べつに可愛いわけじゃないし、特別美人ってわけでもない。ただつややかな髪がきれいで、肌がさらさらとしてさわり心地が良くて、なんとなく笑顔を見たくなる、そういう女だった。名前は普通の、そこらへんにいそうな女子大生。
都内にいくらでもありそうな普通のマンション。どちらかというと狭いしセキュリティ面でも心配が残る部屋。たいしてアクセスがいいわけでもないのに、俺はここにもう何度も来ている。任務の帰りに来ることもあるし、とくに用事がなくても呼ばれたら会いにくる。特級術師のことをなんだと思ってんだ。名前は俺のことをただの金持ちな高校生だと思っているみたいだけど。
インターフォンを押すと甘ったるい声をした名前が出迎えた。
「五条くん、来てくれてありがとう」
「ん」
挨拶もそこそこに駅前で買ってきたケーキを差し出すと名前は本当に嬉しそうな顔をして喜ぶ。名前はそういう女だ。なんでも美味しそうに食べるから何かをご馳走したくなるし、どんなものをプレゼントされてもそれはそれは心の底から喜んでくれる。だから今日もこうしてわざわざ並んでケーキを買ってきた。
開かれた扉をこえて、玄関に足を踏み入れると、新品の靴…それもいかにも足に悪そうな高いヒールがあった。女物に疎い俺でも知ってるくらいのブランドだ。
「その靴どうしたの」
「ああ」
「おまえ、こんな高いヒール履かないだろ」
「友達が買ってくれたの、でもわたしにはちょっと大人っぽくてまだ履いてない」
「…ふーん」
この狭いワンルームには不釣り合いなくらい大きなベッドが鎮座している。今時ラブホテルでも見かけないような天蓋までついているやつだ。信じられるか?
これはたしか、バイト先の店長が買ってくれたらしい。ピンクのレースに白いフリル。いかにもおっさんが考える女子大生のイメージって感じで反吐が出る。
「五条くん、ケーキは?」
「あとでいいよ」
キッチンに向かおうとする名前の腕を引っ張ってベッドに引きずり込む。名前の肌はさらさらとしていて心地がいい。丁寧に整えられたベッドシーツに皺が寄った。
「冷蔵庫にいれた方が、いいんじゃないかな」
「あとでいいって」
後頭部に手を回すと耳には趣味の悪いピアスが目についた。たぶんこいつの誕生石だと思われる、天然石のピアスだ。
「なあ、これ」
「それは後輩がくれたの」
「あっそ」
べつに外す必要なんてないけど、ピアスのキャッチをつまんで外してやった。爪を短く切ったせいで外しにくい。名前は抵抗しないどころか楽しそうに笑っている。天使か悪魔なら、間違いなく優しいふりをしただけの悪魔だし、こいつは人を殺してないけどたぶん地獄に落ちる。
「このネックレスは」
「それはサークルの先輩が」
「へー」
ピアスは金色なのにネックレスは銀色でちぐはぐだった。まあこれも外すんだから関係ないけど。たしかよく着ているこの部屋着は、かつての同級生と再会したときに買ってもらったと言っていた。ふわふわの繊維が指に絡みつく。
薄っぺらいキャミソールに手をかけて、ようやく安堵する。黒いレースの下着は俺がこの前渡したものだった。
「やっぱ、引っ越そうぜ」
「んー」
「俺が金出してやるから」
「五条くん高校生でしょ」
「あー、今さら?」
本当に俺のことだけを好きだと言うなら、俺が選んだ部屋に住んでくれないかな。今この部屋にあるもの、趣味の悪いベッドも、ヒールの高い靴も、ピアスもネックレスも、全部捨ててさ。このままじゃ名前のことが好きなのか、名前が今身につけている下着のことが好きなのか、わからなくなりそうだ。いつも以上に丁寧に下着を外して、ベッドの下に投げ捨てることをしなかった。名前の肌はさらさらとしていて気持ちがいい。
20200928
かんばしくありませんが