あなたのためにまるい星


 あー痩せたい。そう言いながら右手にコーラ、左手にチョコレートを持つ名前を見ていたら、なんだかどうでもよくなってくる。

「チョコレートって、こんなにかわいいのに、口の中に入れたら溶けるの、完璧すぎない?」
「痩せたいんじゃなかったの」
「やせたいよ、でもチョコレート食べたいし、コーラも飲みたい」
「…あきれた」

 別に、名前が本心から痩せたいと言っているわけではないことを私は知っている。日々あれだけ鍛錬していて太るはずがないのだ。それでも口癖のように痩せたい、可愛くなりたいと言っている。気持ちはわからないわけでもないけど。
 名前はチョコレートを食べてもコーラをどれだけ飲んでも、前日にピザを食べても顔に出ない。遺伝子的に肌が強いのだ。私が我慢していることをやすやすとやってのけて、笑っている。

「野薔薇って獅子座だよね?」
「そうだけど」
「今月のラッキーカラー、赤だって」
「ふーん」

 チョコレートを食べ終わって、今度は当たり前のようにわたしが買っておいたファッション誌を読み出んで、おまけの星占いのページだけを眺めていた。

「わたし今月のラッキーカラーがオレンジだから、なるべく野薔薇のそばにいよ」

 そんな宣言をしなくとも、名前は平日も土日も私と過ごしている。特に話すことがなくても名前はずっと私から離れようとしない。チョコレートを食べて、コーラを飲んで、わたしと話しながら雑誌を読んで、それだけなのにお腹がすいたと名前はこぼした。

「夜ごはん何食べるの」
「え?野薔薇が作ってくれるの」
「馬鹿ね、アンタが作るに決まってるでしょ」
「えー、やだ、野薔薇が作って」

 だいたい、いつもこうだ。わがままを言っても許されることを名前はわかっている。そういう風に生きてきたのだ。彼女の発言だけを抜き取るとなんてやつ、と思うことだってあるけれど、名前が話すとなんだか憎めない。憎めないのだ。

「わたしも嫌よ、冷蔵庫に何もないし」
「わたしの部屋にもなんもないよ」
「虎杖か、伏黒のとこに食べに行く?」
「んー、みんなでファミレス行こ、わたし、パフェが食べたいの」
「え、アンタまだ甘いもの食べるの」
「野薔薇もパフェ食べようよ」
「夜ごはんの話をしてるんだけど」

 結局伏黒も虎杖ももうご飯食べた、と言ったので結局ふたりでファミレスまで行った。わたしも相当わがままだと思うけれど、名前も大概だ。
 夜ご飯を食べに来たのに名前は結局苺がたくさん乗ったパフェを食べた。満ち足りた表情で美味しい、と笑う。野薔薇もひとくち食べる?と聞かれたが断った。頼んだオムライスがまだきていないのに甘いものを食べるなんてことはできない。

 あ、にきびできそう。名前は少しだけ赤く熱を持った顎を指差して、この場所ににきびできたらわたしのこと好きなひとがいるって証拠なんだよ、と言って笑っている。本当に、私がそばにいないと、変な詐欺にでもひっかかりそうだ。なんで占いなんて不完全なものをこんなに信じるんだろう。

「野薔薇がわたしのこと好きならいいのにな」
「私は星占い信じる女も、痩せたいって言いながらコーラを飲む女も、夜ご飯をパフェで済ますような女も嫌いなの」
「そういうわたしを切り取ったやつじゃなくて、わたしまるごと好きになってよ」

 心臓がざわめく。私はあんたのそういうところが、私があんたから離れないと信じているところが、本当に嫌いよ。
 

20200505
あなたのためにまるい星


title by オーロラ片