きっとどこかで

 コンビニに寄ってチョコレートの新作を片っ端から買った。夏が終わる寂しさを吹き飛ばすくらい、秋はおいしい季節だ。栗もかぼちゃも、五条さんは好きだろうか。栗はたぶん好きだと思う。この前、モンブランを買ってわたしの家に来てくれた。
 一通り新作を買い終えてレジに並ぶと、昼間だと言うのに、目の前の男女は手を繋ぎあってコンドームをなんの恥ずかしげもなく買って行った。なんか下品だ。目の前の女が足を惜しげもなくさらしているからだろうか。その隣に立つ男が女の腰に手を回しているからだろうか。嫌なものを日が高いうちから見てしまった。目の前にいる男がどんなに美しい顔立ちをしていようと、この人に触られるのはごめんだ。もちろん、五条さんより美しい相貌の人なんてこの世に存在しないんだけど。考えるだけ無駄だった。
 わたしは、五条さんに愛されてるから、コンドームを一緒に買ったことがない。コンビニにふたりで行くことだってない。必要なものは全部わたしの部屋にあるし、足りないものは五条さんが買ってきてくれる。ここから自分が住むマンションまではだいたい二分。日差しが強くてアスファルトは白い熱を孕んでいる。その道の上を、チョコレートが詰められたビニール袋を大きく揺らして歩いた。
 まだ誰もいない自分の部屋にむかって、だだいま、とつぶやく。静かな部屋にわたしの言葉は沈んだ。レースカーテンをすり抜けて、九月の日差しが部屋に忍び込んでいる。まだ暑いから、クーラーをつけなきゃ。五条さんは汗をかかないけれど、きっと涼しい方がいいだろう。リモコンのボタンを押すと、軽快な電子音と耳をすまさなければ聞こえないくらいの空調の起動音が耳に届く。コンビニで買ったチョコレートはキッチンの隅にあるお菓子専用の棚にきれいにおさめた。
 はやく来ないかなあ。五条さん。あなたのためにたくさん秋のお菓子を買いました。今日来てくれないなら、ひとりで食べちゃいますよ。
 いつだって絶対に今日会えるなんて保証はどこにもない。だって五条さんは忙しい。なにをしてるかしらないけど、とても忙しい人だ。それでもわたしは毎週こうして、ペディキュアを塗って、部屋中をぴかぴかにして、五条さんのことを待っている。今日五条さんがこの部屋に来る確率はどれくらいあるんだろう。ころころ、粘着テープでカーペットの上についた髪の毛を巻き取りながらくだらないことを考えた。
「五条さん」
 自分の言葉が少しだけ冷えた部屋にぽつりと溢れた。五条さんの名前を呼んでも当たり前に返事はない。わかっているのに。
 たとえば、暑い日に運動した後飲むお水のように。たとえば、お腹がすいたあとに食べるご飯のように。たとえば、何年も待った映画の続編のように。待ったら待っただけ、何にも変えがたい時間になるのだ。わたしはそれをよく知っているから大丈夫。
 部屋を掃除し終えても、五条さんがここに来てくれた痕跡は髪の毛ひとつすら、もう見つからなかった。だけど大丈夫。わたしはいつまでだって待っていられる。

20201128
きっとどこかで