夕日の見える浜辺で微笑み合う、二人。
まるで映画のワンシーンみたいにゆっくりと重なっていく影。

私はただただお似合いの二人を見つめることしか出来ない
ーーー実弥、どうして…



「っ!……はぁ……はぁ」

恐ろしい夢を見た、
バクバク…と音が鳴る心臓を抑えながら隣を見ると子供のようなあどけない寝顔が目に入る。よかった、ちゃんと夢だった。
恋人が他の人といちゃついてる所を見て冷静でいられる人などいないだろう。
ましてや実弥と胡蝶先生だなんて…タチが悪い。

今はもう卒業しているが私は元々は実弥の受け持つクラスの生徒で、その在学中ずっと”不死川先生と胡蝶先生が付き合っている”という噂があったのだ。
在学中に真相を教えてもらえることは無かったが、卒業してから猛アプローチをして今の関係になれた。だからこそ度々不安になってしまう、今でもきっと噂されているだろう…”不死川先生と胡蝶先生”、二人はまだ職員室の席が隣同士なのかな?実弥は胡蝶先生のこと女として見てなかったのかな?

私ばっかりが好きで、猛アプローチしてようやく付き合えたのだから嫉妬や束縛なんて下らない感情で実弥に嫌われたくない。この不安は絶対封印しなきゃ…!
体育座りの体勢で膝をギュウっと抱きしめた。大丈夫、大丈夫。今の恋人は、私なんだから。



「……どうしたァ」
「……!」

悪夢の苦しみから耐えていると実弥がスリスリと甘えてきた。
少し寝ぼけているんだろう、その可愛らしい姿に少しだけ癒される。

そうしている内にぼんやりとしていた実弥が少しづつ覚醒して、その顔は心配そうな表情に変わっていった。

「顔色が悪ィな、何があったァ」
「怖い夢を見たの…」
「そうかぁ、そりゃあ怖かったな」

前からそっと抱きしめられて頭を撫でられる、それだけで先程まで抱えていた不安はみるみる解消されていった。実弥パワーすごい!

「ん、ありがと実弥。もう大丈夫」
「いや、まだ駄目だろォ」
「ふふっ、くすぐったいよ実弥」

頭を撫でていた手は次第に脇腹の方にやってきて服の中から素肌を艶かしい手付きでさすってくる、寝起きでちょっとエロい気分になってるに違いない。それでも求められることが嬉しくて実弥の首筋に擦り寄った。

「アー…名前、不安があるなら今のうち言ェ」
「え?」
「何か、悩んでんだろ。俺のことで…」
「……実弥」

手を止めこちらの様子を伺う実弥に申し訳無いような気持ちになった。正直に言うと答えはイエスだし、あの悪夢もこの不安な気持ちを仕舞っていたからこそ見た夢だろう。実弥に私の幼稚な感情を見せたくなくて黙ると、優しくキスをされた。

「いい加減、心開いてくんねェか」
「えっ!実弥にしか心開いてないぐらい大好きだよ」
「…ったく、不安や不満もねぇって?」
「ああー、あの…えっと」
「あんだろ、不安」

そうか…彼ならきっと受け止めてくれる、どうしてそんな簡単なことに気付けなかったんだろう。私は思っているよりも彼を信用出来ていなかったのかもしれない。
心の中で謝りつつ私は口を開いた

「実弥と胡蝶先生がイチャついてる夢みた…在学中も噂になってたし…」
「ハァァァ!?」

思いがけない大きな声に一瞬吃驚してしまう、やっぱり…言うべきじゃなかったか…

「そんなんで不安になんなァ、胡蝶とは何もねェし何かあったこともねェよ」
「何かあったことも…ないの?」
「あるわけねぇだろ、馬鹿かテメェ。学校で恋愛出来る程、教師は暇じゃねえんだよォ!」

仏頂面の実弥にぼこっと優しく殴られて、痛く無いけど少しだけぷぅっと口を膨らませると実弥は少しだけ笑ってくれた。

「……俺に夢中な可愛い生徒がいたんだが、ソイツが他の同級生の男に目移りしねぇかの方が心配だったがなァ?」
「…それって私?」
「っは、どうだか」

私ばっかりが好きだと思ってたけど、思ったよりも実弥は私のことを気にしててくれたって自惚れていいのかな?嬉しくてドキドキして私の方から実弥に抱き付くけば、そのまま流れるように押し倒された
さっきまでのエロい雰囲気は終わったのだとばかり思っていたけど、実弥の手は私のパジャマの中を弄ってくる。


「私のことガキだって思わなかった?」
「ガキとこんなこと出来ねぇだろォ…名前、しようぜ」
「…うん、いーよ」

ーーー明日は良い夢が見れそうだなぁ












re:藤原紀子様
素敵なリクエスト有難う御座いました。
未だに実弥に甘やかされる夢を書いたことが無かったので途中迷走してしまったのですが、何とか書き上げられました…!甘く、出来たでしょうか?

楽しんで頂けたら幸いです!
これからも痺莫を宜しくお願い致します。




3:スパイスは愛と夢


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痺莫