※押しに弱い
「名前っていじめられるの好きでしょ」
今日は五条さんを呪霊発生現場に送り届けるという重大な任務を終えて、今は五条さんの家に向かっている途中だった。わたしは運転していて、五条さんは助手席に座っている。車のフロントにある時計を見ると、零時を超えていた。五条さんはさっきまで上機嫌にお気に入りのコンビニのお菓子について話していたのに、唐突にそう言い放ち、わたしの首筋をつぅっと指で撫でた。
「っひぁ、」
「…なんかごめん」
「せ、せく、セクハラで訴えますよ」
「あはは、名前顔真っ赤、ほらちゃんと運転してー」
急に身体に触れられて、変な声がでた。パーソナルスペースの概念が五条さんにはないんですよね、と呆れた顔で話す七海さんを思い出す。だからと言って、裏若き乙女の首筋に触れるだなんて。
「こんなことして、事故起こしたらどうするんですか!!もう、絶対、五条さんの送り迎えしませんから!!」
「えーそれは困るなあ、名前がいいんだけど」
「補助監督なら他にもいるでしょう、五条さんのファン多いですし」
「こんないじめがいがあるのは名前くらいだよ」
「最低!!」
「はは、初めて言われた」
運転中じゃなければ頬を引っ叩いていたのに。叩いたところでどうせこの人にはダメージが入らないということは重々承知だけど。
「もうすぐ五条さん家着くので!それまで大人しくコンビニのお菓子の話しててください!」
「名前、今日僕を部屋まで送って」
「嫌ですけど」
「じゃあ名字名前さんが僕を置いて帰っちゃいましたって報告しようかなあ」
「…最低」
「今日だけで二回も言われちゃった」
「本当に、めちゃくちゃ嫌ですけど、仕事なので部屋まで送ります」
今日なんて、朝9時に仕事に入って事務処理をして、そろそろ帰れるかなというタイミングで等級の高い呪霊が発生して、指名されたので渋々五条さんを現場まで送って…。気づけば日付が変わっている、なんてブラックなお仕事だ。もう疲れた。五条さんを無駄に高いマンションの高層階の部屋まで送っていたらわたしは何時に家に帰れるんだろう。頭がいたい。
「五条さん、何階でしたっけ、上の方でしたよね」
わたしは乗ってきた車を駐車し、シートベルトを外しながら尋ねる。
「何階だったかな」
「ふざけないでください、怒りますよ」
「本当に送ってくれるなんて嬉しいなあ」
はやく家に帰りたい。五条さんは本当に強くて呪術師尊敬しているけれど、こういう軽薄なところが後輩に(あの人間ができている七海さんにすら)嫌われる理由なんだよなあとわたしは思う。
----
「ねえ、本当に部屋に送るだけだと思ったの?」
玄関に入った瞬間、ドアの鍵を閉められ、抱き寄せられる。わたしだってもういい大人だ。もしかしたら一ミリくらいの可能性で、そういうことになるかもしれないとは、頭でわかっていた。扉をくぐる前に、踵を返して家に帰ることもできた。わたしは選んで部屋に入った。きっと、五条さんは全部わかった上でわたしを抱きとめたのだ。こんな時まで頭が回るなんてずるい。
「名前、やっぱりいじめられるの好きでしょ」
「そんな、ことは」
「これから確かめていい?」
「ん、」
アイマスクを外し、淡い色をした瞳がわたしをとらえたと思ったやいなや、唇に唇が重なり、舌がぬるりと入ってくる。歯茎、歯列、頬の内側、そして舌。ゆっくりゆっくり犯されていく。キスだけで蕩けそうだなんて、迷信だと思っていたのに。
ベッド行こうかと言われ身体が宙に浮いた。
「付き合ってもない人とは、しませんよ」
「じゃあ付き合おうよ」
「…はあ?」
「好きだよ、名前。じゃなきゃわざわざ指名したりしないでしょ、名前は僕のこと嫌いなの」
こんな綺麗な顔で好きだと言われて、逆らえるはずもない。好きか嫌いかと聞かれたら、そりゃ嫌いじゃないけど、今まで恋愛対象として五条さんをみたことがなかった。
「尊敬、してます」
「それって僕のこと好きってことでいいよね」
「なんかわたしチョロすぎませんか…」
「ちゃんと僕のこと好きって言って」
「…今まで、五条さんのこと恋愛対象として見たことなかったんですけど、今の五条さんは死ぬほどかっこいいです」
五条さんの首に手を回す。後戻りはとっくにできない。わたしから五条さんに唇を押しつける。精一杯の好意を込めて。
