Cafe&Bar Ranunculus


キャラクターがわらわら出てくるのでお店の雰囲気だけでも感じてもらえたら嬉しいです。






東京の中ではのどかな町、東葉町とうばちょう―――。
人の行き交う賑やかな商店街の裏側は夜に人が多く訪れる飲み屋通りになっている。
その更に奥、路地裏を抜けると小さなカフェバーが存在した。
慎ましく出されたシックなボードには店舗情報が書かれている。


Cafe&Bar Ranunculusラナンキュラス

営業日 火木土日
定休日 月水金
営業時間 OPEN…15:00 CLOSE…深夜1:00

店の中は薄暗く、まだ開店前だと物語っていた。
そこから更に数時間後の午後2時、ガチャンと解錠する音と共にやって来たのは騒がしい2人組だった。

「マジっすかコテツさん!」

金髪の青年―――キイトがキラキラした目で相手を見る。

「おう、今度キイトも連れてってやるよ」
「やった!」

ニヤリと笑う目つきは鋭いが気前よくコテツが頷く。
それを見てキイトは思わずガッツポーズをとった。
直ぐに着替えを済ませた2人は仲良く会話しながらも着々と開店準備を進めていく。
キイトは掃除をし、必要なナイフやフォーク類を並べたり、レジを立ち上げたり忙しなく動き回っている。
くるくると動き回るのに合わせて両サイドに撫で付けた前髪が踊った。

一方、コテツは厨房で上司が残したメモを元に食材の下準備に取り掛かる。
その殆どがカフェ時間に使うものではなく夜つまみとして提供する分ものだ。
この店は夜が1番忙しい。今のうちに下準備を整えるのが1番スムーズなのだ。

そのうちチリンと音がしたと思うと、幅広タイプのコンテナボックスを抱えた少年が入ってくる。
彼は商店街の中にあるケーキ屋の息子だ。
店同士が提携しており、前日指示した通りのデザートが届けられるようになっている。
コテツは慣れた手つきで判を押してそれを受け取り、ショーケースに入れていく。
気に入ったものがあればケーキ屋で買うことが出来、こちらは時間短縮しつつ向こうは新たな顧客を得る機会が出来る作りだ。
味も申し分ないのでお客にも好評である。

その後も忙しなく2人が動き回っているうちに午後3時、開店の時間がやってくる。
キイトは扉に掛かったcloseになっている看板を裏返した。

「いらっしゃいませー」

そのうちパラパラとやってきたお客をキイトが出迎える。
お客の大半はお茶が目的なのであまり手がかからない。
その間にコテツは夜の賄いの支度に取り掛かった。
肉に下味をつけ混ぜ込んでいると、尻尾のように括った赤い髪がひょこひょこと揺れる。


そんなことをしているうちに時刻は5時半をまわった。
ちょうど他の者達が出勤してくる時間帯だ。

最初にやって来たのは華やかなタイトスカートを履きこなした長いピンク髪の女性―――

「おはよーん」

―――訂正しよう。聞こえてくるハスキーボイスは紛うことなき男性である。

「おや、早いねマキさん」
「あらぁ、シマさん!私も今来た所よ」

マキのすぐ後ろから来たのは年輩の男性―――皆からは"シマさん"と呼ばれている穏やかな人だ。

「今日の賄いは何を作ってくれるのか楽しみだよ」

振り返ったマキを見上げ、シマが菫色の目を細めて微笑んだ。

「うふふ、任して。コテツちゃんが準備してくれてるからね。今日も腕によりをかけて作るわ」

2人はコテツとキイト同様、談笑しながらも自分達の支度に取り掛かった。
この頃になると1度客足が途絶え、夜にはまた賑やかになる。
最後の客を見送りながらキイトは夜に向けてメニュー表を入れ替え始めた。
それが終わる頃、タイミングよく今度は黒髪の青年がやって来た。

「おはよーございます」
「あー!アッシュ先輩はざッス!」
「おはよ。元気だね」

1番に気づいたキイトが嬉しそうに駆け寄る。

「俺はいつでも元気ッスよー!アッシュさんこそもう少しエンジンかけないと!」
「いや、そんなんじゃもたないし…」

背丈はアッシュの方が大きいが、声の張りは明らかにキイトの方が強い。
お客がいないのをいい事にキイトはアッシュの後ろをひょこひょこと付いて回った。髪が黄色いのも相まってまるでひよこのような動きだ。
そんなキイトに付きまとわれながら、曰くエンジンが掛かっていないアッシュは困った顔をしながらもキイトに丁寧な返事を返した。
そんな中、押され気味なアッシュの背中を後ろからコテツが思い切り叩く。

「―――痛っ!」
「うるせーな。遊んでねーで早く準備しろ」

先程キイトと話していた時とはうって変わって眉間には深いシワが刻まれている。
背丈は低いが何分眼力が強いのでいかにもヤンキーな兄ちゃんといった様子である。

「えぇー、コテツさん俺騒いでな―――」
「うっせ!」

不満をコテツに言うや否や、更に追い打ちをかけられアッシュは堪らず更衣室に逃げ込んだ。

「あーぁ、逃げられたー」
「……何だよ」

茶化すキイトをコテツが睨み付ける。普通にガラが悪いが、慣れているキイトはケロッとして「何でもないッス!」と人懐っこく笑った。
2人が話を続けているとその後ろからもう1人、勢いよく扉を開けてバタバタと駆け込んでくる。

「おはようございますです!ちょっと遅くなりました!!」

元気な声と共に入ってきたのはここ唯一の女性アルバイトである。
いつもは頭上でお団子にしている髪だが、今は急いできたのか下ろしたままだ。息を吐く度に肩にかかったスクールバッグが揺れている。相当急いできたらしい。

「チャロちゃんおはよーッス!」
「はよ」
「おはよう。まだ時間前だから大丈夫だよ」

返事を返すキイトとコテツ。そのあとから、カウンターに立ったシマが穏やかに遅刻してない旨を返した。
返事を返してくれた面々にぺこりと頭を下げるとチャロは慌てて女性更衣室に駆けていく。
入れ替るようにして着替え終えたアッシュが時計を見上げと、ちょうど時計の針が午後6時を指す所だった。

「おはよう」

最後にやって来たのはこの店のマスターである。紺の髪が左目目を覆い、何処かミステリアスな雰囲気も漂う二枚目だ。
いつもならにこやかな右目は、寝起きなのかまだ眠たそうにしている。

「おはようございますロイさん。……またギリギリですよ」
「朝は苦手でねぇ」
「どこが朝なんですか…」

ため息を吐くロイに「もう夕方も過ぎて夜ですよ」とアッシュが呆れたように返した。
それを背中で受け流しながら、ロイもゆっくりと更衣室へと入っていく。







支度を終えると、眠気も無くなってきたらしくロイはすっきりした顔をして出てきた。
すっかりと整った面々を見てRanunculusラナンキュラスのマスターは今日もニコリと笑う。

「さて皆、今日もよろしくね」

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