最初の印象は”この人の恋人になったら苦労しそうだな”ということ、一目見た時からその恐ろしい程綺麗な顔に驚いて気づいたらそう思っていた。
授業の様子とか人やなりではなくて私は第一印象でそんな失礼なことを考えてしまう。

「宇髄先生〜!」

放課後に廊下から聞こえてくる女の子達のキャッキャした声であながち間違いではないか、と溜息を吐く。この先生はどこまでも…モテるし自分でも充分にその魅力を理解している。


そんな悪態をつきながらも、私だって彼に惚れている一人だ。
この世のものとは思えない美しさに惹かれてしまった、考えないようにしていても目を瞑れば宇髄先生が浮かんできてしまうほど重症。
そう、私は美しいものが大好きなのだ。それこそダスタフクリムトやルノワールまで幅広い範囲で絵画が好き、美しいものが好き。
それお陰で美術部に入ったけど、その顧問が宇髄先生なのにも吉か凶か…


「なんだぁ、名前元気ねぇな!」
「……宇髄先生」

美術室で一人デッサンをしていると肩をガシッと組まれて顔を覗かれる。先ほどまで女子生徒に囲まれていたけど撒いてきたのかな。近づけられた美しい顔にたじろぎながらもこんな間近で見れるなんて機会はそうそう訪れない、チラチラと盗み見をしてしまう。

「本当名前は好きだなぁ…俺の顔が」
「美しいので」
「この派手に美しい顔に抱かれてぇと思うんだろ?」
「宇髄先生…チャラい」

この人は本当に教師なのか疑いたくなる時がある、普通生徒に抱かれたいかなんて聞く教師はいないと思う。この美しい顔が無ければ犯罪だ
それでもこの美しい人が言うから犯罪ではなくなってしまうのも事実、好きな人にそんな風に言われて浮かれてしまう…真っ赤になった顔で宇髄先生を見るとばっと視線を逸らされた。え、なんで…

「っま!卒業するまで待っててやるから、その間他の男に抱かれるなよ」
「……」

軽く頭をチョップをされてその箇所を自分で撫でる、甘いその行為に静かに目を瞑り余韻に浸った。
軽口な冗談だってわかってる、期待しちゃ駄目。今だって目を逸らされたし近付きすぎたと思われたんだ。それに宇髄先生は女慣れしてるし少し気に入った生徒や女性全てにこんな態度に違いない。

「(今日はもう帰ろ…)」

これ以上ここにいても深みに嵌るだけ、宇髄先生に小さくお辞儀をしてその場から離れようとすると後ろから抱きしめられた。

「う、宇髄先生っ!」
「つれねぇな、つれねぇよ名前。誰も居ないんだしいいだろ」

確かに部活動の時間はまだあるし帰るのは早いけど…そもそも美術部はかなり自由度が高くて殆どの生徒が自宅や外で作業したりして美術室なんて来やしない。
……今そんな余計な事を考えないと緊張で倒れてしまいそう、なんで私は抱き締められてるの?

「離して、下さい」
「んー、じゃあなんで美術室に来たんだぁ?」
「それは…」

…やっぱり、見透かされてた。ここに居れば絶対に宇髄先生に会えるから。
美術部員が入り浸らないのに私がここに来る理由はただ一つ、宇髄先生に会いたいからで。
抱きしめられてるのも見透かされてるのも恥ずかしくて全身が真っ赤になっているのがわかる。

「先生、意地悪…」
「いいな、エロいその台詞」
「馬鹿…」


居た堪れなくなって顔を両手で隠すと首筋に柔らかい感触が当たった、宇髄先生の唇だ。その艶かしい唇は私の首筋にチュッと音を立てた。
なんで、こんなことするの…。こんなことされたらどんどん好きになっちゃう。
普段からスキンシップの多い先生だなとは思っていたけどこれは流石にやりすぎだと思う。真っ赤な顔で振り切ろうとしたらそのまま優しく頭をぽんぽんと叩かれた。

「何考えてんだか知らねぇけど、俺は派手にお前に惚れてるからな」
「へっ……!?」
「くくっ、間抜け顔」

抱きしめられていた体勢だったけど離されて正面を向けられる。
今、なんて…本当に…?また冗談じゃない?

「入学当初から派手に惚れてる、名前にな」

返事もしないままに口付けされる、フレンチなキスではなくてディープなやつ。
状況に全然ついていけない、脳みそ溶けちゃいそう。

「んぅ…ふ…っ」
「駄目だ、卒業まで待てねぇな。付き合おうぜ」
「いやっ、教師と生徒だよ…!」
「教師と生徒、派手で良い響きじゃねぇか!決まりだな!」

待って、良いって言ってないけど…!
破天荒だと思ってたけど、ここまでとは。“恋人になれば苦労するだろう”でも、こんな苦労だったらアリかななんて思ってしまった。



















「なんで、私なの?」
「そりゃあ男ならお前みたいな物静かだけど中身はエロそうな女に惚れるもんだ」
「えぇ…」
「オイオイ…引くな引くな!キッカケなんざ些細なもんって事だよ。」


それは、私にもなんとなくわかる。キッカケは美しい顔だったけど結局はその生き様に惚れたんだ。
予測出来ない未来に少しだけ胸がぎゅうっとなるけど今先生が私だけを見てくれる、それだけでこの先も頑張れそうだなと先生の胸に顔を埋めたーーー












re:匿名様
素敵なリクエスト有難う御座いました。

宇髄先生難しいですね、でも書くのが楽しくて一気に仕上げられました!楽しんで頂けたら幸いです。
これからも痺莫を宜しくお願い致します。






21: 現実当否のフレイムテール


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