最近、実弥がどうもおかしい。
 親友のように仲良くしていた彼だけど、最近は遊びに誘っても断られるしSNSでは女の影があるようにも感じる。彼女が出来たなら出来たって言ってくれればいいのに、こういう時に素直じゃない男だなぁ…。
 ずっと仲が良かったのに、女が出来ただけで理由も告げられず距離を置かれるのは…傷つく。

ーーーそろそろ腹括って、実弥のもう一人の相方にでも聞いてみるか
スマホを取り出しSNS通話をかける

「もしもーし、小芭内君さ今日暇?」
『…暇ではない』
「暇そうだね、呑みに行こうよ!」
『ハァ、どうせ行かないと言っても無理矢理押しかけるつもりだろう』
「さすが小芭内君、正解!」


 通話の相手は学生時代から実弥と仲の良い友人の小芭内君、お互い実弥を介して仲良くしてるだけだったので二人で会うのは実は初めてだったりする。
 それでも気の知れた仲でもあるのは確かだし、小芭内君がインドア派だから仕事が終われば直帰しているというのも誘いやすくて助かった。

 …私は実弥のことずっと好きだった、でもこの関係を壊すぐらいなら親友の幸せを願った方が良いと本気で思っている。それなのに、こんな終わりになるなんて…友達の枠から抜け出す勇気が無かった自分への罰なのか、そう思わざるを得なかった。













「小芭内くーん!こっちこっち!」
「叫ばなくても、見ればわかる」

 相変わらず憎たらしい態度だなとも思うけどこれが小芭内君だから特に気になりはしない。ガヤガヤとした居酒屋で軽いつまみと飲み物を頼むとオブラートや建前という言葉を知らないであろう小芭内君は単刀直入に本題に入ってきた。

「それで用はなんだ、まぁ…どうせ不死川のことだろ」
「凄いね、何でわかるの?」
「この場に彼奴が居ないのが証拠だ」

 少し面倒くさそうにしているけど、彼が私の話をちゃんと聞いてくれようとしているのはわかる。意外と女の扱い心得てるんだよなぁ…

「実弥、最近遊んでくれなくてさ。彼女でも出来たのかなーって…」
「そんなの本人に聞けばいいだろう」

 ギクリと肩が鳴る。
 聞ければ、聞いてるよ…本人から聞く勇気が無いだけ
私が俯くと小芭内君は溜息を吐く。頬杖をついて苦笑いしているのがわかる。

「大体の事情はわかった。だが、不死川が他に女とは信じがたい話だな」
「他に女?」
「ちょっと待っていろ」

 小芭内君は徐にスマホを取り出すとどこかに電話をかけ始めた。

ーー「今夜、苗字と二人で呑んでいる。報告しておくべきだと思ってな」
ーー「なんでと言われても、誘われたからだ」
ーー「お前が遊んでくれないからと言っていたぞ」

 電話の内容からして、相手は絶対に実弥。最近は私の電話にも出なかったのに…やっぱり私が女だからだ。もうそれが答えのように感じて何も言えなくなってしまった、ズキズキと傷んだ胸を押さえている内に小芭内君は通話を切ると少しだけ楽しそうに笑う。

「さて、何分で来るかな」
「実弥も誘ってくれたの?」
「いいや、来るなよとは言っておいた」
「???」
「不死川も不器用な男なんだ、許してやってくれ」

 小芭内君が哲学的で全然理解が出来なく頭にずっと???が浮かんでいる状態だ。料理が来たのでつまみながら他愛も無い話に切り替わってしまう、結局実弥は来るのか来ないのかわからない状態のままでいた。









 店内で過ごし始めて30分程経っただろうか、ビールも既に三杯目であまりお酒が強い方では無い私は完全に頭の中が楽しくなってしまっていた。

「小芭内君はさ、彼女いないの!?」
「居ないし必要に感じない」
「まだ出会ってないだけで、運命の人が意外と居ちゃうかもよぉ?」
「ッフ、そうかも知れないな」

 憎まれ口だけどノリは良い、忖度の無い彼の言葉は聞いていて気持ちの良いものだ

「あっ、もしかして運命の相手って私だったり…イタッ!」

 ふざけて軽口を叩こうとした時に急に頭をガシッと誰かに掴まれる。
 あまりにも吃驚していたら頭上から見知れた顔が見えた

「実弥!」
「世話になったなァ、伊黒」
「30分もかかったのか、遅いな」
「ウルセェ、これでも仕事マッハで仕上げてきたんだ」

 私の隣にどかっと座る実弥はどこか機嫌が悪そうに見える。何か頼む?と聞くとぶっきら棒にビール、とだけ言いタッチパネルで自分で注文した。その様に凄く傷つく、もしかして私何かしちゃた?私のせいで彼女と喧嘩したとか?
 いつもの軽快なノリが無くて戸惑っていると少し苛ついているような様子の小芭内君が口を出した。

「急に来てその態度はあり得ないな」
「ウッセ、お前が電話してきたんだろ」
「下らない駆け引きに俺を巻き込むな」
「…なっ!」

 駆け引き?小芭内君の言葉にまた疑問が生まれる
 さっきから、何が言いたいのだろう

「どうせ苗字の気を引きたくて素気なくしていたんだろ、長年の恋心とは厄介なものだな」
「お、お前っ!」
「…恋心?」
「コイツは、苗字が好きで押して駄目だったから引いているんだ。馬鹿だろう?」

 実弥が、私を好き?恋心?
 小芭内君は何を言っているんだ、実弥の方を向くと真っ赤になりながらそっぽを向かれた。その態度に希望がむくむくと膨れ上がっていく

「え、実弥…私のこと好きなの?」
「そうだ、不死川が学生の頃から苗字が好きで更に今、拗らせてる」
「伊黒ォ、てんめェ…!」
「俺とでさえも二人きりは許せないぐらいには君を好きなようだな」

 私も実弥も小芭内君に言葉に真っ赤になりながら黙っていると実弥は急に立ち上がり、私の手を取った。

「表、出ろォ」

 喧嘩でもすんの?と言いたくなるような態度に少しだけ笑ってしまう。どうして私達はこんなに遠まわりしたのかな…それもまぁどうでもいっか!手を引かれながら確かな幸せを噛み締めていた。










re:みすず様
素敵なリクエスト有難う御座いました。
みすず様、お祝いのコメントも大好きというお言葉も凄く嬉しかったです!!
わざと嫉妬させるつもりだった実弥のはずが結局嫉妬心丸出しの実弥になってしまいました…嫉妬させるを成功させているので(?)目を瞑って楽しんで頂けたら幸いです!
これからも痺莫を宜しくお願い致します。



17:ハッピーエンドの匙の上


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痺莫