部屋は想像の十倍くらい整えられていて、まるで生活感がない部屋だと思った。ベッドは最低でもクイーンじゃないと足が飛び出ちゃうんだよね、ほら僕足が長いからさあ。そういえば以前の任務の行きだったか帰りだったか、話していたな。ホテルでもないのにこんな大きなベッド、見たことがない。
ベッドに丁寧に下ろされて、唇が耳に触れた、と思ったら歯を立てて噛まれた。
「っあ」
「やらしい顔になってるよ」
噛まれるの好きなんだ、と囁かれて、顔がかっと熱くなる。恥ずかしい。耳を噛まれて興奮してしまったなんて。わたしは膝を無意識のうちにすり合わせていた。
「今日は僕の部屋に泊まるよね?」
「…明日、仕事休みます」
「素直で可愛いなあ、いっぱい甘やかしてあげる」
スーツがするすると肌から離れていく。腰浮かせて、という言葉通りにして、ついに下着だけになった。
てのひらが触れるか触れないかの距離で頭から爪先までまくなく全身を弄られていた。
「五条さん、くすぐったい」
「くすぐったいだけ?」
「焦らさないで…」
下着の上から胸に顔を埋められ、太腿の付け根をぐにぐにと摘まれたあと、下着の上から割れ目を撫であげられる。ああ、背中がぞくぞくする。
「んっ」
「…濡れてる」
自分でも湿っているのがわかる。恥ずかしい。なんか今日は恥ずかしい思いをしてばかりだ。
「下着、脱ごっか」
五条さんはいとも簡単にわたしの下着を取り払ってしまった。骨張った手で、わたしの乳房を包む。五条さんの手は暖かいなあ、今までこの手の暖かさを知らなかった。気持ちいい。五条さんに触られているだけで気持ち良くて、声が抑えきれずに唇から漏れていく。
「ひぁ、っん、」
「わかってたけど、名前敏感だね」
胸の先端を舐めながら、指は下腹部へ向かっている。これから起こる快感を予想すると、それだけで脳が溶けてしまいそうだ。
「ここ?」
下腹部へ向かった指はやわやわと陰核を撫でる。わたしの体液を絡ませた指は陰核の上でくるくると回っていた。不規則に押しつぶされても、にゅる、と逃げてしまう。それを執拗に追い回された。
「ん、そこ、」
「そんな風にしがみつかれると燃えるなあ」
きもちいい、と言ったわたしの言葉は声になっていただろうか。自分の声が自分の声ではないように聞こえる。陰核を押しつぶされ、わたしの中の指はぐりぐりと陰核の裏を押している。全身が硬直して、わたしの体は大きく跳ねた。
「んんっ、っふ」
「イっちゃった?」
こくこく、と頷くことで肯定をする。自分の意志とは別に体はびくびくと痙攣していた。まだ気持ち良さが続いている。息の仕方を忘れたように呼吸が浅い。
「呪い払ったあとで、昂ってるんだよね、無理させたらごめん」
ゆっくりと確実にナカに質量を持ったそれが押し入ってくる。全部入るまでの時間がとても長く感じた。
「噛むたびにすっごい締まるんだけど」
「ひ、ぅ、んっ、ぁ」
「やっぱりいじめられるの好きだよね、名前」
どちゅ、ぐず、と淫靡な音をたてながら抽送が繰り返される。体位を変え、何度も何度も侵入されていた。五条さんはわたしの首筋から肩、背中に歯を立てる。その度にわたしは身体が熱くなるのを感じていた。いじめられるの好きだよね、と囁かれたことを思い出してわたしはまた身体が熱くなってしまった。この行為がこんなに満たされるものだなんて。腰ががくがく揺れていることを自覚する。
「ごじょ、う、さん、ん、いっちゃう、ぁ」
「名前、こっち見て」
「ん、んっ、あっ」
五条さんの顔を見上げると、熱を孕んだ瞳に捕らえられた。眉をひそめる五条さんの顔を、わたしは忘れたくないな、と思う。
---
夢じゃなかった。朝起きたら五条さんが目の前でコーヒーを飲んでいる。名前が今日は仕事休むって僕から連絡しといたから、となんでもなさそうな顔で言う。明日は五条さんのファンの同僚に刺されるかもしれないな。
彼氏と彼女って何するんだったっけ。わたし、裸なのに化粧は昨日のままだ。
「化粧落としなんてないですよね」
「昨日コンビニ寄った時に買っといたよ」
「…天才では」
「お風呂一緒に入る?」
「化粧落とすとこ、見られたくないです」
「残念」
「服貸してもらえませんか」
コンビニで売っているお泊りセットと五条さんのTシャツがわたしのほうに投げられる。朝日に照らされながらコーヒーを飲む五条さんは、やっぱりかっこいいなと思った。付き合うって、どうするんだっけ。この後の長いようで短い人生、なるべく五条さんと一緒にいれたらいいと肩に残る噛み跡を見ながら考えていた。
20200123
瓦解する真夜中