「名前お願いっ!!」






ーーーガヤガヤとしているがお洒落なお店
目の前には個人で企業しているとう所謂“お金持ち”というエリート男性達

私は不本意にも合コンに来ている

「苗字名前です、会社の受付やっています」

自己紹介をし複雑な気持ちのまま席に着いた。
会社の同僚にツテでこのエリート達を集められたからと合コンに誘われて、最初こそ断ったのだけれど人数が揃わない!女の子を妥協したくない!と頼み込まれて已む無く合コンに顔を出した。

勿論、妥協したくない女の子に入れた事は嬉しいけど私が女を磨いているのはこの目の前にいるようなエリートとお付き合いしたいからというわけでは無くて…理由は単純、“好きな人”のためだ

「隣いい?」

人好きそうな笑顔をされて、ぎこちない返事をする。個人で企業していると言っていたこの人もコミニケーション能力は抜群で頭も良さそうだ。
綺麗な顔をした目の前の男性は忖度無しにカッコいいと思う。

それでも、私は思い浮かべてしまう。
計算も裏表も無い、想い人の太陽のような存在をーーー







「名前ちゃんって本当に彼氏居ないの?」
「居たら合コンなんて来れませんよ」

どうやら目の前の人にロックオンされたらしく、ずっと隣をキープされている。
同僚の頼みでもあるし無碍に出来ないので、受付嬢で養った他所行きの顔を向けた。

「なんか落ち着いてて良いよね、ガツガツしてないというか」
「そうですか?有難う御座います。」

当たり障りの無い返事をしているとまだ会って間もないというのに距離感が近くてうんざりする。

そう思っていた矢先に耳元に顔を近づけてきて小さな声で「一次会で抜けようよ」と言われて、ゾワゾワしてしまった。この人のコミュニケーション能力が抜群と思ったのはやっぱり噓だ、こんなに人との距離間を測れない人が成功しているなんて…なんだか信じられない。

「まだ始まったばかりじゃないですか」
「釣れないとこが、またいいんだよねぇ」

ウゲェ、と心の声が漏れてしまいそうだったけど必死で我慢した。
会社の同僚のメンツを潰すわけにはいかない…

当たり障りの無い会話をしながらその場を乗り切り、結局この人が私の隣から移動することは無かった。






「すみません、私の最寄りの終電早いのでそろそろ帰りますね」
「えっ、女の子みんなのタク代出すしもう一件行こうよ」

男性集団のリーダーと思われる男のその言葉に女の子みんなのテンションが上がっているのがわかる。でも誘ってきた友人も私の様子を見てこれ以上付き合わせるのは申し訳無いと感じ取ったのだろう、助け舟を出してくれた。

「確かに名前は明日早いって言ってたもんね!気をつけて帰ってね」

人数合わせという観点でいうと役目は果たせたのだろう、何食わぬ顔で私だけ帰ろうとしたら誰かに肩を抱かれた。驚いて顔を上げると一次会で私の隣から離れなかったあの男だった。
本当に嫌で嫌で仕方がなかったのに、周りからは一緒に抜け出すような雰囲気にされて大きな溜息を吐いた。
唯一誘ってくれた同僚だけが心配そうにこちらを見ている、多少強引ではあったけど行くと決めたのは自分自身だ。誠意を持って話せばわかってくれるはず。
そう上手く行くとも知らずに肩を抱かれたままその場を後にした。















「あの、ごめんなさい。私人数合わせだったので出会い求めて無かったんです。今からでも戻られた方がよろしいかと…」
「だーかーらー!そこが良いんじゃん、俺は金に目を眩ませない女の子に出会いたかったの!」

まずった、思ったよりもしつこい。
きっとこの人の成功は執念深いことが理由に違いない、人格を否定したいわけでは無いがそう思わないと目の前のこと人をビンタしてしまいそうなぐらいには頭にきていた。

するとふと肩が軽くなる。
ーーー視界の端に大好きな焔色が見えた


「失礼する!この手を離してくれないか!」


見知った声に大きく目を開いた。
なんでここに居るの……?

「誰だよお前!」
「俺はこの子の同僚の煉獄杏寿郎だ!」

「れ、煉獄くん・・・」

肩に置かれていた手を退けてくれて、引き寄せられる。状況に、ついていけない

「はぁ!?男いねぇって言ってたじゃん!」
「俺は苗字の恋人では無いが同僚だ!嫌がっているところを見過ごせたりしないな!」

煉獄くんの大きめの声に男が少し怯んだ瞬間にそのまま手を引かれて、歩き始めた。
後ろで何か文句を言ってるのが聞こえてきたけど煉獄くんは全く気にした様子も無く前に進む
状況に全く着いていけない私は「(明日同僚に謝らなければいけないなぁ…)」と場違いなことを考えていた。





「助けるのが遅くなってすまない」

無言で暫く歩き続けていたが、煉獄くんから口を開いた。
目の前の煉獄杏寿郎は私が受付をしている会社の営業マンで……私の”好きな人”、助けてくれたのは有難いが疑問ばかりが頭をよぎる。ここは会社から少し離れているしわざわざ来ない限り顔を合わせることも無い所

「正直助かった、ありがとう。でも…なんであんな所に居たの?」
「君の同僚が場所を教えてくれた、合コンに参加していたそうだな」
「うん、人数合わせで…」
「あのような場所に行くのは関心しないな!次からは欠席するといい!」
「なるべく行かないようにするね、でも付き合いだし…」
「駄目だ!」
「…なんで?」

なんで、なんて危険な目に遭った自分が良くわかっているはず。それでも煉獄くんの燃えるように熱い瞳を見ると聞かずになんかいられなかった。次に発せられる言葉を期待してしまう。
ドキドキと胸を高鳴らせながら煉獄くんの方を見ると優しく微笑まれた。

「好きだからだ。あの男に触れられてしまうぐらいならもっと早く言うべきだったな」

ーーー好きだから、その言葉が頭の中にエコーする。
さっきの男を上書きするように肩を抱かれ、煉獄くんの唇が落ちてくるのをスローモーションのように客観視していた。私何も返事してないけど…!って思っているのに落ちてくるその唇を避けるなんてことを、するはずが無かった。







同僚:『名前!その人しつこそうだけど大丈夫だった!?一応煉獄さんに連絡しておいたよ、どうしてもピンチの時は私にも電話してね!』

「(煉獄くん、どうやってそんなに早く来たの!?)」








fin






re:洋子様
素敵なリクエスト有難う御座いました!
夢主がお付き合いの合コンに行くことになって嫉妬する煉獄さん、との事だったんですが合コンに行ってから知るになってしまったので大丈夫だったでしょうか…?
趣旨と違かったら申し訳ありません、それでも楽しんで頂けたら幸いです。
これからも痺莫を宜しくお願い致します!







19:ゆくては果敢ない


Back

痺莫