呪いってどんな味がするの?と聞くと、傑は名前は知らなくていいんだよと言ってわたしの頭を撫でる。彼の指は滑らかにわたしの髪の毛を滑っていった。ついにその指は髪の毛の終わりまで来て、すりぬけていく。髪が長くて良かった。もし髪が短かったら、こんなに気持ちよくなかったかもしれない。最近は放課後の教室でふたりで過ごすことが増えた。わたしは机に突っ伏しながら傑を見上げる。同い年なのに傑は特別大人びて見える、なんでだろう。
わたしも硝子みたいに煙草吸ったら大人っぽくなれるかなあ、とも思ったが、やめた。この顔じゃ煙草のひとつも買えやしない!傑につり合う彼女になる道は険しくて長い。前髪でも伸ばしてみる?でもそれじゃ傑とお揃いだ。わたしは傑みたいになりたいわけじゃなくて、彼につり合う女になりたい。
「そんなこと、いいのに」
「そうかなあ」
「悟の言うことは気にしなくていいから」
悟に傑と付き合ってると告げたとき、まじで?あいつロリコンじゃん、と言われたことをわたしはずっと気にしている。悟、言っておくけど、あんただって、身長さえ高くなければそうとう童顔だからね。わたしにはその身長すらないわけだけど。
わたしたちはいわゆる呪術師の家系ではなく、普通の両親のもとに生まれて普通に育った。ただひとつ、他の人には見えないものが見えていて、なんとなく自分の力に幼いころから気づいていた。高専に来ても、非呪術師の家系出身の人間は少なくて、わたしにとっては、どこまで行っても傑とふたりきりだった。傑しかいない、それは言葉にしたことはない感情で、普段は胸のずっと奥の方にしまってある。
でも、傑には悟がいる。わたしは悟に嫉妬しているのかもしれない。わたしも同じくらい強ければ、少しは胸を張って傑の隣にいることができただろうか。でもそれは無理な話だ。
傑のそばにいる方法を考える。悟みたいに強くもない、硝子みたいにおとなっぽくもない、それでもわたしは傑のそばにいたい。愚かなことはわたしが一番わかっている。
「わたしが呪いになったら、傑に食べてもらえるのになあ、そしたら傑が死ぬまでずっと一緒にいられる」
「…滅多なことは言うもんじゃないよ」
「怒られちゃった」
これはもしもの話。呪いになったわたしを食べるとき、傑は笑っているだろうか、困っているだろうか、怒っているだろうか。それとも、泣いているだろうか。それとも。どの表情もきちんと想像できないけれど、呪いになったわたしが少しでも甘ければいい。
名前はきれいだから、呪いになんてならないよ。
放課後の教室で、夕陽がカーテンを抜けてわたしたちに降り注いでいる。傑の指は相変わらずわたしの髪の上を滑っていく。それが気持ち良くて、わたしはなんだか眠くなった。傑が落とした言葉さえも、わたしをすり抜けていく気がした。
20200129
もしもの呪い