「行くなら宇髄と甘露寺だけだァ」
「なんで?みんなは順番に回るんだよ、私だって実弥の稽古受けたいよ!」
「テメェなんざが俺の稽古に着いて来れるわけねぇだろォ、大人しく宇髄と甘露寺のとこにだけに行けェ」
柱稽古が行われる、男性の柱のところは行けない。隊士も男だらけで女一人では危険だからだという理由はもう理解していた。宇髄様の処は奥方が三人居るから安全なんだろう、他の女性隊士はどうするのかなとも思ったけども知り合いも居ないし考えるのを辞めた。
他周らないとか許されるのかな?女だからって甘えてるって思われないかな・・・。
忙しい甘露寺様に他の稽古を頼むわけにはいかないし、冨岡様は柱稽古しないって言ってたから自主練しかないか……確かに男所帯に飛び込む勇気は無い。幼いころから共に育ってきた同門の兄弟達とは訳が違う。
でも願わくば最後に実弥にも稽古を付けてもらいたかった。こんなに近くにいるのに、隊士としはいつだって遠い。
「最後に稽古くらいつけてくれたっていいのに…」
「俺は女に稽古は付けねェ……名前に刃を向けれねェんだ、……それぐらいわかんだろォ」
「……!」
実弥が私に稽古を付けられないのは私を隊士として認めていないからだと思ってた。そんな理由だなんて思いもよらなくて不意の甘さに顔がどんどん赤くなるのがわかる。これ以上は何も言う気にもなれなかった。
「そんなん言われたら、はいっていうしかないじゃん…。」
「名前が俺の言うこと聞くなんざ、明日は槍が降るなァ!」
「酷い!人を我儘みたいに言って!」
ぽかぽか殴るが実弥には全く効いていないようで酷く穏やかな笑みで頭を撫でられる。
幸せなはずなのに、こんな幸せでさえも最後のような哀しさが含まれていた。
・・・
呼吸の常中が出来る者は基礎体力はそこそこあるので宇髄様の稽古は通過できたが……蜜璃様の稽古の柔軟は地獄だった。
でも男性隊士は変わった格好をさせられていたが女性は特に強要されず隊服で臨ませてくれたので助かった・・・。あの格好はちょっとだけ恥ずかしいな。
一通り稽古を終えて蜜璃様の元に柱稽古のことで相談に行くと二つ返事で承諾してくれ、他にもそういった女性隊士が居ると聞いて安心する。
「女の子って本当に少ないから、ずっとここで稽古してくれるって言ってくれて凄く嬉しいわ!」
「甘露寺様、申し訳御座いません。個人的な理由で・・。」
「全然かまわないよ!仲良くしてねっ、蜜璃でいいわよ!」
「ありがとうございます、蜜璃様!」
にこにこと笑う顔に不安が解消される
殆ど年齢は変わらないはずだけどもう柱なんて凄いな、才能も努力も人一倍なんだろう。
ただ噂には聞いていたけど可愛らしい人でちょっとだけどきどきしちゃう・・・!
「・・・名前ちゃん、他の柱のところに行けないだなんて、もしかして殿方?」
「えっ・・・!」
「キャーー!!やっぱり!?お相手はどんな方なの?」
不意に聞かれて赤面してしまったら一瞬で蜜璃様の知るところになってしまった。流石に恋柱と言うだけはある、その後に二人で恋話に盛り上がってしまい相手が実弥だと気づかれてしまったが内緒でお願いしますと言うと目を輝かせた蜜璃様が「内緒の恋なんて素敵!不死川さんらしいわね・・!」なんて言うから笑ってしまった、こうやって鬼殺隊なんて括りじゃなければお友達になれてたかも、柱にそんな事言えないけど。
「名前ちゃん、私で力になれる事ならなんでも言ってね!良かったら剣術の稽古も付き合うわ!」
「み・・・蜜璃様、本当に有難う御座います!女神!」
「伊黒さんから太刀筋矯正についても聞いてるから教えられるわ、一緒に頑張りましょうね!」
「はい!!蜜璃様」
柱は暇じゃない、実弥の側に居る私はそれを理解しているからこそ蜜璃様の行動に驚くし人をこんなにも愛せるこの女性が女神のように思える。
やっぱり私は周りに恵まれてる、今この時を大切に過ごさなきゃいけないなと噛み締めた。実弥と会えないのは寂しいけど自分に出来ることを一生懸命頑張ろう。
「エヘヘ、やっぱり蜜璃様って言われるの慣れないから蜜璃って呼んでね」
「・・・じゃあ蜜璃さんで」
「名前ちゃん、照れてて可愛い!」
恋柱のお陰で柱稽古は充実して過ごし、課題だった私の動きも解消されて機転も効くようになり少しだけど自分に自身が持てるようになった。
毎日くたくたになるぐらいに稽古をしていたので寂しく思う暇が無かったが稽古に体力が追いつくようになると自然と実弥に会いたい、今頃何をしているのかなと思う瞬間が出来るようになり(やっぱり私は甘ったれだな)なんて心の中で呟くと実弥から言われる甘ったれ以外は何とも苦い気分になることに気がついて、彼の暖かさを知る。
はぁ・・・会いたいなぁ・・・。
「カァ!緊急招集ーーーーーー!!緊急招集ーーーーーー!!」
鎹鴉が鳴いている声が遠くから聞こえてくる
「名前!」
「わっ!実弥!?どうしたの急に」
「時間がねェ、手短に話す!」
急に現れ肩を掴まれて抱きしめられた
柱稽古期間中は会えてなかったので実に1ヶ月ぶりぐらいに実弥を感じることが出来ているのに、いつもなら嬉しいはずなのに…その余裕の無さに良くない予感が過ぎる、始まるのか最終決戦が…
「…生きてくれ、約束しろォ」
「実弥…」
「もう逃げたからって雑魚だの甘ったれなんぞ言わねェ、生きる為だったら逃げたっていい。兎に角死ぬなこれは命令だ」
実弥は?と聞きたかった。彼は柱だし、きっと命をかけて鬼と鬼舞辻無惨と闘うだろう。
向き合う時がきたんだ、鬼狩りの命は長く無い。そんなことはとうの昔にわかっていたこと。
自分の目からぼろぼろ涙が溢れてくるのがわかる
抱きしめてくれている実弥からそっと離れて向き合う
「……ねぇ、実弥。」
「…なんだァ」
「約束するよっ……だからね、全部が……うぅ…終わったら、私とっ…家族になってくれる?」
家族、それは実弥の前でずっと避けていた言葉だった。その言葉を口にすると辛そうで、とても悲しい思いをしたんだと容易に想像できたから。
だからこそ、実弥と家族を誓いたい。
鬼を狩る事だけを考えて生きてきた実弥の目は常に充血していて、その眼が潤むのがわかる。もう一度強く抱きしめてくれた実弥はきっと泣いていただろう。
「あァ、約束する」
鬼が居ない夜を二人で過ごしたい。
普通の、何の変哲もない普通の家族になりたい。
ただ実弥とずっと一緒に居たい。
最後に甘い口付けをして実弥は暗闇に消えていった。私も素早く支度をし日輪刀を腰に差す。
どうか、生きて愛しい人。また逢えますよう。
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