「実弥さん、お呼びでしょうか」
「……名前」

ーーーー鬼が居なくなり、幾分かの季節が通り過ぎた。

時は穏やかに流れ残りの寿命をどう過ごそうかと俺にもやっと考える時間が出来き、一番に解決しなければならない事実に目を背け続けていたがようやく今日、心を決める。

「いつまでここに居るつもりだァ」
「いつまでって……私は元継子ですよ。実弥が出ていけと言わない限りずっとここに居ます!」




俺には幸せな未来など要らないと思っていた

「……名前には、幸せになってもらいてぇ」
「私は、ここに居れることが幸せなんです……!」

独り占めなんて真似、する予定なんてなかった

「俺ァ、二十五までしか生きられねぇよ」
「……っ」

手を伸ばせばすぐ触れられる距離にいるはずなのに、触れることができねぇ……。

俺が求めれば、名前はきっと受け入れるだろう。何度でも機会があったし、そうしようとすれば今すぐにでも求めることは出来る。
でもそれは、結果的に名前を独りにさせてしまう筈だ。

「まだ……わからないじゃないですか」
「お前があの戦いに参加しなくて、痣が出なくて良かった。俺はお前に生きて、生き続けて幸せになってもらいてェ」

「私も、実弥さんと戦いたかった!痣が出たってよかったのにっ」

無惨との戦いに参加させなかったのは俺の意思、俺は俺が死ぬよりも名前が死ぬ事のほうが何倍も怖かった。
わざと怪我をさせて、参戦出来ないようにしたことを名前はいつまでも俺に怒っている。

「堅気になって、幸せになれ。その為にお前を生かしたんだ」
「そんなの、勝手です……実弥さんはいっつも勝手!私は……私は生きるのも死ぬのも実弥さんと一緒が良い!」




子供のように泣く彼女を抱きしめられたらどんなに良いか
だが、要らないと思っていた未来。俺だってどうしても名前と一緒にいてぇんだ……。

「前言撤回します。私は出ていけと言われても出ていきません!ずっとずっと実弥さんの側にいます!」
「お前なァーーー」

「愛しているんです!!!」




その言葉に全身の動きが止まる。

「無惨戦に参戦出来なかったのも、勝手に独りで死のうとしたことも許します!だから……だから、命ある限り私と一緒に居てください……」

ーーーーまさか、こいつが俺を想う気持ちが……愛してるだんて、思いもしなかった。

忠義のある女、素直で真っ直ぐで俺だけを慕いひよこみてえに俺にばっか付いてくるしか脳が無かった。愛の意味わかってんのか……そう思ったが名前の顔を見た瞬間、そんな考えなど吹き飛ぶ

憎しみだらけの世界で、初めて守ってやりたいと思った女

「結婚する覚悟はあんのか?俺が死んでも、お前を誰かにやることなんて出来なさそうだぞォ」
「あります……一生涯、実弥さんだけです。出会った時からずっとずっと私は実弥さんだけなんですから」

迷いはある、一度手に入れてしまえば到底離してやることなんて出来やしねぇだろう。
でも、それでも……

「……俺も、愛してる名前。結婚してくれねぇか」

少し驚いたような表情をした名前こくりと頷いた。

堪えきれずに口付けを落とすと、彼女は真っ赤になりながら目を瞑り俺にしがみつく。
コイツを……名前を幸せにする。命ある限り、可能性なんて捨てちゃ駄目だな……あの小僧のことが過ったが、今は目の前の愛しい女に集中することにした。
 









15:手遅れの日々と知っていたのに


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痺莫