家庭教師


「で、ここにこの数式を当てはめる。―――タイガ、」
「うー、」

くたりと机に懐いたタイガをアツシはやんわりと諌める。

「集中切れちゃった?」

時計を見ればもうすぐ勉強を始めて1時間になる。集中力が切れても仕方ないだろう。

「切れるの早ー」

角隣に座っていたユキオがタイガを茶化す。
ユキオは元々集中力のオンオフを切り替えられる器用さを持っているのでそのくらいでは疲れない。
逆にタイガは真面目すぎるが故に集中力をオフに出来ないので相応に疲れてしまうのだ。

「うるせー……」

机に顔を押し付けたまま言い返したはいいが、その声にいつもの様な活気はない。
この感じは恐らくお腹がすいたのだろう。

「少し休憩にしよう」
「はぁー、腹減ったー」

アツシが言うや否や、タイガは大の字になって床に転がる。
あぁやっぱりかとアツシは苦笑した。
それを横目で見降ろしつつユキオはコップのお茶を1口飲んで喉を潤した。

「流石に燃費悪すぎでしょ。さっき食べたばっかじゃん」
「空いたもんは空いたんだー」
「今日は日曜だからガッツリ勉強するんだとか言ってたの誰だよ」

おれだぁ、とタイガは覇気なく呟いた。
そんな2人に「ちょっと待ってて」と告げアツシは台所へと移動する。
この年下の友人達が出来てすぐ、2人はよくアツシの家へ遊びに来るようになった。
毎日のように来る2人に宿題は大丈夫なのかと心配したアツシがここで宿題をやらせるようになり、いつの間にか勉強会も行われるようになった。
アツシにその気は全くなかったが、親達の中でアツシは家庭教師の位置づけらしい。
会った際に「いつも勉強みてくれてありがとう」と礼を言われてようやく、自分から教師役を買っていたことに気づいたのだ。

アツシにとってもこの2人の来訪は楽しみなので全く苦ではない。むしろ次はいつやってくるかと思っている節がある程だ。
一人っ子なので弟が出来たようで頼られると嬉しくなるし、甘えられればつい甘やかしてしまう。
勉強のあとは甘いものを食べられるよう小遣いをやり繰りして3人分のおやつを用意するのも日課になった。
母もそれを分かってか、それまでは一人分だったお菓子を3人で食べられるパックもので用意してくれるようになったのでそこまで懐は痛まない。

今日は母が用意してくれたドーナツとアツシが買ってきたジュースである。
勿論気にするといけないので小遣いで買ったということは2人には内緒だ。

「おやつにしよう」
「やったー!!」
「タイガうるさい」
「いってー!!」

足をバネにして跳ね起きるタイガを横からユキオが張り倒す。
そのまま喧嘩に発展してギャンギャンと騒ぐ2人を宥めつつ、アツシは次来た時に出すおやつを考えるのだった。


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