※京都観光に出かける直前のif話。
※もしもあの人が高専生だったら。
※方言すみません、適当です。
灰原のキラキラとした眼差しに負け、京都巡りの約束をしてから三十分くらい経った頃。夏油先輩達は今東京校と京都校の生徒同士で情報交換と言う名の軽い打ち合わせに入っていた。それが終わり次第灰原、私、夏油先輩、五条さんという謎メンツで京都観光だ。
「楽しみだな!食べ歩きしたいものたくさんあるんだよね僕!八つ橋、みたらし団子だろ?それから金箔ソフトクリーム、和パフェ、葛切り、わらび餅、あとはー」
「食い倒れツアーか」
正面玄関付近に設置されたロビーらしきスペースに置かれていた来客用ソファに二人して座り、灰原はボロボロになってきた観光雑誌をひたすら眺めていた。相当読み込んでるなアレ。
「苗字も見ておきなよ!せっかくきたんだしさ!」
「うわ、すんごい付箋の数…」
灰原から手渡された雑誌には既に付箋が何枚か貼られていた。適当に数ある一枚を摘んで捲ると清水寺、地主神社の紹介ページ。うわ出た縁結びで有名なところ!
雑誌って不思議だよねぇ。小説とか長文を読む習慣がない私だけど、どうしてかこういう雑誌になるとつい長々とした説明文を目が追いかけてしまう。へぇ、恋占いの石…、
「ーー何や、君らおのぼりさん?」
耳元で聞こえた関西訛りの声に驚いて、咄嗟にソファから立ち上がりながら後ろを振り返る。そこにいたのは和装の黒服を纏った男の人…渦巻き柄のボタンがひとつついているあたり高専生のようだった。
…全く気配を感じなかった。
「女の子がそんな顔したらアカンて。にっこり笑っておきぃな」
「…え、っと…?」
「あ、そういえば今日交流戦やったね。僕単独任務で忘れとったわぁ。君らもしかして東京校の…?僕は京都校の禪院直哉、以後よろしゅうたのんますわ」
「ども、東京校一年の灰原雄です!」
「なんや、君一年生やったんか。僕も一年やねん、仲良くしよーや」
「うっす!よろしくお願いします禪院さん!」
「タメや言うてるのに敬語なんウケる。君オモロいな」
ぜん、いん…?なんかどっかで聞いた覚えがあるな。なんだっけ……あ、あの御三家のだ!へぇ…五条さん以外の御三家の方とか初めて会ったな…。そして正直なんだか深く関わったら面倒臭そうなオーラがすごいんですけど。
私の考えていたことがバレたかのように禪院さんの切れ目がこちらに向けられる。好奇心…それから見下したような……気分が悪くなるような眼差しだ。
「ほんで?がっつり縁結び特集ページ見よった男と縁が無さそうな君は?」
…言い方よ。一瞬脳の片隅でアホ面の五条さんが駆け抜けた。似てる。あの人もこういうデリカシーのない言い方しそうだ。
「…同じく東京校一年の苗字名前です」
あまりこの人と関わりたくなくて「私達、用がありますのでこれで、」と言いかけると「君があの苗字名前ちゃんか」と感心したような声と手を軽くパンと合わせる音が響いた。
「あの、ですか?」
「だから僕らタメ言うてんのになんで敬語?まぁええけど…」
「東京人お堅いねんな」とぽりぽり軽く頭を掻いた禪院さんが私の方に指を指す。
「君ぃ今禪院家ん中じゃちょっとした有名人なんよ?自分の立場を弁えずに特級相当を退けて勝手に死にかけた術師がおるってなぁ。こんなオモロいアホ術師聞いたことあらへんわ」
「……は?」
禪院さんが急に目の前に現れ、急に詰め寄られた距離に体を強張らせながらも一歩下がろうとすると、顔を掴まれて動けなくなる。
無遠慮なその腕を掴み抵抗するも、びくともしない。
「ん、ぐっ…!」
「呪力も不安定、得物がなきゃ呪いもロクに祓えへん…ははっ、君なんで術師やっとるん?術式と呪力があんならさっさと他所術師サマの家に入ってなんぼでも子供産んだらええやろ」
「な、にを……!」
