鬼殺隊に入隊してから死物狂いで階級を上げてきた、彼に追いつきたくて。私の恋人が最近柱になったからだ。


「別れたきゃ勝手にしろォ」


実弥は本当は優しい、情に熱い兄貴肌の男性だ。
恋人になる前から身寄りの無い私を無碍にしながらも何かと気にかけてくれて交際まで漕ぎ着けた。
そんな彼と何故こんなことになったかと言うと遡ること数刻前・・・








・・・









「実弥!柱合会議の後に胡蝶様と甘味屋に行ったって本当!?」
「あァ?なんで名前がそんな事知ってんだ」

風柱には隠の方々があまり近寄らない、何故ならば実弥がもの凄く神経質で気性が荒く怖いと思われているから。元々は優しい彼だったが柱になってからはこうピリピリしてる事が増えた、色々あったから仕方ないとはわかっていても勘違いして欲しくない気持ちもある、まぁ実弥も当たり散らしてるのが悪いけど。
そんな風柱が柱合会議の後に花柱、女性と甘味に行ったとなれば大騒ぎになる。
その時私は日輪刀の定期調整の為に刀鍛冶の里にお邪魔していて丁度、隠の方に移送をお願いする手筈のはずだった。



『知ってる?あの不死川様が胡蝶様と二人で甘味に行ったらしいよ!』
『胡蝶様と!?羨ましい・・・あの不死川様をも懐柔する胡蝶様凄すぎる』
『なんでもあの二人、出来てるらしいぞ!接吻するのを見た奴がいるって!』
『なんだって!!俺の胡蝶様がぁーー!』


頭が真っ白になった、真っ白になって急激に真っ赤になった。実弥は二股をするような男じゃない、そんな器用じゃないのは私がよーーく知っている。問題なのは、何故そんな噂が立ったかだ。

「隠の人達が実弥と胡蝶様の事噂してたの!」
「甘味屋に行ったからなんだァ、美味いおはぎが食えるつぅから行っただけだろうが」
「行ったのは事実なの!?私とは外に一緒に出掛けてくれないのに!?」

ひぃぃと叫びながら実弥を揺さぶっているとこめかみに皺が出来た。あ、多分怒らせたかもしれない。

「ぎゃあぎゃあうるせェ、お前は甘いもん食えねぇだろォ」

そうなのだ、私は甘味が苦手で甘党の実弥とは一切食の趣味が合わない。それでも私は実弥が食べてるのを眺めてるのでさえ楽しいのに、ほかの女の人と行くなんてあんまりだ。

「それでも!噂になるぐらい仲睦まじくしてたんでしょ、私が実弥に追いつきたくて必死で任務頑張ってたのに酷いよ!」
「なんだァ?俺が鬼狩りを怠けてるとでも言いてぇみてえだなァ?」
「違うよ!私も普通に実弥と出掛けたり仲睦まじく食事したりしたいってこと!」
「テメェこそそんな暇無いだろォ、この前も頸斬り損ねて帰ってきたじゃねぇか」
「それは・・・!私じゃ敵わない鬼だったから、命の方を大事にしなきゃと思って・・・」
「・・・そういう甘ったれなとこが前々から鬼殺隊に向いてねぇと思ってたんだよ!」
「そんな言い方・・・」

言い合って行くうちに段々雲ゆきが怪しくなる、実弥は私の言い分に相当怒っているようだ。それでも言い負かされるわけにはいかない、実弥は自分が一番正しいと思い込むところがある!

「テメェに鬼殺隊は無理だ、諦めろォ。それこそ隠でも堅気でもなって名前の言う“普通”が出来る男と行けばいいだろォ」
「私は実弥の恋人なのに・・・!ただ一緒に出掛けたかっただけなのに!実弥馬鹿!大っ嫌い!そんなこと言うなら別れるからね!」
「そうかァ奇遇だなあ、俺も嫌気がさしてたとこだ!別れたいなら勝手にしろォ」


目にぶわっと涙が溢れてくるのがわかる、耐えられなくなって風柱邸から逃げるように出ていったが実弥が追いかけてくることは無かった















やってしまった・・・。
最近は特に浮かれてたんだ、ずっと薄暗いところに居た私を救ってくれた実弥。鬼殺隊として頑張る事で彼に少しづつ認めてもらえるようになって、鬼の頸を切った勢いの興奮状態のときに告白しその日に返事も待たずままに致したのだ。
勢いでみたいなところがあったが彼は意外と誠実でそこからちゃんと交際に発展した。
言葉にはあまりしてくれなかったが大事にされてる自信はあったし、実弥が一人にならないように私も極力命は大切にしようと敵わない鬼からは情報収集のみにして逃げることを優先するように切り替えていったのだ。
それを甘ったれと言われて悔しかった、それこそ実弥に追いつくためにも勉学でさえも頑張ってきたのに・・・

追いかけてこないということはこれで本当にお終いなんだ、あんなに大好きだったのに終わりといものは呆気ないものだ。

胡蝶様は酷く美しい方だと聞く、容姿も心も
きっと私には敵いっこ無いし、私が実弥と一緒に居たところで噂にすらならない。良くて継子や師弟に思われるぐらいなのに……!!








