なかなか珍しい呪われ具合の青年を見かけた。
名前と待ち合わせていた駅前のカフェに向かう途中、たまたま濃いめの呪いに呪われている男子高校生を見つけた。心優しい五条さんだから通りがけに祓ってあげようと少し近づいたら、それまで物陰に隠れて固まっていた青年が急に動き出したから偶然ぶつかることになった。まぁ、避けようと思えば避けれたけどね。
「おっと、失礼」
「あ、」
最初は中腰になってたから分からなかったけど意外と背高いらしい。男子高校生はぶつかったボクに気づくと少し驚いたように目を見開くが、まぁそんな視線を寄越されるのはもうすっかり慣れた。こんな見てくれなのだ、下手に警戒されないよう愛想笑いを浮かべつつ、呪力を纏った手を彼の肩に乗せた。
「ごめんね?怪我はない?」
トン、と触れた瞬間に彼の背にあった呪いが消散。祓除の瞬間に見せた切迫の表情からして、どうやら呪いに敏感なタイプらしい。たまにいるんだよねぇ、見えないけど呪いの察しだけはやたら良い人間。さらには呪いが集まりそうなルックスときたもんだ。まぁボクほどではないけど。
もしかすると、呪いが視認できるようになるのはそう遠くないかもしれないかもな。だからといって、ボクには関係ないことだけどね。
呆然としてボクを見上げる男子生徒、その隣にいた別の子が恐る恐る言葉を口にした。
「オイ…及川…?」
「あ…大丈夫、デス…!こちらこそよそ見なんかして…スミマセン!」
「んじゃ、お互い様だね。それじゃあおれ…ボクはこれで」
一人称は絶賛矯正中なのだ。ついうっかり出てしまった、言い慣れた本来の一人称をどうにか言い直しながら名前と待ち合わせている店へと足を進めた。
――
「アーララ、可愛いらしい制服姿が見れると思ったのに」
生クリームたっぷりのコールドドリンクを注文して、店内を見渡すと呪力コントロールができている唯一を見つけた。窓辺で一人縫物をしている彼女に近寄ると、その格好がごく普通の私服であるのが分かって残念そうにして話しかける。
「五条さんだけにはお金取りますけど良いですか」
「つれないねぇ。今日学校は?」
「今日は休みました」
「やーい不良ー」
「五条さんだけには言われたくないです」
ボクが来ようとも特に驚きもしない彼女の目の前の椅子を引いて腰掛ける。窓辺から差し込む陽気が温かく、確かにここは良いチョイスだなと彼女の座席選択に賛同した。
「そういえば、お前こないだやらかしたらしいね?腕、ざっくりやられたんだって?ははっチョロすぎ」
「…なんでそう言うとこ耳が早いんですか?…今日の昼間、硝子さんが仙台立ち寄ってくれたので治してもらいましたけどね」
「あ、硝子来てたんだ?」
「近くで学会があったみたいです。お忙しそうで、治したらすぐに新幹線乗っちゃいましたけど」
「ふーん、あっそ」
ここ数週間、北海道、青森、山形と、秋田とさながら戦国武将の領地侵略みたいな勢いで日本列島の上から下りつつ任務をこなす日々だった。宮城には名前がいると聞いていたからちょっと顔を出してみれば、久しぶりに元同級生の名前。そいつはこんな生クリームたっぷりの甘い飲み物なんて好むような女じゃなく、ブラックばっかり飲んでるようなヤツだ。買ったドリンクを口にしながら何の気なしに名前のカップの中をのぞくと、シンプルなカフェオレ。呪術関係の女子ってなんでこんなに可愛げがない女の子が多いんだか。フラペチーノ美味しいのに。
「それで?今回なんの仕事なの?前、祓っても祓えないとかざっくりしたことしか聞いてないんだけど」
「…これです」
徐にカバンから差し出された紙束を手にする。学校内の呪いの祓除と被呪者の呪いの祓除、ねぇ。
「ふーん、ボクなら秒で終わる内容だね」
「…でた、ぎごちない一人称。……はぁ、それなら五条さんがどうにかしてくださいよ」
「お前がやんなきゃ意味ないだろ?」
「…」
「ま、ひとまずはそのお守り効果あるとイイネ」
「ホント他人事みたく…。どんだけ手間だと思ってるんですかコレ」
吸いあげたドリンクを机に置いて、テーブルに頬杖をつく。
「手作りってのは人の想い、言葉を返せば呪いがよく憑く。ソレは効果テキメンだと思うよ。それ作ったら帰れるとでも思っておけば良いさ」
テーブルの上に書類を放り投げ、時計の時間を見ればもうお暇する時間だ。
「さーて、そろそろ新幹線の時間だ。大好きな五条さん次の仕事行っちゃうよ」
「……見送ります」
「アラ!やっさしい!どういう風の吹き回し?」
「たまたまですよ。私もそろそろ帰りたいので」
2人で店の外に出ると、視界の端で先刻祓ったばかりの男子高校生が物陰にいるのを見つけた。店内にいるときから視線は感じてたけど…ひょっとして名前の知り合いだったりして。
呼びつけたタクシーを待つ間、悪戯心がわく。
「名前」
「うわ、」
腕を引いてボクより頭何個分か低い彼女の首裏に手を伸ばして引き寄せる。タクシーを探していた名前からすると完全に不意打ちだったようで、驚いたように近づいてきた名前は慌ててボクの胸と腹の間に手を当てて空間を作った。
「びっくりした…なんですか…!」
なかなか見ることのない慌て様にほくそ笑みつつ、顔に、それから耳元に口元を近づける。はてさて、ボクたちのことは彼にはどう見えていることやら。
「ち、か…放してくださいよ…!」
「まぁまぁそのまま聞きなさいって。その被呪者さ、そんな秒速で憑くのなら近くに根源がいるのかもよ」
「根源…ですか?」
「そ、先輩のありがたーいアドバイスはこんなもんかな」
「ありがたいどころか余計に混乱招きかねませんよ」
「不用意に近い、セクハラ、離れろ」とトリプルコンボでボクを引っぺがした名前が道路を見る。バゴンとした音に振り返ると視線を送るとタクシーが一台到着したところだった。
「来ましたよ、タクシー」
「うん。ま、せいぜい頑張りな。怪我に気をつけなよ名前」
「え」
開け放たれた狭い後部座席に体を押し込みながらそう言えば、背後から心底驚いたような声が飛んでくる。ドアを閉める前に「何」と反論した。
「いえ…五条さんにそんなこと言われる日が来るだなんて思わなくて」
「ボクのことなんだと思ってんの」
「まぁ、その、五条さんの方こそ……達者で?」
「武士か」
ふっと笑った彼女は肩の力が下りたようだ。
大丈夫、名前なら解決できるよ。実際に口にしても「他人事みたいに」なんて可愛げのない返事が飛んできそうだったから、「またね」の一言でドアを閉めた。
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