気付いたら朝だった。
差し込む光に目を擦る、と同時に昨日の出来事が走馬灯のように蘇ってきた。
「(鬼が来て、殺されそうになった。それで誰かもわからない人…?に貞操を奪われて…)」
一気に顔が紅潮していくのがわかる。私、昨日、あの美しい人と…
夢だったのではないかとも思ったが、違和感の拭えない下半身と汚れた敷布団を見る限り夢ではないだろう。首に残る手当もされてない傷も全てが現実だったと告げていた。
その日の午後、腰は痛むが私はまた町に降りた。昨日の被害を確認することと亡くなった者たちの火葬をするためだ。
町はまだ混沌としている、被害は少なくはあったものの三件の家で同時に葬式が行われるようで町中が悲しみに溢れていた。昨夜の恐怖からか町娘達が外に出ている様子も無い。
そこで、昨夜助けて頂いた鬼狩り様に再開する。
「大事無いか、昨夜は忙しく家まで送れずにすまない。」
「いえ…助けて頂いて有難う御座いました。」
「……鬼は普通の銃刀では退治出来ない。だが君には大いに素質がある、孤児だと聞いた…鬼殺隊の銃剣士になるのはどうだろうか。」
その言葉に息を呑んだ。私はこの町の森で狩猟をし一生を過ごすと思っていたからだ。
鬼殺隊、それに入隊すればこの人達のように世の為、人の為に活躍することが出来るのか…
そう思ったが私は首を振る、鬼と対峙し失禁したのは他の誰でもない私で、今後この心的外傷を克服出来る気がしない。
「有難いお話ではありますが、私には無理そうです。」
「そうか…無理強いするつもりはない。だが何かあればここに伝書を飛ばして欲しい、君のような優秀な人材はいつでも歓迎するよ」
小さな用紙を渡されて中を見るとそこには簡単な地図と見慣れない文字、藤の花の家紋が描かれていた。
ほとんど町から出たことのない私にはわからないが、手紙を出せばここに届くということだろう。
「有難う御座います…。」
「あと、これを」
「?…これは、」
渡されたのは先ほどの藤の花の家紋が描かれた小さな紫色の巾着。中を開けるとそこには乾燥花が入っていた。
「藤の花は鬼避けになる、持ち歩くといい。君は稀血という鬼の好物のような存在なんだ。」
「…お気遣い、痛み入ります。」
それだけ会話をし、私は鬼殺隊の方とお別れをした。
深く聞く気になれなかった、鬼の好物…。その時ふと昨夜の美しい人を思い出す。
『お前…稀血だな。良い匂いがする』彼はそう言っていた気がする。
何故彼は、私を”良い匂い”だと言っていたのだろうか。怖いはずなのに思い出すと甘い感覚が支配していく…それがあまりにも甘くてぎゅうっと固く目を閉じた。
▼
お悔やみを言うために亡くなった娘の家に向かっていると一際大きい泣き声が聞こえてきた。
家の外で地面にうずくまり大きい声で泣いている女の子、両脇には両親がいて必死に彼女を慰めていた。
「とおちゃんっ、かあちゃんっ、家にいたらまたおににさらわれる!ずっとおそとにいたい!」
「冗談言いなさんな、外の方が危ないから中においで」
その娘は昨夜、被害にあった子で食べられている子を見ながらずっと涙を流していた娘だ。その年齢はまだ十になったばかりで相当の恐怖だったろう。
「大丈夫?」
「名前ねーちゃん…!」
「鬼は鬼狩り様が退治してくれたよ、私がこの目でちゃんと見たから大丈夫。さぁ、家に戻ろう?」
「でもっ、また仲間が来るかもしれないしっ」
「それは…」
確かにそうだ、その言葉に何もいえずに口を紡ぐ。昨夜の恐怖は私も充分に理解しているし、現に仲間が来ることだってあり得るはずだ。そのぐらい私達にとっては鬼は未知の生き物で…。
私は頭の中で鬼という存在を生き物の一派として考えていた。
「まだ鬼狩り様が町に居るから今は安心だよ。お家でしっかり休んで」
「おにがりさまがいてもとなりのねーちゃんはたすからなかった!」
「もうやめな、名前さんは命の恩人だろうに、そんな口聞かないで」
「うわあああん!」
お母さんが間に入ってはくれたが、女の子は泣き止む気配も無く更に泣き声は激しいものに変わっていった。どうすれば、と思った瞬間に先ほど渡された香り袋を思い出す。
”稀血に効く”ではなくて”鬼避けになる”と言っていた。
「これをあげる」
「これ…なあに」
「鬼狩り様にもらった鬼避けだよ。鬼の好物の稀血って体質の人に渡しているみたいで…」
「そんな、頂けません!鬼狩り様から聞きました、とても危険な体質なんでしょう?」
「中身は藤の花の乾燥花でした、この辺では咲いてないのですが鬼避けのためにもこの町に藤の花を咲かせればいいだけのことです。」
被害にあった家族には昨夜の出来事を全て隠さず話されているのだろう、自分が稀血という事実を知っていることに少し吃驚した。でも動揺し頂けませんという女の子の両親だって昨夜血の気の引くような思いをしたはずだ、あれば少しでも安心出来るはず。
「……予備にもう一つ頂いたので大丈夫ですよ」
「名前さん、何かあったら貴女のお父さんに申し訳が立たないわ…」
私は大丈夫、そう言って半ば無理矢理女の子に香り袋を渡すとそれを受け取った少女はまた涙をこぼしながらその香り袋を抱きしめた。
稀血で良かった、稀血じゃ無かったらこの子の憂いを晴らすことが出来なかった。鬼の全てが人間を襲うわけでは無いだろうし、私は女の子を少しでも安心させられたことに心が凪いていた。
・・・
「猗窩座、さん…」
すっかり日も暮れて、昨日の今日なので急いで家に戻ると家の中に昨日の美しい人が居た。
昨夜は私が気を失っている間に何事も無かったように居なくなっていたのに、ほぼ知らないに等しい人が勝手に家の中にいるが嫌悪感がわかずに、何故か胸が高鳴ってしまった。
私は、なんで彼にこんなにも惹かれているのだろう。
「こっちに来い、今宵も可愛がってやろう」
「貴方、何者なんですか」
「話をするのか、まぁ…いいだろう」
まるで運命の相手のような気にさせる彼の横に並びながら、猗窩座という男の正体を知ることになる。彼は軽快な口調で俺は鬼だと言った。
でもなんでだろうか、全く怖くない。あんな恐怖を味わったくせに私は猗窩座を受け入れてしまった。私は、鬼がなんたるかも知らずに。ただ人と獣と同じ類いだと思ってしまったのだ。
鬼は人喰いだとか、陽の下に出れないだとか、そんなことも知らずに。
誰にも、父さんにも町の人にも言えない歪な関係。
話もそうそうに唇が深く重なる、私の身体の感触を確かめると猗窩座はまた秘部に手を伸ばしてきた。一度受け入れた身体は素直で、彼の全てに反応してしまう。
町から出たことの無いこの田舎娘の頭の中は、人間でなくとも彼は運命の存在だと。
運命、という勘違いは来世でも私を悲しませることになるとも知らずに。
ーーーそう、これは私の前世のお話の序章に過ぎない。
陽の下で貴方と 3
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