まにまにこぼれ話4

※もしあの人が高専関係者だったらなif話。

「――へっぴり腰」
「へ?」

呪術高専内にある中庭のすぐ側に設置された屋外の水道で汗で砂が張り付いた顔や腕を洗い流してたら、水道の向こうから声が聞こえた。
顔を上げて石造りの水道の向こうを見ると、そこにはベンチがあって、いつの間にかそのベンチにはお兄さんが腰をかけていた。組んだ足の上で頬杖をつきながらかったるそうな表情でこちらを見ている。片手には新聞紙。うわ、イケメン。

「あと股関節かてーな。もっと柔らかくしたほうが将来的に夜の役に立つぞ」
「……はい?」

突然のセリフになんのことか分からないまま、濡れていた顔をタオルで拭ってもう一度お兄さんを見る。突然現れては突然消えていくんじゃないかと思ったけど、まだお兄さんの姿はそこにあった。
短髪黒髪に切れ目、端正なお顔を持ってるのに口元には痛々しい古傷。……うん、見たことないな。

「あのー、どなたですか…?」
「棒術使いかお前」
「へ?あ、そう…ですけど…」
「来な、ちょーど夜蛾センいなくて暇してたんだ。相手してやるよ」
「はい?」

新聞を雑に畳終えたお兄さんは「どっこらしょ」とおっさんくさいセリフを言いながら立ち上がり、そこら辺にあった小石を何個か拾いながらそんなセリフを述べる。

「女の子には特別サービス。タダで指導してやるよ」
「!」

親指に小石を乗せたお兄さんはそれをこちらへ向けて弾くと、弾丸よろしく小石が私に迫る。慌ててそれを咄嗟にタオルで防いだ。……あ、危なっ…!

「な、なんなんですかいきなり…!?」
「伏黒甚爾。二年以上の体術の講師をやってる」
「え、うそ、先生なんですか…?」
「どうだ、カッコいいだろ」

「ただのムキムキ変質者かと…」言いかけた言葉は飲み込んだ。コキコキ首を鳴らして軽い準備運動に取り掛かる伏黒……先生は不敵に笑う。その所作を見ているだけでわかる。この人絶対強い。
ゴクリと無意識に喉を鳴らしてタオルをぎゅっと握りしめた。

「!」

相次いで放たれた小石をタオルをぶん投げて防ぎ、咄嗟に水道から下がって近くに立てかけてあった六尺棒を手に取り構える。

「え」

振り返った先には伏黒先生の姿はない。うそ、さっきまでそこにいたのに。近くの木々、辺りを隈なく視線を送る。

「そうだな、イケメンティーチャー講座そのイチ。敵さん、特にイケメンから目は離すな」
「!」
「おっ、防いだ」
「あっ、危なかった…!」

真後ろからの声に振り返り見ると、伏黒先生の足が視界の隅に見えてギリギリのラインでそれを棒で受け止めた。

「そのニ。戦闘時も夜も足はしっかり開けとけ。恥じらいは捨てろ」
「夜!?うわっ!?」

防いだはずの足に更に力が加わって、そのまま堪えきれずに蹴飛ばされ、せっかく洗い流した顔がまたもや砂まみれになった。

「さっきからちょくちょく言ってることわからないんですけど!!」
「あぁ?夜っつったらそっちしかねーだろ」
「そっちって!!………え、まさか」
「セックス」

真昼間っていうのに微塵も恥じらう様子もなくニヤニヤと言いのけた伏黒先生が眼前に迫る。

「せ、セクハラ…!」
「ははっ、顔赤けぇな。いいねぇ、若いってのは」
「信じられない、ホントに先生ですか!?」
「おーい、攻撃ブレてんぞー。集中しろ集中」
「……んな、」
「それとも――」

棒を持つ手を蹴上げられて棒を手放しかけたけど、それをどうにか堪えたらバランスを崩した。あっという間に伏黒先生によって地べたへすっ転がされる。

「抱かれたくなったか?」
「……っ!!」

青空をバックにした伏黒先生がまたもやニヤリとほくそ笑んだ。さりげなく馬乗りされ、それに加えて棒も押さえ付けられて抵抗ができない。

「武器を手放さなかったのは花丸くれてやるよ」
「…何故でしょうか、ちっとも嬉しくないのは」
「あ?俺の下にいて悦ばなかった女はいなかったぞ」
「だからセクハラ!!夜蛾先生に言いますよ!?」
「あーそりゃ勘弁」

案外素直に私の上から退いた伏黒先生は、起き上がった私に手を差し伸べてくれて、お言葉に甘えてその手を掴んだら立ち上がれるレベルまでに一気に引き起こされた。か、肩もげるかと思った…!!

