きみがくれた宇宙をきみとわけあう

※捏造がおおい
※浮気される描写があります


 最中に、別の女の名前を呼ばれて浮気されたことを知るのほもう何回目だろう。先輩は詰めが甘いのだ。馬鹿、死ね。わたしはその言葉をぐっと飲み込んで耐えた。そしてひとしきり拗ねたあと、少しも悪びる様子もなく言葉だけで謝る先輩見て、笑いながらこういうのだ。もうしないでくださいね。いい女であることは忍耐との勝負だと、勘違いしていた。
 一度許してしまうと、そこからは開き直ったように浮気を隠すことさえしなくなった。制服の下のシャツに女の口紅がついていたこともあったし、同じように最中に別の女の名前を、それもこの間とは違う女の名前を呼ぶことも無くなりはしなかった。よく耐えた。浮気されるたびに、今死んだら確実に呪いになるな、と思いながら、なんとか耐えてきた。甚爾先輩のことで泣けるくらい、わたしはこの人のことが好きだ。

 コンドームの数がこの前よりひとつ、いやふたつ少ない。それに、先輩の寮の部屋の風呂場に置いておいたわたしのクレンジングが減っている。あれ、高かったのに!
 先輩の部屋まで入ってこれる人間なんて限られている。生徒か教師か呪術師か補助監督。どれだ。
 先輩はあっさりと悪びれもせずに白状した。補助監督の女だと。
 
「無理、先輩、別れましょう」

 わたしは先輩の部屋に置いてある自分のものを手当たり次第鞄に入れ始めた。クレンジング、ジャンプー、コンディショナー、下着、部屋着、本。先輩はベッドの上でそれを見ていた。
表情はわからなかったけれど、引留められる気配はなかった。
 馬鹿みたいだ。いやたぶん実際馬鹿なんだろうけど。
 ぐちゃぐちゃに荷物をまとめて、ドアノブに手をかけた。そしたら、出てくなら鍵返せよと声をかけられた。くそ。わたしは精一杯先輩を睨みつけて鍵を投げつけた。

 先輩の部屋には、自分の荷物が思ったよりもたくさんあった。トートバックひとつに入るか入らないかくらいの荷物を引きずって、高専から十分くらいのコンビニにいく。こういう時に、泣けるような女が、可愛い女なんだろうか。
 痛覚は鈍るどころか、何度も繰り返すうちに自分を傷つける鋭さは増していった。
 他の女には何を囁いて、何処を触ったの。やっぱりはじめに許すべきではなかったのだ。時すでに遅し。後悔したところで後の祭り。惚れたほうが、負け。
 わたしがあと少し大人だったならば、こういう時お酒を飲んだり煙草を吸ったりして、やりすごすことができたのだろうか。未成年なのでしかたなく、蛍光灯に照らされる不健康そうな色のお菓子を次々と手にとる。チョコレートにミントを合わせようとした人も天才だし、飴でもガムでもなくグミという概念を作った人も天才だし、白いチョコレートを作った人も天才だ。わたしは目についたお菓子を次々に籠に放り込む。コンビニで支払うにはちょっとびっくりするようなお金を支払って、わたしは外にでた。食べながら、自分の部屋まで帰ろう。


「なんでここにいるんですか」
「甘いもんが食いたくなったんだよ」
「…うそだ」
「それ、寄越せ」
「あ、」

 食べようとしていたチョコレートは先輩の口に軽やかに運ばれていった。あまいな、と当たり前のことを呟く。
 甘いものが食べたくなったと言ったわりに、先輩が食べたのはそのチョコレートだけだった。わたしは少しだけ早足で、先輩の前を歩く。高専と反対の方向に向かっているのに先輩は黙ってついてきた。

「名前、忘れ物」

 ふりかえると、先輩の手には、さっきわたしが投げつけた鍵が握られていた。忘れたわけじゃないことは先輩が一番よく知っているはずだ。なのに、忘れ物だなんて。ほら、やっぱりわたしのこと探して来てくれたんじゃないですか。先輩も、それなりに、まあ、反省してくれたのかな。

「迎えに来てくれたんですね」
「…ちげえよ」
「わたしのこと、好きですもんね、先輩は」

 足を止めて、先輩と向き合う。
 うるせえ、そう言って先輩は目を合わせようとしない。

「鍵、いらねえのかよ」
「先輩がもう浮気しないならもらってあげてもいいですよ」
「…悪かったよ」

 ようやく互いのまなざしが交差する。先輩がゆるやかに投げた鍵をわたしは受け取った。帰るぞ、と言って今きた道を戻る先輩の後ろをついていく。惚れたほうが、負けだ。わたしは先輩にとても甘い。迎えに来てくれたことが嬉しくて泣けるくらい、わたしはこの人のことが好きだ。


20200606
きみがくれた宇宙をきみと分け合う

title by オーロラ片