迷子


広い住宅街の中でキョロキョロと辺りを見渡すが、見知らぬ建物ばかりで見覚えのあるところが何処にも見つからない。
どうしたものかとアツシはため息を吐いた。
忙しかった引越し作業も一段落し、リビングなどの荷物解きは両親に任せたアツシは気分転換に散策へと出かけた。
最初は近所を一回りと思っていたので財布も持たず歩いていたのだが、通りすがりの猫に気を取られたり急にカーブしてきた車を避けたりしているうちにふと気づけば見知らぬ路地に立っていた。
前は勿論、左右後ろを確認しても見覚えのあるところがない。
分かるところまで戻ろうと思ったはいいが、はて自分はどのみちから来たのだったか。
焦ってキョロキョロするうちにどちらから来たのかも分からなくなってしまった。

要するに迷子である。

春から高校に上がるというのにまさかこの年で迷子になるとは……とアツシはガックリ肩を落とした。
最後の頼みの綱である携帯もテーブルの上に置いてきてしまった。
どうしたものかと途方に暮れていると、くいっとズボンの裾を引っ張られる感覚があった。
後ろを振り向くと誰もいない。足元にスライドした所でようやく裾を引く張本人と目が合った。

そこに居たのはお揃いのランドセルを背負った少年2人だった。
背負ったランドセルはまだ真新しいので低学年だろう。
1人はは真っ赤な髪に赤い瞳の少年。体は小さいが髪色もあってか快活そうな雰囲気だ。
もう1人は反対に涼し気な深い青の瞳に青みを帯びた白い髪の少年。
この歳の子にしては随分冷めた印象の表情をしている。
全く正反対の印象の2人だが、反対故に何処と無くしっくりとくる組み合わせだ。

彼らに視線を合わせようとしゃがみこむと、何となくほっとした表情で赤髪の少年が口を開いた。

「おにいさん、どうしたの?」
「あー、ちょっと道に迷っちゃって」
「……こんなとこで?」

怪訝そうにもう1人の少年が問う。近くで見れば見るほどとても綺麗な顔をしている子だ。

「今日越してきたばかりなんだけど、少し外に出ようと思ったら分からなくなっちゃって……君たちこの辺の子?」
「そうだよ」

元気よく赤髪の子が答える。もう1人はまだ怪しんでいるのがじっとこちらを見つめたままだ。

「えーと、」

道を聞こうか迷ったが、この子達に聞いて番地が分かるか怪しい。
自分がこの位の頃、番地を言われたところで首を傾げただろう。近所のことはなんとか君の家の近くと言われないと分からなかった筈だ。
どうしようかと迷っていると、それに気づいたらしい赤髪の少年が自信ありげに告げる。

「だいじょうぶ、オレらちかくならじゅうしょ分かるよ?」
「凄いな。えーと、住所は……」

そもそもアツシは今日引っ越してきたばかりである。
何なら数時間前に越してきたばかりだ。
思いつきで出てきたので住所が分からない。

「……分からない」
「おにいさん、なんでわからないのに出てきたの」

呆れたように白髪の少年が呟いた。最もな話である。
せめて携帯なりなんなり連絡手段を持っていればいいものの、それすら持ってきていない。完全に詰んでいる。

「うん、何でだろうね」

しゃがみ込んだまま、返す言葉もなくアツシは大きく項垂れた。


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