・・・・







「元気が無いな」
「すみません冨岡様、せっかく稽古をつけてもらってるのに・・・。」
「時には休むことも必要か、休憩にしよう」

名前の日輪刀の色は青色で水の呼吸を使う。
継子と呼ばれるまでは実力は無いが柱である冨岡様には度々特別に稽古をつけてもらっている。
普段はとても厳しくて稽古中に気でも抜けば立ち上がれない程に打ち込まれる、水柱様に男女は関係ない。

「・・・・」
「・・・・あの、お茶でも淹れてきましょうか?」
「ああ、そうだな」

普段稽古に休憩などというものを入れないのか、冨岡様は稽古場の真ん中に何も言わずにずっしり座っていた。
お茶を淹れてきたが、この真ん中で二人で腰を下ろすというのはなんとも滑稽な風景だ。

「・・・冨岡様って恋人とか居ますか?」
「いない」
「そう、ですか」
「名前に恋人が居るなら大切にするといい、鬼狩りの命はいつ終わるか解らない」

知ってか知らずか、中々に的を射てくる忠告だな
確かに実弥も私も鬼殺隊として日々駆け回っている身だしいつ死んでもおかしくは無い。
こんな別れ方は絶対に後悔しか生まないはず

「冨岡様って空気読まないとこありますけど、的確ですよね」
「・・・俺は空気を読むぞ」
「ふふっ、休憩ありがとうございました!もう少し頑張ってみます!」

「鮭大根」
「はーい!今日は沢山作らせて頂きます!」

そう、私が水柱様に特別に稽古を付けてもらっているのは週に一度、食事係もさせて頂いてるからなのだ











冨岡様に見送られて門を出ると見慣れた傷だらけの彼が待っていた。

「え・・・実弥?」
「世話になったなァ冨岡、帰るぞ名前!」

手をぐいぐい引っ張られてその場を後にする、何が何だかわからずに冨岡様に別れの挨拶をすると

「名前、己が剣は誰の為に振るうのか。誰を守る為にあるのかよく考えるといい、もう甘えは許されない」
「っはい、ご心配おかけしました。」
「ッチ、行くぞォ」











「悪かった」

実弥が謝った、いや彼は結構常識人なので謝ってくれることは多々ある。でもこの謝罪はこの間の別れ話のことだろう。
風柱邸着いて早々にこちらには目を合わさずにだけど申し訳無さそうにしている

「実弥、私の方こそごめんなさい。求めてばかりいて努力を怠ってた。実弥に全部押し付けすぎてた」
「ん、あァ。」
「でも、他の女の人と甘味所に行って欲しくなかった。せめて一言…」

「テメェだって冨岡の邸に週一で通って飯作ってんだろぉがァ」
「!!」

私が胡蝶様のこと口にすると途端にまた怒ったような表情になる、確かに冨岡様のところに通ってはいるがそれは稽古が主な理由だ。実弥にも話していたし何ら問題ないと思ってた。

「冨岡から飯の話聞いたぞ」
「冨岡様は食事を作ると長く稽古を付けてくれるから……」
「飯は聞いてねェ、仲良く飯食ってんのは事実だろォ」

彼は今まであまり私に執着を見せなかったし、大事にはされてるけど“嫉妬”という感情をみせられたことが無かったから、こんな状況なのに胸が弾んでしまう。そっか、実弥もそれが嫌だったんだ

「稽古は、しかたねぇ。でも、あんま他のやつに女見せんな」

ぐっと引き寄せられ彼の鍛え上げられた胸に頭を埋める。実弥の匂いがして酷くどきどきする。
隊士辞めろとか酷いこと言われたけど裏を返せば彼の嫉妬だったのかもしれない。

「まあ、甘ったれは事実だからなぁ、隊士は辞めても良い。名前の代わりに俺が鬼の頸を斬ってやらァ」
「辞めないよ。実弥とずっと助け合いたいもん」
「はぁ、ったく、勝手にしろォ。その代わり普通の男は諦めろよ」











「それで!胡蝶様と口吸いしたっていうのは事実なの?」
「はァ!?んなわけねえだろ、馬鹿か」
「でも隠の人が言ってたよ…?」
「・・・あー、柱合会議の後に極秘の言伝頼まれて耳元で話したからそれだろォ」
「え!実弥、胡蝶様の耳元で話したの!?やだ!!」
「(こいつ……)」



風柱と恋人で今日も邸は騒がしい








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