「煉獄君、おはよう」

会社の受付嬢としては珍しく、特別美人ではないであろう苗字は高嶺の花ではなく”親しみやすく可愛い”それが周りからの評価だった。
彼女を可愛らしいと思う気持ちにおいては同感する者は多く”受付嬢”そして”親しみやすい彼女”は競争率が高いように思う。皆に慕われる彼女を俺だけのにしたい、最近はそれをよく考えていた。
特に見た目等は女性を選ぶ上で重要な判断ではないと自負しているが、苗字はほんわかしていそうで芯が強く見た目や清潔感にも多いに気を遣っている。そういった努力の面を見ても魅力的だった。

「おはよう!良い朝だな、今日も1日宜しくお願いする!」
「ふふっ、朝から元気を有難う。」


彼女とはよく話す方だ、飯に誘えば喜んでと言ってくれるし少なくとも俺のことを嫌いではないのは確か、次こそ押しの一手か…俺は恋愛には疎いし駆け引きもわからない。だからこそ彼女の関係は一歩づつ歩んできた。

そうだな、今週末に呑みにでも誘おうか。
最近の苗字との関係は良好で想いを伝える時期を模索しているところだった。












「名前お願いっ!!」


昼休みの食堂で彼女を見かけると何やら同僚にお願い事をされているようだった、芯が強いが周りの人間を大切にする苗字のこと。断れなかったのだろう。彼女が渋々了解をすると同僚は席を立った、その隙を見計らって隣の席に着く。


「どうした、問題事だろうか」
「煉獄君…違うの、大した事じゃないよ」
「そうか!何かあるようだったら頼ってくれ」
「ありがとう、」

ありがとう、と言う彼女の顔が少しだけ暗い。
元気が無いというよりは後ろめたい、罪悪感のような表情にも感じる。気にはなるが深く追求するのは良くないだろうと思い話題を変えると彼女の顔は少しだけ明るさを取り戻した。



昼餉の時間を彼女と楽しく過ごせたからかヤル気が出て午後の仕事に集中しすぎてしまった。大幅な残業をしてしまっていた事に気付き、急いで退社する。
今日は午前中に営業の仕事を終わらせてしまったので午後は溜まっていた事務作業を処理していたのだが今の時期は新入社員の面倒を見なくてはならなく、忙しい。事務作業が後手後手に回ってしまっていたのだ。
だがそれも全て終わった、週末は心置きなく苗字に声をかけられそうだ。

ーーーん?
携帯に連絡が入っている、それも彼女の同僚から

「(珍しいな)」

昼餉の時の様子を思い出しても良い予感はあまりしない、急いで携帯の画面を開くとその内容に驚愕する。
…成程、彼女はだからあの時後ろめたい顔をしていたのか。

場所を確認すると烈火の如く足を走らせる。
今この時も、苗字が他の丁年と一緒にいると思うと…許せないな。こんなことになるぐらいなら、もう少し早く気持ちを伝えておくべきだった。
己の過ちを悔いながらも、俺の足は彼女が”合同コンパ”をしていると言う場所に向かっていた。














ーーー見つけた。

合同コンパが行われていた場所に向かう途中で苗字を見つける。目の前の彼女は他の男に肩を抱かれていた。
その行為に頭に血が昇る、冷静に…などにはなれなそうだ。気がつけばもう手が伸びていた。

「失礼する!この手を離してくれないか!」

早く俺で上書きしてやりたい、そんな思いから彼女の手を引き肩を抱く

「俺はこの子の同僚の煉獄杏寿郎だ!」
「れ、煉獄くん・・・」

苗字は俺に肩を抱かれながら少し安心しているように見えた。この男に無理矢理…もし俺がこの事を知らずにいたらと思うとゾッとする。
少しの押し問答をし、俺は彼女の手を引く。

駅までの道を無言で歩きながら考える
腹は立つが、彼女にも何かしらの理由があったのだろう。
俺には口を出す権利や立場も無い、だからこそ彼女の恋人になる一歩を踏み出さなければならない。もう二度とこんな不安を抱かぬように


「助けるのが遅くなってすまない」


彼女の手を強く握り、想いを伝える決意をした。









re:洋子様
目線のミス、申し訳ありませんでした!
杏寿郎sideも書かせて頂いたのですが、如何でしょうか…?二つ目線があると書くの楽しいです(別目線大好きなので!)
楽しんで頂けたら幸いです。
これからも痺莫を宜しくお願い致します。





19.5: ゆくては果敢ない


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痺莫