私の顔を掴む禪院さんの手を灰原の手が掴み取った。
「うーん、ちょっと何言ってるのかよく分からないですよ禪院さん」
顔は禪院さんの方を向いていて見えなかったが、珍しく灰原の声にトゲがある…ように聞こえた。
「アララ…言うてること理解できんかった?別に悪い話やないで。君そんなツラ悪ないし、なんなら禪院家に嫁ぎにおいでぇな。ガッタガタ呪力でも少しは役立つと思うねん」
「は……?」
な、んだコイツ。唖然と目の前の男を見上げていると、その後ろに大きい影がぬっとふたつ。
「宗次郎クンじゃん久しぶりー」
「や、久しぶりだね。元気にしてたかな直哉」
禪院さんの背後から、それぞれ左右を挟むように音もなく姿を表したのが五条さんと夏油先輩だった。
「!………お久しゅうございますなぁセンパイ方。僕宗次郎ちゃいますってぇ何度言うたら分かってもらえるんですか悟セーンパイ」
「やだなーセンパイとかそんな硬っ苦しい敬語!ガキん時みたいに悟クンて気楽に呼んでよ。俺らの仲……じゃん?」
お、おぉ……なんか…どこかピリピリしているようなら気もしなくない。五条さんががっつりと禪院さんの肩に腕を回す。
「で、お前あれから縮地速くなった?」
「ははっ、縮地ちゃうて悟クン。あんまそないネタ言うてると和月先生に怒られるで」
「直哉、スピードばかり注視してパワーを落としてはいけないよ。君は得物を持たないんだから尚更筋トレして持久力身につけないと」
「いやぁ、相変わらずお厳しいなぁ夏油サン。久しぶりに会うたばっかりやのに」
「ちゃんと術式の精度も上げてんの?お前昔から呪力ロス多かったけど」
「そうだったのかい?それなら基礎の問題になってくるねぇ?禪院家の次期当主として少々いただけない話になってくるね」
「……」
「「稽古ならいつでも付き合うよ?」」
明らかに黒い笑みを浮かべる五条さんと夏油先輩に挟まれた禪院さんはどこか居心地の悪そうな表情を浮かべる。そりゃそうだ……だって圧が……圧がすごいもの。
「……はは、東京から遠路はるばる来ていただいたセンパイらのお手を煩わせるわけには行きませんわぁ。自分で精進することとしますわ。…ほな、僕はこれから報告書提出せなアカンからここらで失敬させてもらいますぅ」
灰原の手を振り払った禪院さんは繕ったような笑みを浮かべるとロビーを後にする。そんな禪院さんの背中を黙々と見つめる三人をチラリと見上げてみた。……なかなかギスギスとした空気感だ。
「あ、あの」
「打ち合わせもう良いんですか?」と言いかけたところで、三人の顔がこちらに一斉に向けられて「ヒッ」と軽く悲鳴が零れた。
「だ、大丈夫だったか苗字!?」
「災難だったね。御三家には注意しないとダメだよ名前」
「御三家ってそれ俺も含まれてんの傑?」
「…しかし軽率に女の子に触れるなんて許せないね」
「スルーかよ」
先程の怖い表情から一転。私の肩を掴んで心配してくれる灰原、指の背で先程掴まれていた頬を優しく撫でてくれる夏油先輩、禪院さんが消えていった方向に向かって舌を出し、中指を立てながら「あんなの近づかせてんじゃねーよ、どんくせぇな」なんて言う五条さん達を見て驚いた。
……まさか、さっきのって……。
それに気づいた瞬間笑いが止まらなくなってしまう。あぁ、そういうこと。私が好き勝手言われてて代わりに敵意を放ってくれてたらしい。
「はぁー、笑った。…大丈夫ですよ、来年私がぶっ潰します」
「何それウケる」
笑いすぎて出てきた涙を拭いながらそう言ったら、ふと見上げた先にあった青い目とばっちり合う。その双眼が愉快そうに私のことを見下ろしているのだけれど、こういう見下され方は嫌いじゃないなぁとちょっぴり思ったのである。
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