少年五条と不老不死


※まだショタるは六眼使いこなせてない設定
※五条家事情捏造
※ぽっと出の話のため設定の詰め甘い


これは私と悟様の昔の記憶の話だ。その年は千九百九十九年だったか。

座敷からずいぶんと離れた庭で空を仰ぎ見る小さな背中をようやく見つけて足を止め、安堵のため息を吐くと白い息が宙を舞った。
無下限呪術と六眼を持つ彼のことだから心配はしていなかったけれど、こうも長い間姿が見えないとなるとやはり心配だったから今回も無事に見つかって良かった。

「悟様」

足を進めるとその先にいた小さな背中の持ち主は少し間が空いてからこちらを振り返り見て、綺麗な青い双眼が私を捉える。彼が生まれてからもう一体何度見たことか。一万回を超えたあたりからカウントすることはやめてしまっている。

「もう……随分探したんですよ?」

彼の叔父からのお願いだった。「悟がまたどこかへフラリと行ってしまったから連れ戻してきてくれ」と。しがない侍女の私は叔父様のお願いを快く受け入れ、三時間前から広い五条家の屋敷をひたすら彷徨っていた。
私は彼を見つけるのが他の侍女に比べて上手かった。他の者に任せると朝消えたら夜まで見つからないことがザラで、でも私が探すと大体三時間ほどで見つかる。いや、”見つけるようにしている”、に近い。三時間も探すなんて、と思う人がいるだろうが、正直な所このくらいの時間、この世界に生まれ落ちてから今日まで二百三十七年間に比べたら一瞬なようなものだ。

「またお前ー?」
「えぇ、また私です」
「お前呪力ミソッカスすぎて視認しづらいからすぐ見つかんだよなー。あのジジイもそれ分かった上でお前に探させてんだろ?うっざ」

ごしごし目元をこする彼に微笑みながら、自分より小さな体に着ていた羽織を肩にかけてやる。どうやらかの六眼はまだ幼い彼は完璧に使いこなせていないらしい。

「そうおっしゃらずに。心配されてるんですよ叔父上様は。さ、日も落ちてきましたし、冷えますからお屋敷に戻りましょう?明日はお誕生日なのですからお風邪を召されたら大変です」
「はいはい」
「返事は一回」
「はーい」

自分が着ていた羽織を肩に乗せた彼の背中を軽く叩いた。この子ども、五条悟は明日で十歳になる。私がこの世界に生まれ落ちて、二百二十七年目の冬にようやく会えた人物だ。…本当に長かった。

まず言っておくと、私は前世の記憶がある。生まれてから数十年間はなかったけど。

熱烈な呪術廻戦の大ファンだった。本誌は必ず毎週買ったし、アニメもリアタイ派、単行本、グッズ、イベント、あらゆる呪術廻戦関連全般に心血とお金を注ぐ人生を送っていた。

前世で生命活動が止まったその日はイベントの日で、帰り道だった。浮き足立って家路に着こうとしている私にトラックが突っ込んできたのだ。目が覚めたら赤ん坊で、しかも意味わからないものが見えるようになっていた。

最初の異変はそれで、その後は三十になろうという時に気づいた。偶然町で再会した同級生が「あなたって学生時代のまま変わらないわね。うらやましいわ」と私に告げた。そう、私は身なりが二十代前後のまま変わらなくなってしまっていたのだ。

初めこそは童顔だけかと思っていたのだけれど、さすがに四十にもなると同級生の私を見る目は羨ましいと思うようなそれから化け物を見るようなそれに変わり、私はその視線から逃げるようにその土地から離れた。

自分の身に起こっている得体のしれない気持ち悪さに何度か自死を試みたこともあった。けれど、海に身投げしても目が覚めたら浜で寝こけて通りがかりの人に叩き起こされたし、切った腕は次の日には跡すらも残らなかった。そう、不老でありながらも不死でもあることに気づいてしまったのだった。

そうこうして名前をころころ替えながら日本中を渡り歩いているうちに小耳に挟んだのが両面宿儺という歴史上の人物の存在。その瞬間、私は前世を思い出すこととなった。呪術廻戦の本編が始まるよりずっと前の時代に生まれてしまったことに気付いたのだ。

呪術廻戦の世界に来たことに気づきながらも日本各地を転々と移動した私は縁があって今から十五年ほど前に五条家に使える家系の人間に拾われ、今こうして実際に五条家の中で侍女をしているというわけだ。長生きするもんだね。こればかりはこの得体のしれない自分の不老不死の能力に感謝した。

「お前さ、」
「はい」
「不老不死なの?」
「え」

不意に告げられた言葉に息がつまる。

「ど、どうされたんですか…急に…!あはは」
「家の連中がお前のこと不老不死だと言ってたから」
「まさか、そんなこと…。若作りに勤しんでるだけです」
「ふーん」

屋敷に向かう途中で「悟!」と彼を呼ぶ声が聞こえて顔を上げると、彼を待っていた叔父上と他の侍女たちの姿。あっという間に大人に囲まれるまだ背の低い彼が子どもでなんとも可愛らしい。そのうち自販機を超えてしまうんだから、今の姿をしかと目に焼き付けておいた。

「おい」
「どうされましたか?悟様」
「…次は負けねぇから」

侍女たちに囲まれて座敷へ上がっていった彼に微笑む。次は負けない、か。くるりとその場で踵を返して自分の持ち場へと向かう。

「――悟様、かくれんぼしてたらしいよ」
『それはそれは…。人外が探し当てるなぞ野暮なことをしたな』

背後に憑いていた憑き物がニタリと笑った。