「ちなみにお前いくつ?」
「…十六です」
「あーあともう五歳増えてたらアリだったよお前」
「は?」
「その歳だと流石に犯罪だな俺」
「もうすでに色々アウトだと思うのですが」
「俺的にはセーフだから。…このくらいまでなら、な」
「へ、」

急に首の後ろに手を回されて伏黒先生との距離が急に縮まる。

「ぐえっ!?」

かと思ったら今度は体が全然違う方向に引っ張られてカエルみたいな潰れた声が出た。な、なん…?なに今の…全身が引っ張られた感じ…!

「チッ、セクハラ親父が」
「……五条の坊か」
「坊言うな」
「ご、五条さん!?」

目の前には黒髪の伏黒先生が居たはずなのに気付けば真っ白い髪の五条さんと入れ替わっていて瞠目した。いや、動いたのは私の方らしい。さっきいた場所から景色が変わっている。
伏黒先生の方をひと睨みした五条さんは私を見下ろすと盛大にため息を吐いてきた。

「ハァー…隙が多いんだよお前」
「はぁ!?なんなんですか急に!!…いただだ」
「怪我してんじゃねぇよポンコツ」
「いだだだ痛い!痛いんですけど!」

いつのまにか顔に擦り傷が出来ていたらしく、五条さんが頬をぐりぐりと指で押しつけてくる。それに抵抗するように軽く取っ組み合いしていたら、「随分探しましたよ、伏黒先生」と背後から聞こえた物腰柔らかい声に振り返る った。夏油先輩だ。

「んだよ次から次へと…、男にゃ興味ねぇんだよ俺は」
「次の授業、私達との実践ですよ」
「ゲ。お前らしつけーから嫌なんだけど」
「教師が言うセリフじゃねぇだろ。…何、それともビビってんの?」
「……安上がりな挑発はよせよ。…先生だから乗ってやるけど」
「先生が乗ってはダメでしょう」
「良い子ぶってんなよ夏油。お前もイラ立ってんのぐらい見りゃ分かる。大人ぶっててもまだまだガキだな」
「…」

どうやらあまり関係は良好ではないのが窺える。静かにバチる御三方に夜蛾先生に連絡しようかモタついていたら肩を軽く叩かれた。

「よ、名前」
「硝子先輩…!」
「災難だったな」

一部始終は見られていたのか硝子先輩の人差し指がジンジン痛む頬に向けられて、直後に暖かい感覚がして痛みが引く。「ありがとうございます」とお礼を伝えると、視界の外から爆音が響いて肩を震わせた。

「うわ、夏油先輩と五条さん相手にやり合ってるあの人…」
「伏黒センセーあるあるだよ」
「え、マジですか」
「マジ」

そう言って視線を硝子先輩から三人に戻す。五条さんと夏油先輩を相手に肉弾戦で応戦する伏黒先生はどこか楽しそうで、時折少年のように笑っている。いや少年っていうほど無邪気じゃないけど。

「硝子先輩…あの人ホントに先生なんですか…?」
「一応な」

隣で一服しだした硝子先輩のその慣れた感じからしてどうやらこの光景は2年の先輩達からしたら日常茶飯らしい。

「ちょっとちょっかいかけただけだろうが。何をそんなにカッカしてんだお前ら。思春期か?後輩が下ネタ指導されてんの見てたらムラついたか」
「はぁ?何言ってんだかさっぱりなんだけど伏黒センセ。どうした、発情期か?」
「悟、口車に乗せられるのは良くないよ」
「お前はどっち側なんだよ傑」

何やら三人は会話をしているようだけど私には聞こえず。

この後三人の騒ぎを聞きつけた夜蛾先生がすっ飛んできて、何故か私まで巻き添えを喰らって説教を受けたのは解せない。硝子先輩どこ行った。



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