「煉獄先生って恋愛とか興味無さそうですよね」

目の前にいる同僚から言われた何気ない一言について考える。俺は女人に興味がないのか。
現に恋愛についてはよく知らないし、俺の人生に関係の無いことだった。だが、なぜ苗字に言われるとこんなにも不甲斐無い思いになるのか。
考えても仕方のないこと、俺は彼女を見つめながらなんでも無いように答えた。

「恋愛をするために教師になったわけじゃからな!」
「あ、そうですよね…!」

苗字はそれだけ言い目を伏せる、何故彼女がこんなにも傷ついた顔をするのか。どうして俺は放っておけないのだろう。

「だが、父上と母上を見ていると夫婦はいいものだなとは思うな」
「確かに煉獄先生は好きな人が出来たらすぐ結婚してって言いそうですね」
「そうだろうか?恋愛をしたことが無いからわからない」

少し驚いたような表情をした彼女は携帯電話に目を移す。
ぽちぽちと器用に返事をしながら何か考えているようにも見えた。

「どうした?」
「本当、恋愛するために教師になったわけじゃないのにって思いますよ」

何か悩みがあるのだろうか、苗字はさっきから元気が無いようにも見えるな。目を伏せたり何か悩み事があるような素振りも気になってしまう。
恋愛について聞いてきたからにはそういった類の話だろう、嫌な予感がする。彼女に男が居るのか、それとも好いている男がいるのか。俺は恋愛について全くわからないが両親を見ればわかる、恋愛するということは素晴らしいことだ。悩み色々なこと経験することは決して悪いことではないと生徒にも教えている…なのに、何故彼女が”恋愛”で悩むことがこんなにも気に入らないのか。

「何があった、俺で良ければ話して見るといい」
「…あー、いえ、本当に個人的な事なのでなんでもないです!」

頬を染めながらぶんぶんと手を大袈裟に振る苗字を見て、言いようのない黒い感情が生まれる。

「うむ!今夜呑みに行くとしよう、話せば解決するかもしれない!」
「いやいや、大丈夫です!大したことじゃない…ので!」
「時間は何時まで大丈夫だ?遅くなれば代行で家まで送って行こう」
「煉獄先生、私の声聞こえてますかーー!」



























「それで、何があった」

ガヤガヤとした居酒屋では気を遣ってしまうだろうと思い個室の料亭を予約した。
目の前の苗字はじっと固まっていて、それがなんだか可愛らしくて少しだけ笑ってしまった。

「そう固まるな、相談に乗ろうと思っただけだ!」
「あ、あの……こんな素敵なお店来たことが無かったので緊張しちゃって」

確かに苗字を連れてくるのに気合の入った採択にはなったが、ここまで固まらせてしまうとは思わなかったな。だが愛い彼女を見ていると先ほどの黒い感情は何処かへ消え去ったように晴れ晴れとした気持ちだ。
普段から芯が強く、はっきりとした物言いの彼女にしては珍しく口籠っている。

「……この際だから言っても良いですか」
「なんでも言ってみろ!」

「私、煉獄先生が好きです。男性として!」
「…!」

よもや、まさか…。
頬をこれでもかと赤くした彼女は真っ直ぐにこちらを見つめてくる。俺は苗字のことをどう思っているのか…

「俺は、」
「煉獄先生が恋愛をするために学校に来てるわけじゃ無いことも、同僚や生徒にそんな感情を抱くことが無い人なのは重々承知です。でも…好きなんです。私の悩みはそれですよ。」

苗字の言っていることは的を得ていて、確かに俺は恋愛をするために学校にいるわけでもモテたいから教師をやっているわけじゃない。ましては同僚は仲間のような存在で切磋琢磨し成長する同志だ、恋愛に発展するなどはあり得ないと思っていた。だが…

「君の言う通りだ。だが俺は…苗字に好きだと言われてこの上なく光栄だと思っている。
まだ互いのことを深く知っているわけじゃないが付き合おう!男女交際の方だ!」
「嘘…でしょ」

俺の返答に驚いている苗字は可愛らしい、早く俺だけのもにしたいという欲がむくむくと膨れ上がっていく。

「愛いな、名前。これから宜しく頼む!」
「(名前は反則…)」

この感情の名前はまだわからないが名前と一緒にいればいずれわかることだろうと思い、宜しくと微笑むと彼女は真っ赤になりながらコクンと首を縦に振った。














1:新しい春にうかれて


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痺莫