屋に真っ白いベッド。そのすぐ横にあるベビーベッドには文字通り齧り付くようにして中を覗いているのは神楽と新八だ。
2人の感嘆とした声が面白かったのか、横にいた名前が微かに笑う。
「あ!今笑った!」「目が合った!」とはしゃぐ2人に思わず「ガキだな」と思ったが、それはそのまま声に出ていたらしい。ジロリと睨まれた。
「……本当に銀ちゃんの子アルか」
「……申し訳ないですけど本当に信じられないです」
「なんでだよ!このクルクルの毛間違いねェだろ!!自分で言ってて傷つくけどよ!!」
ビシッとベビーベッドの中を指さしたら神楽にへし折られて涙が出た。
「なんなんだよお前ら、そんなに銀さんの遺伝子信じたくねェ?残念だったな。こいつら俺のタマ袋から出てきたんだよ。タマ袋からハイドロポンプで出てきて険しい崖を滝登りして、2人が一斉にお邪魔してコレだぜ?銀さんの銀さんたちの生命力ハンパねぐげふっ!!」
「やめてくんない。その言い方やめてくんない」
ベッドにいる名前から盆が飛んできて頬に食い込んだ。ちょ、待て、フリスビー風に投げんのやめれ。
「ちょっと銀さん。アンタ二児の父なんですよ…。子どもが真似しちゃうから言動に気をつけてくださいよホント…」
「銀ちゃんの子どもがこんなに可愛いなんて豆腐で歯を痛めるくらい信じられないありえない話アル。ね、銀子に銀太郎〜」
「いや勝手に名前つけんのやめてくんない?まだ決めてないんだけど」
そう。
新八と神楽の言う通り、俺ァパパになったわけだ。それも二児の。性別が違う双子ってェことは、二卵性ってヤツ?
一児すっ飛ばして二児な。左右のタマ袋からそれぞれ出てきてくれたに違いない。
ベビーベッドの中にいる俺と名前の天使に神楽はとんでもねェ名前をつけながらおもちゃをカラカラ鳴らしている。
「ほんとあんなちゃらんぽらんの遺伝子でこんな天使が出てくるなんて。ほんと相手が名前さんで良かったですよありがとうございます。僕らもう全力で可愛がります」
「やだ嬉しい…ありがとう新八くん…!」
「そうアル。銀ちゃんの遺伝子なんてほとんど要らないヨ。パピーの余計な天パウイルスが付いてきて子どもの将来が可愛そうネ。よしよーし、銀介銀代〜私がママアルよ〜」
「そのパピーをディスるのやめれ。そして名前のアレンジ広げんじゃねェ。残念だがその天使は銀さんが主成分だ。いや、半分か。いや待て、タマ袋左右から飛び出してくるっつーことは、あーなんだ、とりあえずくそ可愛いなマジで」
「親バカセンサーうざいアル」
汚物を見るような眼差しを食らったが、なんつーかもういつの間にか芽生えた親バカセンサーが全てをシャットアウトしているらしい。ちっとも痛くもかゆくもねェんだわコレが。
「それにしても、名前さん、双子のお産大変でしたよね。お疲れ様でした」
「ありがとう新八くん」
「僕らそろそろ仕事があるので、また明日来ますね。何か欲しいものがあればそこの人に伝えてください」
「そこの人って、ちょっ、そこの人って俺?」
「アイスなり米なり肉なりそこの人に買ってもらうネ」
「え?そこの人?パパじゃなくて?いや、旦那さんとかじゃなくて?」
「わかった。そこの人に伝えておくよ」
「待って待って名前ちゃん旦那さん切ないよ」
やや時間が経ってから神楽と新八は病室を後にした。邪魔モンが居なくなって、ようやく家族が揃う。ベッドの脇に腰掛けると名前から剥かれたみかんを渡された。
「銀さ…」
「ん」
名前に名前を呼びかけたところで、唇に触れた。直んねーモンだな。
「銀時、は仕事行かなくていいの?」
入籍してからやや一方的に決めさせてもらった2人きりの時のルールだ。「2人きりの時ぐらいは名前にしてくんね?」と。
長年の「銀さん」呼びがかなり根強く残っているらしい。たまーに戻ってるからこうやって矯正しているんだわ。
「社長行かなくても優秀な部下いるしな」
「じゃあ次からは万事屋新ちゃんとグラさんだ」
「パパの尊厳なくなるからやめて」
「あははっ、懐かしいね、このやり取り」
不意に笑ったら腹に響いたのか、緩慢な動きでお腹をさする名前の手に自分の手を添えた。
「ありがとな…名前。ずっとここで育ててくれててよ」
「……正直、私不安なんだよね。上手く、育てていけるかなぁって…」
「名前…」
不安そうに瞳を揺らす名前に手を伸ばそうと腕を上げる。
途端に脳みそに衝撃が走った。ちなみに物理的な方。
「おごばっ!?」
体が吹っ飛ばされる感覚に目を開けると壁だった。それから辺りを見渡すと見慣れた我が家の和室の景色。和室の出入り口には絶対今しがた俺を蹴ったであろう神楽の姿。
……あれ、さっき……あれ?
「銀ちゃん!!早く起きるヨ!!」
「……え?」
「名前!!陣痛始まったって!!」
「…あり?」
ぶつかった衝撃に体のあちこちが悲鳴を上げて、頭はついていけてねェ。
「何を寝ぼけてるアルか!もういいヨ!定春ゥー!このもじゃもじゃ咥えて連れ出すネ!」
「ワン!」
「だー待て待て待て!思い出した思い出した!銀さん寝ぼけてたわ!!」
慌てて着替えようとしたが、自分の格好を見て気付いた。そうだ、いつ名前が産気付いても出られるように最近いつもの一張羅で寝てたんだったわ。
あんまり居座ってっとマジで定春に噛みつかれそうだったから慌てて立ち上がって部屋を出る。
そうか、あれは夢だったか。めちゃくちゃリアルな夢と現実の区別が今更ついた。なんで今名前がまさに頑張ってるって時に何を産後の夢見てんだ俺ァ。
「赤ちゃん、可愛いアルかな」
「あったりめーだろなんてったって俺と名前の遺伝子が入ってんだ」
「天パウイルスが付いてきたら可哀想アル…」
「……うっせェな(…そこは正直天パはさすがに可哀想だから、マジで名前似のサラサラストレートヘアで生まれてきますように…)」
会ったらなんて言うか。立ち会えたら手ェ握った方が良いんだか。生まれてくるガキにはなんて一言言ったらいいか。産後のマタニティブルーってやつを吹っ飛ばすにゃ何が一番いいんだろうか。
ケツの奥のむず痒さを感じながら神楽と名前の居る病院へ向かった。
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